督脈について『臓腑経絡詳解』より

臓腑経絡詳解　巻之五

○奇経八脉

督脉　　任脉　　衝脉　　帯脉
陰蹻脉　陽蹻脉　陰維脉　陽維脉
二十七難の本義に曰、十二経者、常脉也。奇経八脉は則ち十二経に拘（かかわら）ざる故に奇経と曰う。
奇は正に對して言う云々。

奇経督脉中行の大槩

○楊玄操が曰、督の言（こと）為（た）ること都也。云々。督脉は奇経八脉の其の一にして脊椎の貫て背部の中行と為り、諸々の陽脉の都綱たれば也。其の経の発する子宮胞絡に生ず。胞絡は血室也。蓋し督任衝の三脉俱に胞宮の内に起りて、督は背に行き、任は腹に行き、衝は腹に流れて腎経に並ぶ。實は胞宮の惟一の血脉也。其の腹に行き、背に行くを以て、任督衝の三名を分かつ。天地の間、渾然たる一氣にして、南方を以て午と云い、北方を以て子と云う。午は陽位、子は陰位として、陰陽南北の名儀を分つ。人の任督亦た猶此の如し。
胞宮一の血脉にして背の陽に在る者を督と云う。腹の陰に在る者を任と云う。實は一つにして二となれり。實（まこと）に天地の子午、人身の督任一源にして二岐。以て合すべく、分つべき者也。故に『十四経発揮』に曰く、任と督、一源にして二岐と云々〔一源は子宮胞絡を云。一説に会陰穴とは誤りなり〕。
又、曰、夫れ人身の任督が有るは、猶天地の子午有るが如し也。人身の任督は腹背を以て言い、天地の子午は南北を以て言う。以て分つべく、以て合すべき者也、云々。

【督脉の図】あり。『臓腑経絡詳解』を参照のこと。

○難経二十八難に曰く、督脉は下極の腧に起こり、脊裏に並びて上りて風府に至り入りて脳に属す〔『十四経』脳に入るに作る〕。『甲乙経』に曰く、巓に上りて額に循り鼻柱に至る。陽脉の海也〔『十四経』陽脉の海に属す也に作る〕。

［起］　経脉の始めて発起する源の謂いに非ず。外に浮ぶ所の脉起也。其の源は任と俱に子宮に起こる者也。
［下極］　前陰後陰の間、俗に云うアリノトワタリ。竪（たて）に流るる両筋の間、手を以て推すときは則ち深く䧟（くぼか）なる所、即ち会陰の穴と名づく。会陰は任脉の本穴とす。然れども之に因りて之を考うるときは、則ち疑うらくは会陰は督の本穴ならん欤。『十四経発揮』を按するに下極の腧は両陰の間、屏翳（びょうえい）の處也〔前陰後陰の間を屏翳とするを以て云〕。屏翳、両筋の間を簒（ぼ）と為す〔簒（ぼ）は傳寫の誤り也。當に纂（さん）に作るべし。纂は説文に逆して奪い取るを曰うと。蓋し此の所は二便の爭うて逆して奪い取るの地なり〕。簒の内深き處を下極と為す〔二の簒の字、皆な當に纂に作るべし。一に曰う両筋は當に両陰に作るべし。最も可也。〕。
［脊裏］　背脊の裏を云う。人身の脊骨、凡て二十一椎有り。椎は骨節也。項髪の下に小椎三椎有り。又、二十一椎の終わり、龜尾の一節、此の四つを除きて脊椎二十一椎とす。合するときは則ち都て二十五椎とす。

○督脉は下極の腧、会陰の分に起こり〔源は胞宮に発して、外脉は此に起こる〕、此れより後に流れて、脊骨の終わり、長強の穴を歴、長強より脊骨の裏に並びて、直（ただち）に上行して腰兪〔二十椎の下、龜尾の上にあり〕、陽関〔十六椎の下〕、命門〔十四椎の下〕、懸枢〔十三椎の下〕、中枢〔十椎の下に在り。此の穴『十四経発揮』に缺（か）く。氣府論の次註に出たり。〕、脊中〔十一椎の下〕、筋縮〔九椎の下〕、至陽〔七椎の下〕、霊臺〔六椎の下〕、神道〔五椎の下〕、身柱〔三椎の下〕、十穴を経（へ）〔十四経に所謂る身柱の穴より左右に分れて、足太陽の第二行風門の穴に過るとする者は誤り也。『甲乙経』に風門は足太陽・督脉の会と云うを以て此の如く註解を為す。然れども、経に於いて此の行無し。督の脊を行く者、直行にして支別無きなり。〕、身柱より陶道〔一椎の下〕を大椎〔一椎の上〕を循り、大椎より直（ただち）に上行して後髪際に入り、瘂門〔瘂門は後髪を入ること五分に在り〕に至り、風府〔風府は瘂門の上五分〕に行き、風府より枕骨の裏に入りて脳に属し〔枕骨は人仰むき臥すときに頭の後（しりえ）の枕に當る所の大骨を云。此の大骨之内は即ち脳海也〕、出て脳戸〔百会の後四寸五分〕、強間〔百会の後三寸〕、後頂〔百会の後一寸五分〕、百会〔前髪際を入ること五分〕、前頂〔前髪際を入ること三寸五分〕、顖会〔前髪際を入ること二寸〕、上星〔前髪際を入ること一寸〕、神庭〔前髪際を入ること五分に在り〕、十穴を経て額に循り下り、両眉の間を下りて鼻柱の上端素髎の穴に至り〔素髎は鼻の頭の推して肉の解る中にあり〕、素髎より人中の水溝の穴に入り〔人中は鼻の下、口の上。俗に云ハナノミゾ也。鼻を天門とし、口を地戸とするが故に、此の所を呼んで人中とす。水溝は人中の中、鼻と上唇の赤肉との中央に有り。〕、上唇の赤白肉の際、兌端の穴を循り〔兌端は上唇の赤肉の際、白肉の分に有り〕、兌端より上唇の内に入り、上歯の縫中齗交の穴に至りて終わる也。
以上、皆な背頭の陽分に行きて、諸々の陽脉の都綱たり。是を以て陽脉の海と云うなり。

○此の督脉の背の中央を流れて上歯に至る所の二十八穴の繋る者を以て、註解を為す。其の餘、骨空論に載せる所の督脉の支別なる者は、茲（ここ）に略して之を挙げず。且つ督脉生ずる所の病、又之を略す。再び奇経八脉の全篇を見わさんことを欲するの志あるのみ。左の任脉も亦た此の例に倣え。

※【素髎・水溝・兌端・齗交の図】あり。『臓腑経絡詳解』を参照のこと。