『按腹図解』自行按腹図解より

自行按腹とは

自行按腹とは、自分自身に按腹施術を行うことです。私自身も臨床で按腹を行うことはありませんが、自分自身には寝る間際によく行っています。それでは本文を読み進めていきましょう。

『按腹図解』自行按腹図解※画像は『按腹図解』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※本文は盛文堂 漢方醫書領布會 発行の『按腹圖解』から引用していますので、京都大学付属図書館のものとは若干の違いがあります。

※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『按腹図解』の自行按腹図解

書き下し文・按腹図解 

自行按腹図解

平生、暇(いとま)あるときは自身随意に此の術を行うも太甚(はなはだ)よろし。更に人に作(なさ)しむるに異なる事なし。
然れども臨臥(ねしな)のとき、或は平旦などは殊によろし。

平素、主人勤めなどの人、或いは読書勤学の人、或いは労役過多の人、或いは優遊安逸の人、唱歌・謡曲・浄瑠璃など嗜む人、大酒大食する人、魚肉を嗜む人、持斎の人、工道など職業に根気をつめる人、貧淫の人、昼夜脆坐する人、思慮工夫を凝らす人、みなこれ元氣溜滞し易し。

又は娼婦冶郎(やろう)などは非理なる勤めを致ものなれば、別して氣血常道を失て病患生じ易し。常に此の術を自修して病患を未だ発(おこらぬ)前(さき)に防ぐべし。

自身に按腹を行うことの大事

自分自身に施術を行うことはとても大切です。「醫不病」と『素問』平人気象論にあるように、常に医は病まないために自身をメンテナンスしておく必要があります。
本章でとくに興味深いのは「臨臥のとき、或は平旦などは殊によろし。」と、自身の治療を行うに適した時間をしている点です。

非理の仕事を行うことで生じる異常

本文には「非理なる勤を致ものなれば別して氣血常道を失て病患生じ易し。」という病理が示されています。『按腹図解』では、「娼婦冶郎」がその職業として記されいますが、現代では不適切な表現ですね。
大事なのは「非理なる勤」を本質的に理解することです。このようにみれば「娼婦冶郎」だけが「非理なる勤」ではないことがわかってくるはずです。
そしてさらに大事なことが「非理なる勤」によって、「氣血常道を失い」易く、それによって病態化しやすいということです。この点は臨床家にとっては重要な話になるはずです。

原文 按腹圖觧 自行按腹圖觧

■原文 按腹図解 自行按腹圖觧

平生暇あるときは自身随意に此術を行ふも太甚よろし。更に人に作しむるに異なる事なし。然れども臨臥のとき或は平旦などは殊によろし。平素主人勤などの人、或續書勤學の人、或勞役過多の人、或優遊安逸の人、唱歌謡曲浄璢璃など嗜む人、大酒大食する人、魚肉を嗜む人、持齋の人、工道など職業に根氣をつめる人、貧淫の人、昼夜脆坐する人、思慮工夫を凝す人みなこれ元氣溜滞し易し。又は娼婦冶郎などは非理なる勤を致ものなれば別して氣血常道を失て病患生じ易し。常に此術を自脩して病患を未彂前に防べし。

引き続き仰臥位における施術の説明「仰人療術図解」です。

『按腹図解』の自行按腹図解

書き下し文・按腹図解 

自行按腹図解

図のごとく仰臥し、まず心を鎮め、津液を嚥下(のみくだ)し、呼吸を斉(ひと)しくし、
まず胸上より臍上まで左右の掌にて循拊し、
さて面部を洗浴する如く摩撫し、両耳前後骨・眉稜骨(びりょうこつ)・鼻柱を動揺(うごか)し、さて両手掌にて須臾(しばらく)両耳竅を塞ぎ、また両手掌にて両眼を推圧(お)し、
鼻準(はなのさき)を強撮(つよくつまみ)みて、暫く鼻息を息(とめ)、
夫れより頭頸より肩胛(かた)臑肘(かいな)臂(ひじ)腕・手背(てのうら)手掌(てのひら)悉く解釈し、扨左右の手を背腰へ回し、手の及ぶ程、背椎(せきずい)背腰(はいよう)の大筋を解釈し、又、腰・臀・外股(そとのこ)・内股(うちのこ)・膝臏(ひざほね)・膝膕(ひざのおりかがみ)・委中・承山・外脛(がいけい)三里、内脛(ないけい)三陰交、絶骨、跟骨、脚面、湧泉、然谷、五指爪甲(つめぎわ)、細かに解釈し調摩し、
胸肋を左右に分排し、両章門を推圧し、両横側を抅引し不容より天枢まで推下し、心下胃腑の上を良久(ややひさ)しく推圧し、また天突辺より中脘・下脘辺まで軽々摩撫(まぶ)循下して手を収むべし。

按腹の前にすべきこと

「まづ心を鎮め津液を嚥下し呼吸を斉しうし」

按腹するにおいて、まず心を鎮めること、すなわち精神を収めることから始めます。これは当たり前のように見えますが、実に重要なことです。次いで「津液を嚥下し、呼吸斉し」くする…と、按腹とは無関係にみえる手続きを踏みます。

津液は内丹術においては、玉液とも称します。(東洋医学における津液とは少しニュアンスが異なるかもしれませんが)この津液を呑み下し、呼吸を調える…と、火と水を調整・コントロールする準備を調えます。

呼吸をコントールする

「鼻準を強撮みて暫く鼻息を息」と、按摩・按腹とは関係のなさそうなプロセスが入ります。しかし按腹を行うが故に呼吸の力を利用するべきでもあります。

按腹、すなわち腹部(背部)を対象とする手順のみを抜き出すと以下のとおりです。

「胸上より臍上まで左右の掌にて循拊し」
「扨左右の手を背腰へ囬し手の及程背椎背腰の大筋を觧釈し又…」
「胸肋を左右に分排し、両章門を推壓」
「両横側を抅引し、不容より天樞まで推下し」
「心下胃府の上を良久しく推壓し」
「また天突辺より中脘下脘辺まで輕〃摩撫循下して手を収む」

この記述のなかにも、太田氏がみている治術観が感じられるようです。

鍼道五経会 足立繁久

原文 按腹圖觧 自行按腹圖觧

■原文 按腹図解 自行按腹圖觧

圖のごとく仰臥しまづ心を鎮め津液を嚥下し呼吸を斉しうしまづ胸上より臍上まで左右の掌にて循拊しさて面部を洗浴する如く摩撫し両耳前後骨眉稜骨鼻柱を動搖しさて両手掌にて須臾両耳竅を塞ぎまた両手掌にて両眼を推壓し鼻準を強撮みて暫く鼻息を息夫より頭頸より肩胛臑肘臂腕手背手掌悉く觧釈し扨左右の手を背腰へ囬し手の及程背椎背腰の大筋を觧釈し又腰臀外股内股膝臏膝膕委中承山外脛三里内脛三阴交絶骨跟骨脚靣湧泉然谷五指爪甲細に觧釈し調摩し、胸肋を左右に分排し両章門を推壓両横側を抅引し不容より天樞まで推下し心下胃府の上を良久しく推壓しまた天突辺より中脘下脘辺まで輕〃摩撫循下して手を収むべし。

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