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母乳が出ない…産後にも按腹
本章では「乳汁不出」つまりは“母乳が出ない”という事態の鑑別を記しています。母乳が出ない…これは由々しき事態です。今であれば粉ミルクで授乳できますが、当時はそんなものはありません。なんとしてでも、母乳の出を良くしたいのです。
その一つの治術として、按摩があります。母乳マッサージは今でも産後ケアの一つに伝えられていますね。
※画像は『按腹図解』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※本文は盛文堂 漢方醫書領布會 発行の『按腹圖解』から引用していますので、京都大学付属図書館のものとは若干の違いがあります。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『按腹図解』の乳汁不下療術図解
書き下し文・按腹図解
乳汁不下療術図解
乳汁不下(いでざる)に種々の差別ありといえども、其の大概四つあり。
一は乳根凝結し、乳房発熱(ほめき)青筋緊張(きつくはり)て出で兼ぬるもの。二三次療すれば快よく出づるものなり。
二は外形は勢いよくみえ、乳根に凝結すこしもなく、乳房発熱(ほめき)なく、青筋薄きものは出でず。療して効なし。
三は乳根凝結なく、乳房濡慢(なんまん)無熱(ほめきなく)青筋隠れて見えざるものは、療すれば倍(ますます)出でぬようになる。かならず療すべからず。
四は外形は勢いなく、乳房乾燥(かわき)青筋微(かすか)なれども少しは見(あら)われ、乳根に小盃(さかつき)を伏せたる如く根柢(ねもと)あるもの、程よく療するときは能く出づるものなり。
故にこの四道を熟診して療治すべきなり。
乳汁不出の鑑別
本書の良い点は、ひと口に「母乳の出を良くする」といっても、体質の別があることを指摘している点です。按摩(母乳マッサージ)が適する体質は一の乳汁不出です。いわゆる実証の乳汁不出ですね。
二・三・四は見てのとおり虚を主とする証です。四は虚の中に実を交えており、この実を上手く処理すれば母乳が出やすくなる、と太田氏は説いています。
残念な点は、二・三・四の虚証に適した治法を案内していないことです。虚(陰虚・血虚)を改善すれば、母乳は出るようになるのです。この点、虚を補う(とくに陰分)という治法は按摩にはないのかもしれません。それだけに鍼治・漢方を勧めておくと、本章の内容もグッとよくなるのに…と残念に思うところです。
次の段落「乳汁不下療術(の実践編)」に続きます
原文 按腹図解 乳汁不下療術圖觧
■原文 按腹図解 乳汁不下療術圖觧
乳汁不下に種〃の差別ありといへども其大概四つあり。一は乳根凝結し乳房彂熱青筋緊張て出兼るもの二三次療すれば快よく出るものなり。二は外形は勢ひよくみえ乳根に凝結すこしもなく乳房彂熱なく青筋薄きものは出ず療して効なし。三は乳根凝結なく乳房濡慢無熱青筋隠れて見えざるものは療すれば倍出ぬやうになる。かならず療すべからず。四は外形は勢なく乳房乾燥青筋微なれども少しは見われ乳根に小盃を伏たる如く根柢あるもの程よく療するときは能出るものなり。
故にこの四道を熟診して療治すべきなり。
以下は乳汁不出への按腹・その実際が記されている段落に入ります。。
『按腹図解』の乳汁不下療術図解
書き下し文・按腹図解
乳汁不下療術図解
図のごとく坐せしめ、まず乳房を軽々に摩解し、次に乳輪(ちちのぐるり)の黒みの所を摩解し、指にて軽く撮(つまみ)て乳汁をしぼり走らし、次にその乳根の裏面に当る背中および肩項を解釈し、臑・肘・臂・腕などの筋攣凝結を解釈し、さて乳上(ちちのうえ)・乳側(ちちのわき)・乳下(ちちのした)を軽く数次摩解すべし。かく療するときは乳汁沢山に出沸(いでる)ものなり。。
乳汁不出の鑑別
本文にある「乳根の裏面に当る背中および肩項を解釈」および「臑・肘・臂・腕などの筋攣凝結を解釈」これは鍼灸にも通ずる治療の流れです。とくに背部の治療は乳腺炎の治療にもよく行いますね。
また「乳上・乳側・乳下を軽く数次摩解すべし」に関しては、陽明・少陽のどちらを主対象とするか、についても考察して治療すべきでしょう。
次の段落「乳汁不下療術(の実践編)」に続きます
鍼道五経会 足立繁久
原文 按腹図解 乳汁不下療術圖觧
■原文 按腹図解 乳汁不下療術圖觧
圖のごとく坐せしめまつ乳房を輕〃に摩觧し次に乳輪の黒みの㪽を摩觧し指にて輕く撮て乳汁をしぼり走らし、次にその乳根の裏面に當る背中および肩項を觧釈し臑肘臂腕などの筋挛凝結を觧釈しさて乳上乳側乳下を輕く数次摩觧すべし。かく療するときは乳汁沢山に出沸ものなり。。