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収神術について
自行按腹とは、自分自身に按腹施術を行うことです。私自身も臨床で按腹を行うことはありませんが、自分自身には寝る間際によく行っています。それでは本文を読み進めていきましょう。
※画像は『按腹図解』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※本文は盛文堂 漢方醫書領布會 発行の『按腹圖解』から引用していますので、京都大学付属図書館のものとは若干の違いがあります。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『按腹図解』の収神術
書き下し文・按腹図解
収神術
此の術は何病(なんのやまい)にても困篤(こんとく)の際(さい)、或いは大虚大衰の人に施す術なり。
世俗、大病人に按腹するは甚だ凶(あ)し。大いに元氣を損じ腹力を脱すというは誠に至言なり。然し是も医者の工拙によるべけれども、危篤或いは大虚大衰の人に一応手術を施すときは、埋火をかきさがして直(じき)に灰になる如く、元氣暴脱し形体委頓(つかれ)し、立刻(たちどころ)に弊(し)を致すものあり。実に恐るべし。是れ皆な拙工の此の法に詳らかならざるの致す所なり。
然るに、この収神術は既に離散せんとする元氣を速やかに氣海に還納せしめ、直(じき)に扶持保護し危機を転じて平安ならしむる術なり。
然れども此れを行なうは最も幽微(ゆうび)にして筆頭に尽し難し。唯だ門に入る人に口述せんのみ。
大虚大衰の人に治術を行うの事
自分自身に施術を行うことはとても大切です。「醫不病」と『素問』平人気象論にあるように、常に医は病まないために自身をメンテナンスしておく必要があります。
本章でとくに興味深いのは「臨臥のとき、或は平旦などは殊によろし。」と、自身の治療を行うに適した時間をしている点です。
安易に大虚の人に手を出すことなかれ
当時の言葉として「大病人に按腹するは甚だ凶(あ)し。」と、世俗にも言われていたようです。その意として「大に元氣を損じ腹力を脱す」とあり、太田氏は「至言」であるとしています。
この理は当然、鍼灸にも通ずるものがあります。鍼もまた「鍼に瀉ありて補なし」との言葉がある以上、弁えておくべき理であります。
しかしもちろん「是も醫者の工拙による」と、条件設定を添えています。大虚の人に按腹施術を行うにしても、術の上手・下手で不可治か可治かが異なるということです。
安易に大虚大衰の病人に手を出すということは、「埋火をかきさがして直に灰になる如く」との比喩表現がとても分かりやすいですね。
「この収神術は既に離散せんとする元氣を速かに氣海に還納せしめ直に扶持保護し危機を轉じて平安ならしむる術なり。」この文に収神術の概要がシンプルに記されています。
ここで初めて「氣海」という言葉が登場します。
しかし「氣海」という言葉は、「按腹十三術」の中にある「収斂」の技法説明の中に登場しています。しかし、その文中には「腹中へ氣を聚むる心にすべし」とあり、腹中という言葉に(見かたによっては)ボカシて表現しているようにも感じられます。もちろん収斂術の意は、この収神術に近しいものなのでしょう。
しかし「此を行は最幽微にして筆頭に尽し難し。唯門に入人に口述せんのみ。」と最後の文にあるように、詳細は門外不出の術であったようです。
原文 按腹圖觧 自行按腹圖觧
■原文 按腹図解 自行按腹圖觧
収神術
此術は何病にても困篤の際、或は大虚大衰の人に施す術なり。世俗大病人に按腹するは甚凶し。大に元氣を損じ腹力を脱すといふは誠に至言なり。然是も醫者の工拙によるべけれども危篤或大虚大衰の人に一應手術を施すときは埋火をかきさがして直に灰になる如く元氣暴脱し形體委頓し立刻に弊を致すものあり。実に恐るべし。是皆拙工の此法に詳かならざるの致㪽なり。
然るにこの収神術は既に離散せんとする元氣を速かに氣海に還納せしめ直に扶持保護し危機を轉じて平安ならしむる術なり。然れども此を行は最幽微にして筆頭に尽し難し。唯門に入人に口述せんのみ。
引き続き仰臥位における施術の説明「仰人療術図解」です。
『按腹図解』の帰元術
書き下し文・按腹図解
帰元術 是は拳法家に謂う死活の法なり
此の術は一切卒暴の病、卒中、昏倒、卒死、口噤、婦人子癇、産後血暈、昏迷不省、小児急慢驚風、直視上鼠、或いは臍風撮口、或いは鬼魘、或いは落馬墜車、或いは檣壁崩壓、或いは高き従り堕下、或いは烟薫致死(けむりむせび)、或いは溺水(みずにはまり)、或いは自縊(くびくくり)等、総べて神氣昏冒(こんぼう)不省人事の者をして神氣を蘇生せしむるの術なり。
しかれども其の法、至りて敏捷なるをもって筆頭に尽し難し、口授に附す。
死活の法であり、神氣を蘇生させる術
最終秘術がこの帰元術です。この章の説明文だけでは帰元術の全貌はみえてきません。
「拳法家に謂う死活の法なり」ということ、そして「神氣を蘇生せしむるの術なり」ということから、“活を入れる法”をつい連想してしまいますが、実際の太田流帰元術はどうなのかは不明です。
鍼道五経会 足立繁久
原文 按腹圖觧 帰元術
■原文 按腹圖觧 帰元術
帰元術 是は券法家に謂ふ死活の法なり
此術は一切卒暴の病卒中昏倒卒死口噤、婦人子癇産後血暈昏迷不省、小児急慢驚風直視上鼠、或臍風撮口、或鬼魘、或落馬墜車、或檣壁崩壓、或從髙堕下、或烟薫致死、或溺水、或自縊等總て神氣昏冒不省人事の者をして神氣を蘓生せしむるの術なり。しかれども其法至て敏捷なるをもつて筆頭に尽し難し、口授に附す。