『診病奇侅』の陰腹陽腹について
本記事では『診病奇侅』平人腹形の章(後半部)の「陰腹陽腹」および「氣象の別」について紹介します。腹証にも平人の腹証(平腹)があります。しかし、その平腹も全ての人に共通する腹証ではありません。各年代・性別はもちろん、生まれ持った氣の性質についても考慮した上で、個々の平腹を勘案することが臨床において大事となります。
※画像は『診病奇侅』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『診病奇侅』の陰腹陽腹
書き下し文・診病奇侅 陰腹陽腹
○無病の腹象を知るは、腹部の切要とする所也。無病の腹に陰陽二象あり。是れ幼老・肥瘠・強弱・病不病および腹の大小虚実などを論ぜず、必ず備うること、及び裏に陰臓陽臓の別あるが如し。
凡そ陽腹は小に多く、実に多く、陽人に多く、壮歳の人に多し。其の象、肌肉解利して細長の如く、皮膚緻密にしてたるみなく、任脈実して分明に深く窪み、臍の上下左右窪みありて新開梅花の如く、臍下充実して宗筋正しきを云う。是れ陽の陰に勝つの象也。
壮年の陽腹は経肉、馬脊の如く峰立て、推すに形無く勝て剛強なるは小石を並べたる如き物あり。是れ俗に云う、腕の力瘤の類也。乳子の陽腹は横に広く、是も峰立なり。
凡そ陰腹は大に多く、虚に多く、陰人に多く、禀(陰)弱の人に多し、其の象、緩慢として横に広きこと嚢の如し、密実なる処少なく、任脈も分かたず臍の上下に窪無く、皮たるみて一の字の形の如きを云う。
是れ陰陽平定の象にして、中年以上は可也と為すべし。然れども老耄に至るまで陽腹なるは、壮健の寿相也(対時 ○南溟引古伝同)。 (陽山)
腹力を診るのこと
腹証を陰陽に大きく分けています。「陰腹」「陽腹」とに大別し、それを虚実だけでなく、平腹のカテゴリーの中においても「陰腹」「陽腹」に整理している点も注目すべきことでしょう。
「凡そ陽腹は小児に多く、実証に多く、陽人に多く、壮年の人に多い」また「凡そ陰腹は大人に多く、虚証に多く、陰人に多く、禀弱の人に多い」と、平腹ではないにしても、その傾向を示している点も臨床的な情報であります。
鍼道五経会 足立繁久
原文 診病奇侅 陰腹陽腹
■原文 診病奇侅 陰腹陽腹
○無病之腹象を知は腹部の切要とする所也。無病の腹に陰陽二象あり。是幼老肥瘠強弱病不病及腹の大小虚実等を不論必備るヿ、及裏に陰藏陽藏の別あるか如し。
凢陽腹は多少多実多陽人多壮歳之人、其象肌肉觧利乄如細長皮膚緻宻に乄たるみなく、任脉実乄分明に深く窪み臍の上下左右窪みありて、新開梅花の如く臍下充実乄宗筋正を云ふ。是陽勝於陰の象也。壮年の陽腹は経肉如馬脊峰立て推すに無形勝て剛強なるは小石を並たる如き物あり。是俗に云腕の力瘤の類也。乳子の陽腹は横に廣く、是も峰立なり。
凢陰腹は多大多虚多陰人多禀陰弱之人、其象緩慢と乄横に廣きヿ如嚢宻実なる處少く任脉も不分臍の上下無窪皮たるみて一の字の形の如きを云。是陰陽平定之象に乄中年以上は可也と為すへし。然老耄に至まて陽腹なるは壮健の寿相也(對時 ○南溟引古傳同)。
次は「氣象之別」に項に進みます。
『診病奇侅』の気象の別
書き下し文・診病奇侅 気象の別
○気象の別
凡そ腹は臓腑の外郭にして其の禀受の臓腑に不同あれば、気象も亦た不同にして、腹象自ら異なることあり。
其の大法を云えば、気質和緩なるは腹も亦た和緩也。仏菩薩の像腹、是れ也。気質の剛強なるは腹も又堅実也。仁王力士の像腹、是れ也。
常人も是れに準じ知るべし。気豁らかなる人は腹も亦た豁らかに、気滞る人は腹も亦た滞る。気大なるは腹も大に、気小なるは腹も小。気実するは腹も実し、気弱きは腹も弱し。是れ等の類を以て推すときは、若し相反する者は病なるべし。右(上記)は陽腹陰腹の変を云なり。(対時)
腹証と気の性質
腹診にもその人の気象すなわち気の性質が表れるといいます。
このことは脈診においても同様です。むしろ脈診の方が如実にその性質が表れるのではないか?と個人的には思います。脈診書『診家枢要』脈象大旨や『脉経』平脈視人大小長短男女逆順法を参考にするとよいでしょう。
・対時……堀井元仙
鍼道五経会 足立繁久
原文 診病奇侅 氣象之別
■原文 診病奇侅 氣象之別
○氣象之別
凢腹は藏府の外郭に乄其禀受の藏府に不同あれは気象も亦不同に乄腹象自異なるヿあり。其大法を云へは、気質和緩なるは腹亦和緩也。佛菩薩の像腹是也。気質剛強なるは腹又堅実也。仁王力士の像腹是也。常人も是に準し知るへし。気豁なる人は腹も亦豁に、気滞る人は腹も亦滞る。気大は腹大に気小は腹小。気実は腹実、気弱は腹弱。是等の類を以て推すときは若相反する者は病なるへし。右は陽腹陰腹の変を云なり。(同上)