『診病奇侅』の腹診部位について

書き下し文・診病奇侅　部位

○凡そ腹、鳩尾より小腹まで、皆な脾胃に属す。こまかに分くれば臍下は腎に属するなり。是よりこまかに分くるは誤まりと知るべし。（烏巣）

「腹診部位」（図を参照のこと）

○氣部・脾部は二行通り、大腸小腸は天枢の外大横の辺りなり。（東郭）

（「腹診図・３」を参照のこと）
一、二の診は、即ち両脇なり。
疫などは、此の処から両乳の間が、別して熱して、掌焼くが如くに覚ゆるなり。此の二ヶ所と、虚里の動を見るときは、手掌より指梢にて見るなり。外は食中の二指にて見るなり、虚里は虚陽上冲によりても高きあり。又、穀氣上冲にて動ずるもあり

三は、即ち心下に積氣さしつめたる者には、此の処を大指にて強く按して、あとの四指を肋骨の上にのせて置くと治るなり。

四の部位を按して、ぶつぶつと水の鳴るは留飲なり。飲多くは此に聚まるなり。

五、ここに食滞す。強きは三の辺りにも及ぶ、此の辺りより三四の辺りにて堅く、石の如きものは食を不節ゆえなり。此れは多くは大店の丁稚などにあるものなり。小児の時疫、或いは欬嗽の治せざるは按腹して此の如きは平胃散でなければ治せぬなり。

六、此の辺りを按して痛むが、中焦の虚なり。

七、血塊が此の辺りから九の辺まであるなり。

八、燥屎が此の辺に着くものなり。ちょっと按じても痛むなり。七八の処は、即ち陽明胃なり。此の処筋ばるは建中湯でなければ行かぬなり。

九、即ち臍下なり。此の処、溝の如きは腎虚なり。又、綿の如き者あり、難治なり。然れども治するもあり。

十、十一は見ずとも大事なきなり。疝で塊あるものは、多くは十一の辺りに、棒の如きものあるなり。

十二、十三、即ち章門なり。此の辺り綿の如くぐさつくは氣虚なり。虚労瘵疾ともに、腹を按ずるに綿の如き者は不治なり（臺州）

以上三説、互いに異同あり、姑く之を併存するのみ。

△（引、松井本）左右脾先の膜聚に問わず、而して其の氣の結れる者は食鬱也。肺先の膜聚、而して其の氣の結れる者は食鬱也。肺先の膜聚、而して其の氣の結る者は痰也。心先の膜聚、而して其の氣の結る者は食痰也。（萩原○別本、東郭書にも亦た此の図説あり。久野の部位図にも亦た同じ。俱に據る所無し。然れども以下の諸條に、心先・脾先等の語あり。姑くは其の概略を挙げて云う。）

■原文 診病奇侅 部位

○凡腹鳩尾より小腹まで、皆脾胃に属す。こまかにわくれば臍下は腎に属するなり。是よりこまかにわくるは誤と知るべし。（烏巢）

腹診部位

○氣部脾部は二行通り、大小腸は天樞の外大横の邊なり。（東郭）

一二の診は、即兩脇なり。疫などは、此處から兩乳の間が、別して熱して、掌如燒に覺ゆるなり、此二ヶ所と、虚里の動を見るときは、手掌より指梢にて見るなり、外は食中の二指にて見るなり、虚里は虚陽上冲によりても高きあり、又穀氣上冲にて動ずるもあり
三は、即心下に積氣さしつめたる者には、此處を大指にて强く按して、あとの四指を肋骨の上にのせて置くと治るなり。
四の部位を按して、ぶつ〱と水の鳴るは留飲なり。飲多くは此に聚るなり。
五、こゝに食滯す。强きは三の邊にも及ぶ、此邊より三四の邊にて堅く、石の如きものは食を不節ゆゑなり。此は多くは大店の丁稚などにあるものなり。小兒の時疫、或は欬嗽の治せざるは按腹して如此は平胃散でなければ治せぬなり。
六、此邊を按して痛むが、中焦の虚なり。
七、血塊が此邊から九の邊まであるなり。
八、燥屎が此邊に着くものなり、ちょっと按じても痛むなり。七八の處は、即陽明胃なり、此處筋ばるは建中湯でなければ行かぬなり。
九、即臍下なり、此處溝の如きは腎虚なり。又綿の如き者あり、難治なり。然れども治するもあり。
十、十一、見ずとも大事なきなり。疝で塊あるものは、多くは十一の邊に、棒の如きものあるなり。
十二、十三、即章門なり。此邊綿の如くぐさつくは氣虚なり。虚勞瘵疾ともに、腹を按ずるに綿の如き者は不治なり（臺州）
以上三説互に異同あり、姑く之を併存するのみ。
△（引、松井本）不問左右脾先之膜聚、而其氣結者、食欝也。肺先之膜聚、而其氣結者、食欝也。肺先之膜聚、而其氣結者、痰也。心先之膜聚、而其氣結者、食痰也。（萩原○別本東郭亦有此圖説、久野部位圖亦同、俱無所據、然以下諸條、有心先脾先等之語、姑擧其概略云。）