鯖(サバ)の食物本草情報 ゴケイメシより

5月の講座【生老病死を学ぶ】の打ち上げではサバ(鯖)をいただきました。昨今、サバも値上がりしているらしいですね。

ゴケイメシでサバ三昧


写真:新鮮なサバの半身に塩をふって七輪で焼きます。


写真:サバ尽くしの酒宴。もはや岩ガキが脇役にみえてくる。

京都と日本海を結ぶ街道に“鯖街道”があります。その名の由来は、鯖(サバ)を運ぶために、若狭の海から一晩かけて京都に運び入れたと聞きます。鯖街道の由来は、約1500年前にまで遡ることができるそうです。鯖の“へしこ”などの加工技術が発達したのも、この鯖街道に由来するのだとか。日本遺産ポータルサイト ~御食国(みけつくに)若狭と鯖街道~ などより

そんなサバについて、その食物本草情報をみてみましょう。出典資料は『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)、『公益本草大成(和語本草綱目)』(岡本一抱 1698年)、『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)そして『魚鑑』(武井周作 著 1831年)です。年代としては順不同ですが、この点はご容赦ください。

サバ(鯖)の食物本草情報

まずは『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からの鯖(サバ)情報です。

『日養食鑑』に記される鯖(サバ)の効能

さば 青花魚

甘酸温、小毒あり。
虚瀉を止め冷痢を調え、破血の効あり。

○さしさば 甘平、毒なし。
氣味、生肉に勝る。

■原文
甘酸温、小毒あり。
虚瀉を止め冷痢を調へ、破血の効あり。
○さしさば 甘平、毒なし。
氣味、生肉に勝る。

サバの食物本草能として「虚瀉を止め冷痢を調え」るとの効能が目を引きます。氣味は甘酸で温性をもつため、虚瀉・冷痢に対して効果あり、ということなのでしょう。また「破血の効あり」とする情報も興味深いですね。
この「破血の“効”」と記す以上は、薬能としての破血能ということと推察します。

次に『公益本草大成』(岡本一抱 著 1698年)をみましょう。

『公益本草大成』に記される鯖(サバ)の効能

佐波  酸鹹温
肝胆を助け、血を盛んにす。多食すれば痰を生じ膈を塞ぎ、人をして昏酔せしむ

(刺佐波、味澁、食するに宜しからず。今の人、青魚を以て佐波を為すは非也。)

■訳文
佐波酸鹹温
助肝胆盛血多食生咳嗽、令人昏睡

温性を持つのは前述の『日養食鑑』と同じですが、サバの食物本草能として岡本先生は「助肝胆」そして「盛血」を挙げています。「虚瀉を止め冷痢を調え、破血の効あり」とは全く異なる食物本草能といえます。

さらに「多食生痰塞膈」とのこ情報から、鯖が熱や水を旺盛にする性質を持っていると推測できそうです。

次に『閲甫食物本草』(名古屋玄医 寛文9年(1669年)自序)から鯖に関する情報をみてみましょう。

『閲甫食物本草』に記される鯖(サバ)の効能

 和名集阿乎佐波

按するに、頌(蘇頌)が曰く、青魚は江湖の間に生れ、南方く有り。北地には時に或いは之有り。取るに時無し。鯇に似て而して背は正に青色。南人の多くは以て鮓を作る。古人の謂う所の五候鯖は即ち此なり。
其の頭中枕骨、蒸して氣を通じせしめ曝乾し状(かたち)琥珀の如し。荊楚の人、煮拍作酒器梳萞、甚だ佳し。旧注に言わく、琥珀に代わるべき者には非ず也。之を以て之を見るときは則ち俗に謂う所の佐波に非ざるに似たり也。
又、『開宝(開宝本草)』、張鼎(『食療本草』の著者)、東垣(李東垣)等の説く所、性味亦た俗に謂う所の佐波なる者の性味に非ず。然れども是れ亦た字を借りて之が氣味に繋ぐ。
氣味、鹹平無毒。諸病に之を忌まず。肝胆を補い、冷痰の有る者は多食すべからず。
○塩醃して赤鏽澀の生じる者、二頭を以て之を重ねて刺す、刺鯖と称す。塩生に劣れり、其の漬醃腐鏥を以て也。故に口瘡・実痰・胸満する者は、最も之を忌む。(閲甫)

■原文
按頌言う、青魚生江湖間、南方多有。北地時か有之。取無時。似て背正靑色。南人多作鮓。古人㪽即ち五候鯖即此。その頭の中の枕骨の蒸発氣通は、琥珀のように乾燥した狀をさらす。また開寶張鼎東垣等㪽説、性味亦非㪽所謂佐波者之性味然。 ○塩醃生赤鏽者二頭重刺之、称刺鯖。極度於塩生、其漬醃腐鏥も。

名古屋先生が示すサバの食物本草能は「補肝膽、有冷痰者不可多食。」であり、この記述は岡本先生と同じ説だと言えるでしょう。また氣味については「氣味鹹平無毒」とあり、温性ではなく“平”であることを指摘しています。

次に『魚鑑』(武井周作 著 1831年)をみましょう。

『魚鑑』におけるサバ(鯖)情報

さば  

『和名抄』に鯖の字を“あおさば”と訓ず。漢名しれず。清俗に青花魚という。
四時常にあり。春より秋のすえまで盛なり。こけ細く青色、背に蒼黒の虎班あり。
能登・周防・讃岐・伊予等の国貢すること、『延喜式』にみゆ。
就中(なかんづく)周防を名産とす。彼国に佐婆郡あり。もと其の地を好とす。ゆえに名づく。

今二頭刺合して䱒するを“さしさば”という。今中元の節物に上下ともに用ゆ。又『延喜式』『主計式』に鯖醤あり。いま長門周防あり出る。背腸醢(みなわた)と称うもの、此の輩(るい)あり。
[氣味]甘酸温小毒あり。
[主治]虚泄を止め冷痢を調ふ。

■原文
和名抄に鯖の字をあをさばと訓す。漢名しれず。清俗に青花魚といふ。四時常にあり。春より秋のすへまて盛なり。こけ細く青色、背に蒼黒の虎班あり。
能登周防讃岐伊豫等の國貢すること、延喜式にみゆ。就中周防を名産とす。彼國佐婆郡あり。もと其地を好とす。ゆへに名く。今二頭刺合して䱒するをさしさばといふ。今中元の節物に上下ともに用ゆ。又延喜式主計式に鯖醤あり。いま長門周防あり出る。背腸醢と稱ふもの、此輩あり。
[氣味]甘酸温小毒あり。
[主治]虚泄を止め冷痢を調ふ。

『魚鑑』に記載されるサバ情報は『日養食鑑』と同じであり、岡本先生『公益本草大成』、名古屋先生『閲甫食物本草』との説と明らかに異なります。

このように、サバ(鯖)の食物本草能は明らかに二説に分かれています。①「助肝胆、多食生痰塞膈。(有冷痰者不可多食。)」の系統と、②「虚泄を止め、冷痢を調う。」の系統に分類できそうです。

名古屋玄医先生の文から察するに、①説は『開宝本草』、『食療本草』そして李東垣の説に由来するという可能性を示しています。この点からもまだまだ掘り下げることができそうです。

鍼道五経会 足立繁久

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