鰤(ブリ)の食物本草能について 戸越のグルメより

6月の東京講座【鍼藥双修】のお昼休みにブリ専門店にてランチをいただきました。戸越銀座の鶴長さんです。この店のブリはボンタンを餌に混ぜて養殖しているらしいです。

戸越のグルメでブリのユッケ丼

ブリのユッケ丼
写真:一日限定十食!ボンタンの香りはしないけど、腹身の脂もしつこさを感じさせず、アッ!という間に完食でした。


写真:ブリのユッケ丼を一緒に堪能した二人(星名先生と佐藤先生)二人とも大盛りイってました。

さて、せっかくの戸越のグルメ、なによりブリ専門店という珍しい条件なので、いつも食物本草のお勉強といきましょう。

出典資料は『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)、『公益本草大成(和語本草綱目)』(岡本一抱 1698年)、『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)、『本草綱目』(李時珍 1596年 刊)そして『魚鑑』(武井周作 著 1831年)です。年代としては順不同ですが、この点はご容赦ください。

ブリ(鰤)の食物本草情報

まずは『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からの鰤(ブリ)情報です。

『日養食鑑』に記される鰤(ブリ)の効能

ぶり 海鰱魚

甘酸、小毒あり。
少しく食えば、氣血を潤し、人をして肥健(こえすこやか)ならしむ。

■原文
甘酸、小毒あり。
少しく食へば氣血を潤し人をして肥健ならしむ。

鰤(ブリ)の食物本草能として「少しく食えば、氣血を潤し、人をして肥健ならしむ。」が記され、その補益能の高さが伺えます。補益対象は広く「氣血」であり、臓腑に絞っておりません。

次に『公益本草大成』(岡本一抱 著 1698年)をみましょう。

『公益本草大成』に記される布里(ブリ)の効能

布里  酸甘温
肝胃を温め血を盛んにす。盬する者は瘡痒を発し易し。
(多食すること勿れ、病家に用いるに宜らず。今の人、『本草綱目』の師魚を以て、布里と為す、非也。)

■訳文
布里
酸甘温 温肝胃盛血、盬者易發瘡痒。(勿多食病家不宜用、今人以本艸師魚、爲布里非也。)

「血を盛んにする(盛血)」薬能からは前述の『日養食鑑』の「氣血を潤し」に共通するものを感じます。
「温肝胃盛血、盬者易発瘡痒。」というブリの食物本草能からは「肝胃」という温補対象が明確なものとなっています。
さらに「鹽(塩)者易発瘡痒」という情報からは、鰤(ブリ)そのものが有する温熱性を示唆しています。

次に『閲甫食物本草』(名古屋玄医 寛文9年(1669年)自序)から鯖に関する情報をみてみましょう。

『閲甫食物本草』に記される布里(ブリ)の効能

布里 

俗に或は鰤の字と為し、或いは□(魚岺)の字と為す。共に未だ詳らず。
時珍が曰く、陳藏器が諸魚の註に云く、魚師の大なる者、毒有り人を殺す。今の識ること無き者は、但だ『唐韻』に云う「鰤老魚也」。『山海経』に云う「歴㶁之水有師魚、食之殺人」、其れ即ち此れと是を以て之を見るときは、則ち知らんぬ、鰤の魚は殺人の毒あることを。俗間に謂う所の布里(ぶり)は甚毒あるの者に非ざるなり。
氣味、酸無毒。肝を利し、血を補う。中満脾胃の実する者食うこと勿れ。(閲甫)

■原文
俗或爲鰤字或爲□(魚岺)字、共未詳。時珍曰、陳藏器諸魚註云、魚師大者、有毒殺人。今無識者、但唐韻云、鰤老魚也。山海経云、歴㶁之水有師魚、食之殺人、其即此與以是見之、則知鰤魚有殺人之毒。俗間㪽謂布里非有甚毒之者矣。
氣味、酸無毒。利肝補血、中滿脾胃實者勿食。(閲甫)

名古屋先生が示す鰤(ブリ)の食物本草能は「利肝補血、中満脾胃實者勿食。」
「利肝補血」能は、岡本一抱先生が記した「温肝胃盛血」に少し似ているようです。そして「中満脾胃實者勿食。」からは、鰤(ブリ)がもつ補益能の強さを示しており、これも名古屋先生、岡本先生の両医に共通しているようにみえます。

とはいえ『閲甫食物本草』の記載には氣味薬能以外の情報は、中国古典文献由来の情報が多く採用されています。そこで明代の『本草綱目』をみてみましょう。

『本草綱目』に記される鰤(魚師)の効能

魚師 綱目
[集解]時珍の曰く、陳藏器、諸魚の注に云く魚師大なる者、毒あり人を殺す。今識る者無し。但だ『唐韻』に云う、鰤の老魚也。
『山海経』に云く、歴㶁の水に師魚あり、之を食えば人を殺す、其れ即ち此れか。

■原文
魚師 綱目
[集解]時珍曰、陳藏器諸魚注云魚師大者、有毒殺人。今無識者、但唐韻云、鰤老魚也。
山海経云、歴㶁之水有師魚、食之殺人、其即此與。

『本草綱目』には、鰤らしき“魚師”の情報を記しています。情報の出典として「(陳藏器の)諸魚注」『唐韻』『山海経』のものを挙げていますが、その二つは有毒の魚として、しかも殺人レベルの毒を持つ魚として記されています。この情報を『閲甫食物本草』は引用しているのですが、まぁ現在のブリ(鰤)とみるには無理がありそうです。

ちなみに、岡本一抱先生は「今人以本草師魚、爲布里非也。」とコメントしており、この“師魚(魚師)”と日本の布里(ブリ)とは同じものではない、としております。仰る通りです。

次に『魚鑑』(武井周作 著 1831年)をみましょう。

『魚鑑』におけるブリ情報

ぶり  

『唐韻』にいう鰤は老魚なり。鰤の字、ぶりと訓ず。『本草綱目』に魚師、清俗(からのぞく)に海鰱。京都にはまち、『和名抄』に魬の字をはりまちと訓ず。俗に鰍の字を用ゆ。肥前に“やづ”という。丹後の輿謝、雲州の艫島を名産とす、他州もあり。五六月を“わかなご”、八月より十二月までを“いなだ”、年を越すものを“はなじろ”、二歳の秋より冬までを“わらさ”、四五歳のものを“ぶり”という。
又、“ひらまさ”、ぶりに似て、味い美(よ)し。ぶりの類なるべし。四月比䱊(ころこ)を生む。。

■原文
唐韻にいふ鰤は老魚なり。鰤の字ぶりと訓す。綱目に魚師、清俗に海鰱。京都にはまち、和名抄に魬の字をはりまちと訓す。俗に鰍の字を用ゆ。肥前にやづといふ。丹後の輿謝、雲州の艫島を名産とす、他州もあり。五六月をわかなご、八月より十二月までをいなだ、年を越すものをはなじろ、二歳の秋より冬までをわらさ、四五歳のものをぶりといふ。
又、ひらまさ、ぶりに似て、味ひ美し。ぶりのるひなるべし。四月比䱊を生む

残念んまがら『魚鑑』に記載されるブリ情報は氣味・主治効能には触れられておりません。当時のブリの産地や地方・サイズによって変わる呼び名が記されているだけにとどまります。これはこれでオモシロい情報なのですけどね。

鍼道五経会 足立繁久

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