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『小児薬証直訣』について
本記事では『診病奇侅』の小児腹診について紹介しています。小児はりを実践する鍼灸師にとって、この小児腹診というのも知っておくべき情報でしょう。それでは『診病奇侅』の本文を読んでいきましょう。

※画像は『類証注釈銭氏小児方訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『類証注釈銭氏小児方訣』 五臓相勝軽重
書き下し文・『類証注釈銭氏小児方訣』 五臓相勝軽重 第八
肝臓の病は秋に見わる。木旺すれば、肝強くなり肺に勝つ也。宜しく肺を補し肝を瀉するべし。
軽き者は肝病退く。重き者は唇白くして死す。(肺を補するに阿膠散(七)、肝を瀉するには瀉青丸(四))。
肝病みて肺に勝つ、肝病は秋に見わる(一作に日晡)。肝強く肺に勝つは、肺祛して肝に勝ること能ず。當に脾肺を補し、肝を治するべし。脾を益する者は、母、子をして実さしむる故也。脾を補するに益黄散(九)。肝を治するには瀉青丸(四)之を主る。
心病は冬に見る。火旺ずれば、心は強くなり腎に勝つ。當に腎を補いて心を治するべし。軽き者は心病退く。重き者は下竄して語らず。腎祛虚なる也。(腎を補するに地黄丸(五)。心を治するには導赤散(八)。)
肺病は春に見わる、金旺ずれば肺は肝に勝つ。當に肺を瀉すべし。軽き者は肺病退く。重き者は、目淡青にして必ず驚を発す。更に赤有る者は當に搐すべし。肝祛と為すは當に目淡青色也(肺を瀉するは瀉白散(六))
肺病みて肝に勝つ、肺病は春に見る(一作に早晨)。肺、肝に勝つは、當に腎肝を補い肺臓を治するべし。肝祛する者は病を受くる也。肝腎を補う。地黄丸(五)。肺を治するには瀉白散(六)之を主る。
腎病は夏に見わる。水は火に勝つ。腎は心に勝つ也。當に腎を治するべし。軽き者は腎病退く。重き者は悸動し當に搐するべき也。(腎を治するに、宜風散(四十一))
脾病は四旁に見わる。皆な此れに倣いて之を治す。
順なる者は治し易く、逆なる者は治し難し。
脾祛、當に面目赤黄なるべし。五臓相反す、証に随いて之を治せ(四旁は以上の四臓を指す。脾祛は益黄散(九)之を主る)。
小児の肝病
肺を補い、肝を瀉する
「肝臓病見秋。木旺、肝強勝肺也。宜補肺瀉肝。」
この文からは、肝木が旺氣し、木乗金(木侮金)の病態となっています。五邪(五十難)でいうところの微邪に相当します。
治法としては、「補肺瀉肝」すなわち肺を補い、肝を瀉するといいます。旺氣した肝木に乗じられるには、肺が虚しているという前提条件があります。そのため「補肺瀉肝」という二方面に対する治療が必要となります。
脾肺を補い、肝を瀉する(肝病勝肺)
「肝病秋見(一作日晡)。肝強勝肺、肺祛不能勝肝、当補脾肺治肝。益脾者、母令子実故也。補脾、益黄散九。」
前文と同じくこの文もまた「肝強勝肺」がテーマです。前文では「肺を補い、肝を瀉する」が治法でしたが、本文では「脾肺を補い、肝を治する」という治法になります。
肝木氣に乗じられる肺金の弱りを補強することが要となる病態です。ここでの注目ポイントは「母令子實故也」ということです。ここでいう「母」とは脾土、「子」とは肺金のこと。母を補することで、母子相生関係がスムーズに流れ、結果として脾土から肺金への補氣が成されるということですね。
ちなみに「肝病秋見(一作日晡)」ですが、この「肝病勝肺」病態の発現時間・発現時期についてですが、「秋にあらわれる」も「日晡所にあらわれる」も、どちらも是と考えます。
小児の肺病
肺氣を瀉するのみ
「肺病見春、金旺肺勝肝、当瀉肺。軽者肺病退、重者目淡青必発驚……為肝祛。」
この文での治法は、他の条文と異なる点があります。それは「当瀉肺」という点。
他病態では、前文の心病にて「当補腎治心」とあるように、二方面に対する治療が指示されています。肝病も亦然りです。
しかし、肺病に関しては「当瀉肺」として、旺氣した肺金の邪を瀉することのみ。乗じられた肝氣を補することは指定していません。これも小児特有の治療パターンの一つ、といえるのではないでしょうか。
補腎を用いる場合
続く文「肺勝肝、当補腎肝治肺臓、肝祛者受病也。補肝腎地黄丸。治肺瀉白散主之。」には、前に記す「治肺」のみでは手に負えないケースを示しています。
肺金の邪が亢進することで肝木に乗じるという、“金乗木(金克木)”の病態、五邪(五十難)でいうところの賊邪に相当します。
「当補腎肝治肺臓」とあるように、補腎を行うことで、肝木氣を益し、肺金に(病的に)乗じられない状態を構築します。その上でさらに、肺金の邪を瀉するのです。
ちなみに「肺病春見(一作早晨)」の発病の機は、前述と同じくどちらの機も是といえるでしょう。
以上のように、五臓の病について症状とその軽重、その治法が解説されています。
そして上述したように、小児特有の生理学に基づいて、病理と治法が構築されているのが随所にみられます。このように考えると、腎病・脾病についても考察が捗ることでしょう。
ちなみに、腎病の條に記載されている(「腎を治するに、宜風散(四十一)」)宜風散に関する情報を引用しておきます。
四十一 宜風散 驚風を治する。
檳榔(二筒) 陳皮 甘草(各半両) 牽牛(四両、半生半炒を用う)
右(上記)を末と為す。三二歳、蜜湯にて調下し半銭、已上一銭、食前に服する。
■原文
四十一 宜風散、治驚風
檳榔(二筒) 陳皮 甘草(各半兩) 牽牛(四兩、用半生半炒)
右為末、三二歳宻湯調下半錢、已上一錢、食前服。
鍼道五経会 足立繁久
五臓所主 ≫ 五臓病証 ≫ 面上証・目内証 ≫ 五臓虚実冷熱 ≫ 肝有風熱 ≫ 五臓相勝軽重 ≫≫≫ 小児薬方
鍼道五経会 足立繁久
原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』五臓相勝輕重
■原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』五臓相勝輕重 第八
肝藏病見秋。木旺、肝強勝肺也。宜補肺瀉肝。輕者肝病退。重者唇白而死。(補肺阿膠散七、瀉肝瀉青丸四)。肝病勝肺、肝病秋見(一作日晡)。肝強勝肺、肺祛不能勝肝、當補脾肺、治肝益脾者、母令子實故也。補脾、益黄散九。治肝瀉青丸四主之。
心病見冬。火旺、心強勝腎、當補腎治心、輕者心病退。重者下竄不語。腎祛虚也。(補腎、地黄丸五。治心導赤散八。)
肺病見春、金旺肺勝肝、當瀉肺。輕者肺病退、重者目淡青必發驚、更有赤者當搐、為肝祛、當目淡青色也(瀉肺、瀉白散六)肺病勝肝、肺病春見(一作早晨)。肺勝肝、當補腎肝治肺藏、肝祛者受病也。補肝腎、地黄丸五。治肺、瀉白散六主之。
腎病見夏、水勝火、腎勝心也。當治腎、輕者腎病退、重者悸動當搐也。(治腎、宜風散四十一)
脾病見四旁、皆倣此治之。順者易治、逆者難治。
脾祛當面目赤黄、五藏相反、隨証治之(四旁指已上四藏、脾祛益黄散九主之)。
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