『小児薬証直訣』について
本記事では『小児薬証直結』に記される慢驚の章を紹介します。慢驚とは驚風発作が慢性的に起こる病態とのこと。そして驚風とは痙攣を意味する病症。
小児はりを実践する鍼灸師にとって、急驚風・慢驚風ともに知っておくべき情報でしょう。それでは本文を読んでいきましょう。

※画像は『類証注釈銭氏小児方訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『類証注釈銭氏小児方訣』 慢驚
書き下し文・『類証注釈銭氏小児方訣』 慢驚 第十二
病後、或いは吐瀉、脾胃の虚損に因りて、遍身冷え、口鼻氣出も亦た冷え、手足は時に瘈瘲(上、胡計反。下之用反)、昏睡し、睡するに睛を露す。此れ陽無き也。栝楼湯(二十一)之を主る(愚謂く、栝楼湯は苦寒涼。慢驚の証は既に陽無きと曰うなり。苦寒涼の薬を用うべし。陰内癇壊病篇、慢驚を治するに亦た此の方を用う。銭氏医小児の聖、豈に此の方の反て害を為すこと知らんや。其の智識を観るに、必ずしも知らず。是れ当時の伝写の誤まりを恐る。倘(もし)実に此れ在れば、当に其の長ずる所を取り、其の短なる所を略すべし。庶幾(こいねがわくば)後人誤まらざる也。愚、温白丸(七十八)を以て之を治す。有効)。
凡そ急慢驚、陰陽の証を異にす。始めに宜しく弁じて之を治すべし。急驚は涼瀉を合い、慢驚は温補が合う也。世間の俗方は多くは分別せず、小児(の診断を)誤まること甚だ多し。
又、小児が風冷に傷れ、吐瀉を病む。医、脾虚と謂い以て之を温補するも、已まず。復た涼薬を以て之を治す。又、已むこと能わず。之を本(もと)風に傷れると謂。医、乱りに之を攻む。脾氣既に虚するに因り、内は散ずること能わず、外は解すること能わず。
十余日に至りて、其の証の多睡、睛を露し、身は温、風は脾胃に在り。故に大便不聚にして瀉を為す。當に脾間の風を去るべし。風退くときは則ち利も止む。宜風散(四十一)之を主る。後に史君子丸(百十四)を用い、其の胃を補う。
亦た有諸々吐利して久しく差えざる者あり。脾虚は風を生じ而して慢驚と成す。
慢驚風について
本章で繰り返し記されているのが「脾虚」という言葉。慢驚風の主病因は「脾虚」になるのです。
慢驚風の特徴をひと言で表わすと「無陽(此無陽也)」。急驚風が「無陰(此無陰也)」とされていたのに対し、全くの正反対になります。
急驚風は、心に熱が生ずることが病因でした(本因熱生於心、)。対する慢驚風は脾虚という虚証であり、寒冷の性をもちます。
つまり慢驚風は陰証であり、その特徴は無陽。急驚風は陽証であり、その特徴は無陰です。
それ故に治法は急驚風に対して、陽実を処理するために下法を用います。そして慢驚風の治法は…というと、本文には括蔞湯が記されています。
慢驚の処方の正誤
さて本文では栝楼湯が主之方とされていますが、註文ではそれに対し異議が唱えられています。
慢驚風は「無陽」であるのに対し、栝楼は苦寒涼の性をもつものだ、これは如何なものか…と。さらに註文では温白丸を推奨しています。
温白丸についての情報を以下に引用します。
七十八 温白丸
小児、脾氣虚困、洩瀉痩弱、冷疳洞利、及び吐瀉或いは久病に因り慢驚と成し、身冷え瘈瘲するを治する。
天麻(半両) 白姜蚕(炒) 白附子(生) 乾蝎(毒を去る) 天南星(湯泡七次焙、各一分)
右(上記)を末と為し、湯に浸し、寒食麪爲丸如菉豆大、丸子仍於寒食麪、養七日取去、未及養七日、合成、便ち之を服す。毎服五七丸から二三十丸に至る。空心に煎じて姜米にて飲み下し漸く丸数を加える。
■ 原文 七十八温白圓
治小兒脾氣虚困、洩瀉痩弱、冷疳洞利、及因吐瀉或久病、成慢驚、身冷瘈瘲。
天麻(半兩) 白姜蚕(炒) 白附子(生) 乾蝎(去毒) 天南星(湯泡七次焙、各一分)
右爲末、湯浸寒食麪爲丸如菉豆大、丸子仍於寒食麪、養七日取去、未及養七日、合成便服之、毎服五七丸、至二三十丸、空心煎、姜米飮下漸加丸數。
以上の生薬構成です。なかなかパンチの効いた生薬を使っているようにみえますね。益黄散ではダメだったのでしょうか。
いずれにせよ、小児科において脾虚は早急に改善すべき案件であったことは伝わります。脾虚から諸病に発展していくことを恐れたのですね。これは他の病症を学ぶことでよく理解できると思います。
肝有風熱 ≪ 五臓相勝軽重 ≪ 変蒸 ≪ 発搐 ≪ 急驚 ≪ 慢驚 ≫≫≫ 小児薬方
鍼道五経会 足立繁久
原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』慢驚
■原文 『類證注釋錢氏小兒方訣』慢驚 第十二
因病後或吐瀉、脾胃虚損、遍身冷、口鼻氣出亦冷、手足時瘈瘲(上、胡計反。下之用反)、昏睡、睡露睛、此無陽也。括蔞湯二十一主之(愚謂、括蔞湯苦寒涼。慢驚之證、既曰無陽焉。可用苦寒涼之藥。陰内癇壊病篇、治慢驚亦用此方。錢氏醫小兒之聖、豈不知此方反為害。觀其智識必不知是恐當時傳寫之誤。倘實在此、當取其所長、畧其所短庻幾不誤後人也。愚以温白丸治之有効七十八)。
凢急慢驚、陰陽異證、始冝辨而治之。急驚合涼瀉、慢驚合温補也。世間俗方多不分別、誤小兒甚多。又小兒傷於風冷、病吐瀉、醫謂脾虚以温補之。不已復以涼藥治之。又不能已。謂之本傷風、醫亂攻之、因脾氣既虚、内不能散、外不能解。至十餘日、其證多睡露睛身温、風在脾胃、故大便不聚而為瀉。當去脾間風、風退則利止。冝風散四十一主之。後用史君子丸百十四。補其胃、亦有諸吐利久不差者、脾虚生風而成慢驚。
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