栗とむかごの食物本草情報

10月のゴケイメシは、むかご入り栗ご飯

10月の講座【生老病死を学ぶ】では、打ち上げ(ゴケイメシ)に、むかご入りの栗ご飯を炊きました。


写真:土鍋で炊き上げた「むかご入り栗ご飯」


写真:私の義父から立派な栗をたくさんいただいたのでゴケイメシでもいただきます。

写真:講座休憩中にせっせと栗の殻剥き…

栗もムカゴも秋の味覚、そして補腎食材としても知られています。その本草情報を江戸時代の本草書から確認しておきましょう。

出典資料は『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)、『公益本草大成』(岡本一抱 著 1698年)、『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)、の年代順で紹介していきます。

栗の食物本草能について

まずは玄医先生の『閲甫食物本草』からみてみましょう。

『閲甫食物本草』に記される栗(くり)の効能

 久里  氣味鹹温、無毒

『別録』に曰く、氣を益し、腸胃を厚く、腎氣を補う。人をして飢えに耐えさしむ。
孫思邈が曰く、生にて食すれば腰脚不遂を治す。
蘇恭が曰く、筋骨断辟、腫痛、瘀血を療す。生に嚼して之を塗る、効あり。
孟詵が曰く、日中に曝乾し、食すれば即ち氣を下して補益す。爾らざれば猶(なお)木氣を補益せざること有るがごとし也。火に煨し汗を去り亦た木氣を殺す。生に食すれば則ち氣を発す。煮・蒸・炒・熱して食するときは則ち氣を壅ぐ。凡そ風水を患う人、食うに宜からず。味鹹は水を生ずる也。
宗奭が曰く、小児は多食すべからず。生なれば則ち化し難し。熟すれば則ち氣を滞らす。食を膈(隔)て蟲を生じ、往々に病を致す。

■原文
栗 久里
氣味鹹温無毒
別録曰、益氣厚腸胃補腎氣。令人耐飢。孫思邈曰、生食治腰脚不遂。蘇恭曰、療筋骨斷辟腫痛瘀血、生嚼塗之、有効。孟詵曰、日中曝乾、食即下氣補益、不爾猶有木氣不補益也。火煨去汗亦殺木氣、生食則發氣。煮蒸炒熱食則壅氣。凡患風水人不宜食、味鹹生水也。宗奭曰、小児不可多食生則難化、熟則滞氣、膈食生蟲往〃致病。

「益氣、厚腸胃、補腎、耐飢」の薬能は、この後に紹介する『公益本草大成』にも共通する情報といえます。孟詵の引用「木氣」に関する内容はよくわかりせんが、「生食則発氣。煮蒸炒熱食則壅氣。」という記述や、孫思邈・宗奭の言葉からも、生栗というのは氣を発して疎通・行氣の作用があるのか…と推察できる記述です。
また孟詵・宗奭の引用からは、加熱した栗がもつ補氣作用の強さを推測できます。

次に一抱先生の『公益本草大成』から栗情報です。

『公益本草大成』にある栗(くり)の効能

栗実 鹹温

氣を益し、腸胃を厚くし、腎を補う。人をして飢えに耐えせしむ。生にて食えば腰脚不遂(かなわず)を治す。生にて嚼(か)み、筋骨碎・腫痛・瘀血に塗る。(晒して食えば補益あり。生なる者は渋りて化し難し。熟して食えば氣を滞す。食を膈(隔)てて蟲を生ず。小児は多く食うべからず。風水腫の者は之を忌む)。

薄皮(しぶかわ) 栗荴と名づく 甘濇平
擣きて粉にし蜜に和し面に塗りて皺を去る。焼きても性を存す。末、咽に吹けば骨鯁(ほねたつ)を治す。
○栗殻 反胃・消渇を治す。血瀉・衂血を止める。
○毛毬 煎じて丹毒を洗う。
○樹皮 瘡毒・五色丹毒を洗う。
○花 瘰癧を治す。
○根 㿗疝を治す。酒に煎じて服す。

■原文
栗實 鹹温
益氣、厚腸胃、補腎。令人耐飢。生食治腰脚不遂。生嚼塗筋骨碎腫痛瘀血(晒食有補益。生者澁難化。熟食滯氣、膈食生蟲。小兒不可多食。風水腫者忌之)。
薄皮(しぶかわ) 名栗荴 甘濇平 擣粉和蜜塗面去皺。焼存性末。吹咽治骨鯁。
○栗殻 治反胃消渇、止血瀉衂血。○毛毬 煎洗丹毒。○樹皮 洗瘡毒五色丹毒。○花 治瘰癧。○根 治㿗疝、酒煎服。

『公益本草大成』には、上記『閲甫食物本草』と同じく、中国本草書の情報を引用しています。また「栗の実」だけでなく、「薄皮(しぶかわ)」「栗殻(鬼皮)」「毛毬(いが)」「樹皮」「花」「根」と栗(クリ)の木のすべての部分に関する本草情報が詳細に記されていることに目を引きます。これらは『本草綱目』(李時珍 著)からの引用情報になります。

次に元混先生の『日養食鑑』から栗の食物本草情報をみてみましょう。

『日養食鑑』に記される栗(くり)の効能

 甘鹹温、毒なし
胃を養い、飢えに耐えしむ。

■原文
栗 甘鹹温毒なし
胃を養ひ、饑に耐しむ

『日養食鑑』では「厚腸胃、耐飢」の薬能はありますが、「益氣、補腎」については記されていません。

「耐飢」という性質は、言い換えれば“腹もちが良い”ともいえます。さらに解釈を拡げると「厚腸胃」や「益氣」にも通じます。それだけに「壅氣・滞氣」「不可多食」という注意点にも繋がってくるのでしょう。

つい最近耳にした患者さんの体験談でも、「栗を食べて、胃が重くなってお腹が張る。」といった言葉もあります。この方は訳あって一時的に脾虚状態に陥った方、元々「芋・栗・南瓜(いも・くり・なんきん)」が大好物の方、例年と同じように栗を多食してしまい、脾虚状態の脾胃には過剰分量の栗となってしまったのでしょうね。
もちろん、今シーズンの「芋・栗・南瓜」は控えるように指導しましたが…。

さて、次に「むかご(零余子)」の薬膳情報を載せておきましょう。

ムカゴの食物本草能について

“むかご”は山芋・長芋の葉の付け根にできる小芋状のもの。別名「零余子」ともいいます。むかご(零余子)が熟して地面に落ちると、来春に発芽して、次の山芋・長芋の蔓(ツル)を伸ばします。今年収穫したむかご(零余子)は、二三年前にあちこちの野山から採ってきたものが、発芽し実(むかご)をつけたものです。
写真:鍼灸院の玄関先(生薬花壇)に生るむかご(零余子)たち


写真:たくさん採れました!中にはもうすでに芽が出ているむかごもあります。

たくさん(むかごが)生ったので、今年は3回むかごご飯にして食することができました。さて、そのむかごの効能やいかに!?

むかごの嘱目本草情報に関しては、玄医先生の『閲甫食物本草』、一抱先生の『公益本草大成(和語本草綱目)』、元混先生の『日養食鑑』と三書連続で紹介します。

『閲甫食物本草』に記される零余子(むかご)の効能

零余子(れいよし) ぬかご(むかご)
氣味甘温、無毒
陳藏器が曰く、虚損を補い、腰脚を強くし、腎を益す。之を食すれば餓えず。

■原文
零餘子  奴加古
氣味甘温無毒
陳藏器曰、補虚損强腰脚、益腎。食之不餓。

 

『公益本草大成』にある零余子(むかご)の効能

零余子(れいよし) ぬかご
甘温
虚損を補い、腰脚を強くし、腎を益し、饑を充つ。

■原文
零餘子  甘温
補虚損强腰脚益腎充饑。

 

『日養食鑑』に記される零余子(むかご)の効能

むかご 零餘子  甘温。毒なし
虚損を補い、腰脚を強くし、腎を益す。

■原文
むかご 零餘子
甘温。毒なし
虚損を補ひ、腰脚を强し、腎を益す。

どの書も「補虚損、強腰脚、益腎。」という陳藏器の説を採用しています。むかご(零余子)も山芋(山薬)も、その効能は共通しているようですね。

むかごご飯を3回もいただいたゴケイメシ・メンバーは来たる冬季に備えて万全の食養蔵をしたといえるのかもしれません。「薬膳」という言葉が再び流行っているようですが、薬膳とはかくある可しと思う次第であります。

鍼道五経会 足立繁久

おすすめ記事

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




関連記事

東京メンバーと昆虫食を楽しむ
6月のゴケイメシ ~豚肉(豕・豬)の食物本草能~
シン・スッポン料理と香辛料の本草学的情報(馬芹・胡菜・鬱金・番椒)
うどん(饂飩)の食物本草情報
12月のゴケイメシLunchは年越し蕎麦
2021年度・冬~春のゴケイメシ
4月の講座とゴケイメシ ~鹿肉の食物本草能~
1月のゴケイメシはクエ鍋 ~クエの食物本草能~
蜆(しじみ)の食物本草
11月のゴケイメシはカニメシ!~蟹の食物本草能~
ウサギ料理に挑戦 附 ウサギ肉の本草学情報
初夏を告げるハモ(鱧)とカツオ(鰹)の食物本草能
11月のゴケイメシは羊肉!~羊肉の食物本草能~
12月のゴケイメシは蕎麦と山芋(山薬)
鰤(ブリ)の食物本草能について 戸越のグルメより

Menu

HOME

TOP