蜆(しじみ)の食物本草

10月ゴケイメシの献立は、むかご入り栗ごはん&しじみのお味噌汁

10月の講座【生老病死を学ぶ】の打ち上げでは、むかご入り栗ごはん、そしてシジミのおみそ汁をいただきました。
本記事では、しじみ(蜆)の食物本草情報を紹介します。


写真:大粒のシジミを購入!!

写真:白く濁るしじみ出汁(?)、これがまたしじみ汁感を出してくれる

ちなみにこの白く濁るしじみ出汁?、その正体はトロポミオシンというたんぱく質であるとのこと。
島根大学の研究チームが論文として発表しています。興味がある人はコチラの論文をどうぞ。

写真:味噌を入れて…しじみのお味噌汁のできあがり!

ではでは蜆(しじみ)の食物本草情報をみてみましょう。

出典資料は『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)、『公益本草大成』(岡本一抱 著 1698年)、『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)、そして『魚鑑』(武井周作 著 1831年)です。これまでの紹介記事は、文字数の少なく、読みやすい順に紹介していましたが、そろそろ年代順で紹介していきます。

蜆(しじみ)の食物本草情報

まずは『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)からの蜆(しじみ)情報です。

『閲甫食物本草』における蜆(しじみ)情報

志〃美加伊(しじみかい)

按するに、今の医の蜆と為するは蜆に非ず。諸注、皆な殻の色白しと云う。俗に言う志〃美(しじみ)其れ黒青。実は然らざる也。
氣味、鹹平無毒。脾弱なる者は多く食すべからず(閲甫)
○今の医、皆な小便を利し、湿を除くと言う。予、その所以を知らず。多く用いても未だ其の験を見ず。
○介貝の類、甚だ多しと雖も、皆な蛤蚌の類、其の氣味は甚だ遠からず。皆な氣を益し、五臓を利す。然れども消化し難し。故に脾胃虚寒の者は食すべからず也。(閲甫)

■原文
志〃美加伊(しじみかい)
按今醫爲蜆非蜆。諸注皆云殻色白、俗言志〃美其黒青。實不然也。
氣味鹹平無毒。脾弱者不可多食(閲甫)
○今醫皆言利小便、除濕。予不知其㪽以。多用未見其驗爲。
○介貝類雖甚多、皆蛤蚌之類、其氣味不甚遠。皆益氣利五藏然難消化。故脾胃虚寒者不可食也。(閲甫)

まずはいきなりの玄医先生の衝撃発現「今の医の蜆と為するは蜆に非ず」とのこと。当時の本草書にある蜆(しじみ)は本当の蜆に非ず!といいます。「今の医、皆な小便を利し、湿を除くと言う。予、その所以を知らず。多く用いても未だ其の験を見ず。」とあり、実際に多量に蜆を投与しても、利尿作用は確認できなかった…との体験談も記しています。

まぁ、食物ですからね。個人的な意見ですが、本草と食事はその効果の発現には大きな差があると思っています。食材が薬剤と同じように効いてしまうと危なっかしくてご飯も食べれないですからね。とはいえ、玄医先生は、殻の外観の面からも、(本草書にある)蜆と、当時流通し食されていた蜆とは別物ではないか?と疑義を呈しています。

ともあれ「介貝の類、甚だ多しと雖も、皆な蛤蚌の類、其の氣味は甚だ遠からず。皆な氣を益し、五臓を利す。…」と、貝類の食物本草能には大差なしとも総括しています。

『公益本草大成』における蜆(しじみ)情報

蜆 しじみ ケン

肉 甘鹹冷
湿熱の氣を下し、小便を利す。黄疸・脚氣・酒毒・消渇・疔瘡・丹石の毒を治す。乳汁を通ず。

爛殻(らんかく) 鹹温
痢を止め、陰瘡・反胃・吐食・膈痰・呑酸・心痛を治す。
(灰に焼きて)湿瘡に塗る(蛤粉と同じ功)

■原文
蜆 ちん しじみ
肉 甘鹹冷
下濕熱氣、利小便、治黄疸脚氣酒毒消渇疔瘡丹石毒。通乳汁。
爛殻 鹹温 止痢、治陰瘡反胃吐食膈痰呑酸心痛(焼灰)塗濕瘡(與蛤粉同功)。

一抱先生の蜆の本草薬能は「湿熱の氣を下し、小便を利す。…酒毒・消渇を治す」と、本草書にある蜆の食物本草能を記載しています。

次に『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からの蜆(しじみ)情報です。

『日養食鑑』に記される蜆(しじみ)の効能

志じみ 蜆

甘鹹冷、毒なし

湿熱を下し、黄疸を治し、小水を通し、消渇を止め、酒毒を解す。
又、小児の盗汗を治す。
○生の蜆を水に浸し、痘癰を洗えば癍痕なし。

■原文
志じみ 蜆
甘鹹冷、毒なし
濕熱を下し黄疸を治し小水を通し消渇を止め酒毒を解す。又小児の盗汗を治す。
○生の蜆を水に浸し痘癰を洗へば癍痕なし。

元混先生が記す蜆(しじみ)の食物本草情報は、「湿熱を下し…小水を通し、消渇を止め、酒毒を解す。」です。

次に『魚鑑』(武井周作 著 1831年)をみましょう。

『魚鑑』における蜆(しじみ)情報

志〃み

『萬葉集』に出づ。“四時美(しじみ)”の字を用ゆ。『和名抄』に“志〃みがひ”、加賀に“ち志み”。漢名、蜆。『綱目』に出づ。淡鹹交会(まみずしおみずのあいだ)に生ず。その殻、泥中のもの黒く、沙磧(すないし)中のもの黄を帯ぶ。東都(えど)角田川(すみだがわ)のものを“業平志〃ミ(なりひらしじみ)”とよぶ。その肉、殻裡に満ちて甘美(うま)し。これ穀液(こめのしる)米泔(しろみず)の化に長するゆえなり。江都第一とす。薩摩に白縷文(しろすじのあや)あるものあり。『河間府志(がかんふし)』の白蜆なり。近江に黄色のもの多し、“あか志ゞミ”と呼ぶ。
[氣味]甘鹹冷、毒なし
[主治]湿熱を去り、小水を利し、盗汗を止む。黄疸には味噌汁に煮て食ふ。
又、煮汁にて身を洗てよし。

■原文
志〃み
萬葉集に出つ。四時美の字を用ゆ。和名抄に志〃みがひ、加賀にち志み、漢名蜆、綱目に出つ。淡鹹交會に生す。その殻、泥中のもの黒く、沙磧中のもの黄を帯ぶ。東都角田川のものを業平志〃ミとよふ。その肉殻裡に満て甘美し。これ穀液米泔の化に長するゆへなり。江都第一とす。薩广に白縷文あるものあり。河間府志の白蜆なり。近江に黄色のもの多し。あか志ゞミと呼ぶ。
[氣味]甘鹹冷毒なし
[主治]濕熱を去り、小水を利し、盗汗を止む。黄疸にハ味噌汁に煮て食ふ。又煮汁にて身を洗てよし。

周作先生が記す蜆の食物本草情報は、『公益本草大成』『日養食鑑』と同じく「湿熱を去り、小水を利し、盗汗を止む。」とあります。また「黄疸には味噌汁に煮て食ふ。」という情報も興味深いですね。

「酒毒を治す」というのは、深酒の翌朝にシジミのお味噌汁という現代でも定番のレシピの原点にもなっているのでしょうね。ゴケイメシに欠かせない一品といえる食材です。

鍼道五経会 足立繁久

 

 

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