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3月のゴケイメシはタケノコご飯
3月の講座【医書五経を読む】では、打ち上げ(ゴケイメシ)に、春が旬のタケノコご飯を炊きました。

写真:土鍋で炊き上げた「タケノコご飯」

写真:筍とサンショの木の芽の合わせご飯
春の訪れを感じさせるタケノコ、そしてサンショに関する本草情報を江戸時代の本草書から確認しておきましょう。
出典資料は『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)、『公益本草大成』(岡本一抱 著 1698年)、『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)、の年代順で紹介していきます。
タケノコの食物本草能について
まずは玄医先生の『閲甫食物本草』からみてみましょう。
『閲甫食物本草』に記されるタケノコ(筍)の効能
竹筍 多氣乃古 氣味甘寒、無毒
『別録』に曰く、消渇を治し、水道を利し、氣を益す、久しく食するべし。
寗原が曰く、膈を利し、氣を下し、熱を化し、痰を消し、胃を爽にす。
宗奭が曰く、筍は化し難く人を益さず、脾病に之を食すること宜しからず。一小児、乾筍三寸許を食し、喉中に於いて噎び、壮熱し、喘粗すること驚の如く、驚薬を服して効せず。後に筍を吐出して諸症は乃ち定む。其の化し難き也、此れの如し。
時珍が曰く、賛寧が『筍譜』に云う、筍は甘美なりと雖も而して大腸を滑利す、脾に於て無益。俗に之を刮腸箟と謂う。惟だ生姜及び蔴油は能く其の毒を殺す。人、蔴滓を以て竹叢に沃せば則ち次年には凋疎す。験むる可し矣。
閲甫按するに、筍は脾病に宜しからずと雖も、而して刮腸の名あり。余、毎(つね)に脾胃弱虚を病む、然して筍羹を食して脾を害することを覚えず。是れ即ち素より嗜み、又、飪烹し調和する故也。然れども、諸賢は甚だ之を戒めるを以て、故に守りて多食せず。
■原文
竹筍 多氣乃古 氣味甘寒、無毒
別録曰、治消渇利水道益氣、可久食。寗原曰、利膈下氣化熱消痰爽胃。宗奭曰、筍難化不益人、脾病不宜食之。一小児食乾筍三寸許、噎於喉中壮熱喘粗如驚、服驚藥不効、後吐出筍諸症乃定、其難化也如此。時珍曰、賛寧筍譜云、筍雖甘美而滑利大腸無益於脾、俗謂之刮腸箟、惟生姜及蔴油能殺其毒、人以蔴滓沃竹叢則次年凋疎可驗矣。
閲甫按、筍雖不宜於脾病而有刮腸之名、余毎病脾胃弱虚、然食筍羹不覺害脾、是即素嗜又飪烹調和故也。然以諸賢甚戒之。故守不多食。
「治消渇、利水道、益氣」「利膈、下氣、化熱、消痰、爽胃」といった効能は、健康食材として、なかなか良さそうな食物本草能にみえます。
しかし、タケノコはアク抜きをしないといけないほどの食材で、アクの成分はシュウ酸とホモゲンチジン酸だといわれています。そのためかタケノコを食べすぎると「腹痛・胃痛・下痢や便秘」を起こすこともよく知られています。
となると、上記の効能の中でとくに「爽胃」はどうなのだろうか…と、疑問に思うところです。
それよりも、宗奭の言にある「筍難化不益人、脾病不宜食之」という筍の性質の方が納得できる食物本草能に思えます。続く文には「一小児が干しタケノコを食べた後に、噎症を引き起こした」というエピソードも引用記載されています。(アク抜きが不十分な筍を使用したのでしょうか…)
名古屋玄医先生の意見としては、ご自身が元来の脾胃虚弱の体質であるのにも関わらず、「筍羹を食して脾を害することを覚えず。是れ即ち素より嗜み、又、飪烹し調和する故也。」と、“タケノコが脾病に不宜であることに否定的”であるようです。その理由として、普段からタケノコを食していること(慣れの問題なのか?)、飪烹(丁寧に料理されていること)も可能性として挙げています。「飪烹」には“煮る炊く”という加熱の意味がありますが、加熱だけでは竹筍のアク抜きには不十分であるため、アク抜きを含めた“丁寧な料理”として解釈しています。
さて、次に一抱先生の『公益本草大成』から栗情報です。
『公益本草大成』にある(筍)の効能
諸竹筍(もろもろのたけのこ)甘微寒
消渇を治し、水道を利し、膈を利し、氣を下し、熱を化し、痰を消す。
○苦竹筍(たけのこ) 苦甘寒
消渇・酒毒・風悶・風熱・脚氣・中風・失音・不睡・面目舌の熱黄を治し、水を利し、氣を下し、痰を化す。
○淡竹 甘寒 痰を消し、熱狂・壮熱・頭痛・頭風・孕婦の頭旋・温疫・小児の驚癇を除く。
酸筍(つけたけのこ) 酸涼
湯を作して食せば、渇を止め、肌を解き、膈を利す。
愚、按するに、今の筍鮓(たけのこのすし))の氣性、此れと同じかるべきか。
■原文
諸竹筍 甘微寒
治消渇利水道利膈下氣化熱消痰。○苦竹筍 苦甘寒 治消渇酒毒風悶風熱脚氣中風失音不睡面目舌熱黄、利水下氣化痰。○淡竹 甘寒 消痰除熱狂壯熱頭痛頭風、孕婦頭旋温疫小兒驚癇。
酸筍 酸涼
作湯食止渇解肌利膈。愚按するに、今の筍鮓の氣性、此と同かるべき歟。
『公益本草大成』には、上記『閲甫食物本草』と同じく、「治消渇、利水道、利膈、下氣、化熱、消痰」を筆頭に挙げています。
また「苦竹筍」「淡竹」「酸筍」といったタケノコの種類も豊富に記されています。
次に元混先生の『日養食鑑』から栗の食物本草情報をみてみましょう。
『日養食鑑』に記されるタケノコ(竹筍)の効能
たけのこ 竹筍 苦甘寒、毒なし
性、化(こな)れ難く、脾胃に益なし。病人・小児は食すべからず。
▲砂糖と差合
○はちく 淡竹筍 甘微寒、毒なし。痰を消し、熱を除く。
○まだけ 苦竹筍 苦寒、毒なし。氣を下し、胃を爽やかにす。
○もうそう 江南竹 微寒、毒なし。
■原文
たけのこ 竹筍 苦甘寒、毒なし
性化れ難く、脾胃に益なし。病人小兒は食すべからず。
▲砂糖と差合
○はちく 淡竹筍 甘微寒、毒なし。痰を消し、熱を除く。○まだけ 苦竹筍 苦寒、毒なし。氣を下し、胃を爽にす。○まうそう 江南竹 微寒、毒なし。
『日養食鑑』では「(タケノコの)性、化(こな)れ難く、脾胃に益なし。病人・小児は食すべからず。」とあり、宗奭の言に「筍難化不益人、脾病不宜食之」に準じた立場にあります。
私自身も脾胃虚弱の体質ですので、どちらかというと宗奭・石川元混の意見に賛成するかなぁ…、と思うところ。
また『日養食鑑』では「はちく」「マダケ」「もうそうちく」の種類が記されており、今でも一般に通ずる竹の種類名です。さすが「日養」という名の通りですね。
つぎに木の芽・サンショの食物本草情報といきましょう。
山椒の食物本草能について
山椒に関する情報は『閲甫食物本草』(名古屋玄医)には見つけられませんでした。ですので『公益本草大成』(岡本一抱)からさきに紹介しましょう。
『公益本草大成』にあるサンショウ(秦椒・蜀椒)の効能
秦椒(シンショウ・さんしょう) 辛温
風邪を除く、中を温め、寒痺を去り、歯髪を堅くし、目を明にし、喉痺・吐逆・疝瘕を治す。瘀血を去り、産後の余疾・腹痛・出汗を治す。五臓を利す。欬嗽・血痢・久痢・女人経閉・産後瘀血痢・腹中冷痛を治し、腫湿氣を下す。(苦参・栝蔞・防風・葵を悪む、修治は蜀椒に同じ)。
■原文
秦椒(さんしやう) 辛温
除風邪温中去寒痺堅齒髪明目治喉痺吐逆疝瘕、去瘀血、治産後餘疾腹痛出汗、利五藏、治欬嗽血痢久痢女人經閉産後瘀血痢腹中冷痛、下腫濕氣。(悪苦蔞防葵、修治同蜀椒)。
蜀椒
蜀椒(ショクショウ・あさくら) 辛温
肺に入りて寒を散じ、脾に入りて湿を除く。右腎に入りて火を補い、胃を温めて食を消す。
欬嗽・風寒湿痺・水腫・瀉痢・陰痿・溺数・腰足弱・泄精・腹内冷痛を治す。鬱結を解き、三焦を通じ、蚘蟲を殺し、胸膈を開き、瘀血を破る。癥瘕を治し、乳汁を下し、氣を下す。頭風・目涙を治し、大風汗不出を療し、骨節風寒湿を逐い、腠理を開き、悪氣を下す。
(薬に用いるには、目を去り、口を閉じる者は用いる勿れ、人を殺す徴なり。炒て汗を出して使う。
○杏仁を使とす。塩を得て佳し、款冬花・防風・附子・雄黄を畏る。多食すれば氣を損じ、心を傷り、目明を失し、血脉を傷る。人をして健忘をせしむ、火を水中に於いて生じる。腎氣虚寒の者に之を用いて上逆を引て経に帰する。
【椒目】 苦辛寒 水を下し、湿を燥かし、喘を定(しず)め、水腫腹満を治し、氣を下し、腎に帰す。腎虚の耳鳴を治する。
【 葉 】 辛熱 腎積を治す、霍乱転筋を療する。艾・葱と同じく蹍(きじく)、醋に拌(かきまぜ)奄(おおう)、蟲を殺し、脚氣・漆瘡を洗う。
【 根 】 辛熱 腎膀胱の虚冷・瘀血淋を治する。色の清き者には用いること勿れ。
崖椒(ガイショウ・のさんしょう) 辛熱 肺氣上喘・欬嗽を治する。盬を忌む。
蔓椒(マンショウ・いぬさんしょう) 苦温 風寒湿痺・歴節痛を治す。根を煎じて痔に浸す、枝葉を煎じ服して水腫を治する。
地椒(つるさんしょう) 辛温 淋腫痛(を治す)、殺蟲、牙痛に擦(すりぬ)る。
■原文
蜀椒(あさくら) 辛温
入肺散寒、入脾除濕、入右腎補火、温胃消食。治欬嗽風寒濕痺水腫瀉痢陰痿溺數腰足弱泄精腹内冷痛、解欝結、通三焦、殺蚘蟲、開胸膈、破瘀血、治癥瘕、下乳汁、下氣、治頭風目涙、療大風汗不出、逐骨節風寒濕、開腠理、下悪氣。(用藥去目閉口者勿用殺人徴炒て汗を出乄使。○杏仁を使とす。得塩佳、畏款冬花、防風、附子、雄黄。多食損氣傷心失目明傷血脉、令人健㤀生火於水中。腎氣虚寒者用之引上逆歸經。
椒目 苦辛寒 下水燥濕定喘治水腫腹満、下氣歸腎、治腎虚耳鳴。
葉 辛熱 治腎積、療霍亂轉筋。同艾葱蹍拌醋奄、殺蟲洗脚氣漆瘡。
根 辛熱 治腎膀胱虚冷瘀血淋。色淸者勿用。
崖椒(のさんせう) 辛熱 治肺氣上喘欬嗽。忌盬。
蔓椒(いぬさんせう) 苦温 治風寒濕痺歴節痛、根煎浸痔、枝葉煎服治水腫。
地椒(つるさんせう) 辛温 淋腫痛、殺蟲、摖牙痛。
『公益本草大成』には、「秦椒」「蜀椒」他3種の“椒”が記載されています。本書では「秦椒」「蜀椒」がそれぞれ「サンショウ」と「アサクラ」とフリガナで書き分けられています。
「アサクラ」とは、いわゆる“朝倉山椒”のことでしょうか。調べてみると、現在に流通している“朝倉山椒”の歴史は、約400年前にまで遡るそうです。
なんでも“16世紀の頃、豊臣秀吉の命を受けて、生野銀山の周辺で栽培された品種を朝倉山椒という”らしいです。
なので、岡本一抱からすると、国産の新品種というわけですね。
だがしかし、「蜀椒=あさくら」とするわけにもいかないでしょう。
もし「蜀椒=朝倉山椒」と解釈してしまうと、『傷寒論』に記される烏梅丸、『金匱要略』に記される大建中湯、これら方剤に使用される蜀椒はナニ山椒?という疑問が生じることになります。
いわゆるサンショ・山椒の呼び名に関しては、調べるほどにややこしく感じます。(今把握している中で)最も詳しく調べられていると思われる資料がコチラ(『古代の山椒』中村亜希子,神野恵,奈良文化財研究所)です。
https://share.google/OSlapdgde4qjVPCC2
詳しい分類は、専門の方々にお任せするとして、『日養食鑑』に記載されるサンショウの食物本草情報もみてみましょう。
『日養食鑑』に記されるサンショウ(秦椒)の効能
さんしょう 秦椒 辛温、毒なし。
胃を健やかにし、宿食を消し、蟲を殺す。
○山椒の口をひらかざるは毒あり、食うべからず。
又、山椒にむせたるに食塩を嘗(なむ)べし。
又、口をひらいて人に咽を吹しむれば直(すぐ)に安し。
■原文
さんせう 秦椒 辛温毒なし。
胃を健にし宿食を消し蟲を殺す。
○山椒の口をひらかざるは毒あり、食べからず。又山椒にむせたるに食塩を嘗べし。又口をひらいて人に咽を吹しむれバ直に安し。
『公益本草大成』でも『日養食鑑』でも、「山椒の口をひらかざる」という記載から考えるに、山椒の葉というよりも、サンショウの実に関する情報が主のようです。まだ未成熟な山椒の実は、使用すべきではないということでしょう。
サンショの実に関する食物本草能は、薬味として非常に有用のようです。とくに蜀椒の本草能には、目を通しておくべきものだと思われます。
山椒の葉に関する情報は、前述の『公益本草大成』に記されています。
「葉 辛熱 治腎積、療霍乱転筋。同艾葱蹍拌醋奄、殺蟲・洗脚氣漆瘡。」とのこと。漆かぶれに有益というのも、私が子どものときに知っておきたかった情報です。
鍼道五経会 足立繁久
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