小児診法について
本書『銭氏小児直訣』(薛己注本)には、『類証注釈銭氏小児方訣』(熊宗立注本)にない情報が記載されています。本章「脈法」も然り。とくに本文にある“三部五脈”の知識と診法は、小児はりを実践する私たち鍼灸師にとっても重要なものといえるでしょう。
※画像は『(銭氏)小児直訣』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『校註銭氏小児直訣』 小児の脈法
書き下し文 『校註銭氏小児直訣』 脈法
(銭氏)小児直訣巻一
門人 閻孝忠 集
後学 薛 鎧 註
蒋宗澹 校
脈法
脈弦急、氣和せず。
脈沈緩、傷食。
脈促結、虚驚。
脈浮、風と為す。
脈沈細、寒と為す。
脈乱れるは不治。
薛按ずるに、脈とは人身の造化、病機の先見、用薬の準縄なり、先ず諸々を心に明せずんばあるべからざる者也。
『全幼心鑑』に云う、小児一歳以前は虎口食指の寅・卯・辰の三関を看て、以て其の病を験(しら)べる。
脈紋、寅関より起きて卯関に至らざる者は易治。若し卯関に連なる者は難治。若し寅(関から)、卯(関)に侵し、卯(関)から辰(関)へ侵過する者は十に一も救われず。
其の脈紋に五色あるを見る。如し驚に因るは必ず青し。瀉痢は色紫。當に類を以て之を推す。
一歳の後、則ち一指を用いて転側し其の三部の脈弦急浮沈を弁う。
四五歳の後、脈七八至にして細数なる者を平と為す。九至なる者は傷、十至の者は困。六至五至の者を虚と為し寒と為す。弦緊なる者は風癇を為し、弦急なるは客忤と為す。其の変蒸の者、脈は必ず散乱し、骨間に熱有り。脈は則ち沈数なり。
若し浮而して調わざるは鬼祟と為す。浮大而して数なるは風熱と為し、(脈)伏結は物の聚ると為す。(脈)微細なるは疳積と為し、腹痛と為す。浮而して洪なるは有蟲と為す。浮而して遅なるは胃寒を為す。此れ脈の大要を論ずる耳(のみ)。
然るに、小児は血氣未だ実せず。驚すれば則ち氣は散ず、氣散ずれば則ち脈は乱れる。
又、當に参(まじえ)るに、三部五脈を以てす。三部とは乃ち面上氣色、虎口脈紋、寸口一指脈を看る。五脈とは、上は額前を按じ、下は太衝を診る。前の三部と并せて、これを五脈と謂う也。
治法は虚実を分かつと雖も、然るに実なる者は病氣実而して形氣虚なり。虚なる者は、形氣病氣俱に虚なり。
経に云う、真氣奪わるときは則ち虚、邪氣勝つときは則ち実。
又云う虚するときは則ち其の母を補い、実するときは則ち其の子を瀉する。
東垣先生が云う、形病俱に実するは、當に之を瀉すべし。形病俱に虚するは當に之を補するべし。(詳見後圖下)
小児診法の難しさ
虎口三関脈診
本文にある「虎口」「虎口脈紋」とは、いわゆる「虎口三関脈診」のことです。
虎口三関脈診とは、患児の示指に浮かぶ血脈を視る脈診法です。“脈(脈紋)を視る”という点では、通常の脈診が切診に属することに対して、虎口三関脈診は望診の要素をもつ診法といえるでしょう。
さて「寅卯辰」とありますが、三部の場所(関)を表わしています。寅関は示指基節部、卯関は示指中節部、辰関は示指末節部を意味します。虎口三関脈診では、示指の三関(寅関・卯関・辰関)にはそれぞれの意味があり、また現れる脈紋の色・長さなどが、診断のための情報になるとされています。
あまり小児はり・小児漢方の臨床現場で用いられることは少ないかもしれません。私自身、何年かは小児はりの際は、常に虎口三関脈診を診るようにしてた時期がありました。
脈紋の形については、私は評価対象とはしませんでしたが、脈紋の色・脈紋の濃淡・深浅・三関の部位…などは、それなりに評価できるものではないか?と思います。
三部五脈とは
さて「三部五脈」についてです。
①面上の氣色
②虎口三関の脈紋
③寸口の一指脈
④額前の脈
⑤太衝の脈
①②③を併せて三部といい、すべてを併せて五脈という…とあります。
大人の診法と比較すると、その共通点は ①面上氣色(望診・氣色診) ③寸口一指脈 の二法でしょう。しかし、④額前の脈、⑤太衝の脈は、『素問』三部九候論にも触れられている脈診部位です。(額前の脈の部位は『素問』三部九候論では「両額之動脉」と記されている)
額前の脈とは、いわゆる“こめかみ”に当たる部位を診る脈法です。いずれにせよ、額前の脈といい、太衝の脈といい、小児の性質をよく観察しようとする脈法であることがうかがえます。
三部五脈の中には、一般のお母さんがわが子に対し自然と行っている診法もあります。
小児の治療方針
大人の治療に比べ、小児の治療は難しいもの。その理由は診察の難しさにあります。そのため、三部五脈といった小児診法が考案されたのです。
そして、小児の治法で重要なのは、虚実を鑑別することにあります。本章の終盤には、この虚実を見極め、正しく補瀉することを強調しています。
とくに『難経』六十九難の補瀉法(虚則補其母、實則瀉其子)を挙げていますが、小児の治法(とくに肝木を補う場合)には、よく用いられている治法でもあります。
ともあれ、虚実補瀉について繰り返し記している点から、小児治療において補瀉を誤ることは、大人の治療以上に深刻な状況を招くことを暗に示唆しています。
鍼道五経会 足立繁久
序文 ≪ 小児脈法 ≫ 面部症 ≫ 目部症 ≫ 五臓所主 ≫
原文 『校註錢氏小兒直訣』脉法
■原文 『校註錢氏小兒直訣』
(錢氏)小兒直訣巻一
門人 閻孝忠 集
後學 薛 鎧 註
蔣宗澹 校
脉法
脉弦急、氣不和。脉沉緩、傷食。脉促結、虚驚。脉浮、爲風。脉沉細、爲寒。脉亂、不治。
薛按、脉者人身之造化病機之先見用藥之準繩、不可不先明諸心者也。全幼心鑑云、小兒一歳以前看虎口食指寅卯辰三關、以驗其病。脉紋、從寅關起不至卯關者易治。若連卯關者難治。若寅侵卯、卯侵過辰者十不救一、其脉紋見有五色、如因驚必青、瀉痢色紫。當以類而推之、一歳後則可用一指轉側辨其三部脉弦急浮沉。四五歳後、脉七八至而細數者爲平。九至者傷、十至者困。六至五至者爲虚爲寒、弦緊者爲風癇、弦急爲客忤。其變蒸者脉必散亂、骨間有熱。脉則沉數。若浮而不調爲鬼祟、浮大而數爲風熱伏結爲物聚、微細爲疳積爲腹痛、浮而洪爲有蟲、浮而遅爲胃寒。此論脉之大要耳。然小兒血氣未實、驚則氣散、氣散則脉亂矣。
又當叅以三部五脉、三部者乃看面上氣色、虎口脉紋、寸口一指脉。五脉者、上按額前、下診太衝。并前三部、謂之五脉也。治法雖分虚實、然實者病氣實而形氣虚也。虚者形氣病氣俱虚也。經云眞氣奪則虚、邪氣勝則實。又云虚則補其母、實則瀉其子。東垣先生云、形病俱實、當瀉之。形病俱虚當補之。(詳見後圖下)

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