虎口三関脈診の症例『保嬰撮要』より

 

https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00003249?page=33

 

『保嬰撮要』の症例

薛氏の書には、彼の症例が多く掲載されているのも、特徴の一つだと思います。『保嬰撮要』もその例に漏れず、本記事で紹介する治験の章にも “虎口三関脈診” にまつわる症例が紹介されています。この虎口三関脈診をもとにした症例というのは非常に稀少なものだと思います。前章では「雖然余常治之、亦有不専執其形脉」とは書き記していましたが、やはり薛氏は臨床で虎口三関脈診に信を置いて診断の目安としていたのですね。心して読むようにしましょう。

※画像は『保嬰撮要』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『保嬰撮要』 脈法

書き下し文 『保嬰撮要』 治験

一小児、発熱、吐瀉、腹脹、不乳、其の紋は流珠の如し。此れ脾胃の氣傷る。先ず香砂助胃膏を、後に六君子湯を用いて、全愈す。

一小児、寒熱し、嘔を作し、飲食入らず、其の腹を按じて乃ち哭す。脉紋は長珠の如し。此れ飲食停滞する也。大安丸を用いる。吐瀉宿滞は遂に安し。但だ唇は自ら抽動し、大便稀黄なり。此れ病邪去りて虚熱の迫る所也。六君子湯加藤鈎を用いて愈える。

一小児、胸腹膨張、発熱、頓悶、脉紋は環珠の如し。手を以て腹を按じて即ち哭する。此れ脾胃虚に属して飲食停滞する也。先に保和丸一服を用い、前症を失えるが如し。更に煩渇を加う、其の腹を按じて哭せず。此れ宿食去りて脾胃復た傷れる也。五味異功散加柴胡を用いて之を治する。頓ろに瘳える。

一小児、時ならずして乾嘔、乳食進まず、肚腹膨脹す。脉形は来蛇の如し。此れ脾胃虚して疳を成す也。四味肥兒丸を用い疳を治し、佐するに四君加蕪荑を以て、健中して痊える。
後に、飲食に傷られ吐瀉完穀し、形氣甚だ困じ、四肢微搐す。其の紋の去蛇の如くを視る。
余が曰う、且(しばらく)薬を用いる勿れ、と。次の日に吐は止み、但だ搐して青黄を瀉す。此れ脾土虚して肝木勝つ也。六君子加釣藤鈎を用いて瘥える。

一小児、未だ周歳に及ばず、氣短、喘急、乳食少進、時に或いは吐乳す。其の形を視るに去蛇の如し、乃ち脾傷れて食積するなり。先に六君子加山査枳実を用いて漸く愈える。後に乳食に復た傷れ、吐瀉し渇を作す。先に胃苓膏を与え、継ぎに白朮散を与えて愈える。

一小児、睡臥、驚悸、発熱、痰盛ん。脈の形は弓の外に向うが如し。此れ驚に因りて木旺し脾を傷りて食消せず也。先に天麻防風丸を以て、祛風し驚を定む。後に五味異功散を用いて、脾を壮んにし、搐を止めて、全瘥する。

一小児、沈黙、昏倦、肢冷、驚悸す。其の紋、弓の裏に向うが如し。此れ胃氣虚して寒邪に外感するに属する也。先に惺惺散を用い、以て外邪を解し、胃氣を調え、諸症は頓ろに愈える。
但だ手足逆冷するに、又、六君子湯を用い、元氣を調補し而して安んず。

一小児、咳嗽を患い、牛黄清心丸を服して、喘促、腹脹を加う。
余、其の右瞼色赤紋るを視て、指(脈紋)は鎗の如し、脾氣復た傷るに属する。六君子湯を用いて頓ろに安んずる。

一小児、沈困、発熱、驚搐、不乳。其の脉紋を視るに乱魚骨の如し。此れ風熱急驚の症也。
先に抱龍丸少し許(ばかり)を用い、祛風化痰す。後に六君子湯加柴胡を用い、壮脾平肝して愈える。

一小児、咳嗽、發熱す、右瞼は赤色、渇を作し、煩悶、倦怠、少食、肚腹作脹す。脉紋は針の如し。此れ風邪傷肺して飲食脾を傷る也。先に六君子湯加桔梗杏仁柴胡一剤を用う。諸症は少しく愈ゆ。後に杏仁柴胡を去り再剤して安んずる。

一小児、発熱、夜啼、乳食不進、昏迷、抽搐、痰盛ん、口噤す。脉紋は水字の如し。此れ脾肺氣虚し、風木の乗ずる所、痰食の胸腹に積もる也。先に大安丸を用い、後に六君子湯加釣藤鈎を用いて愈える。

一小児、発熱、右瞼赤く、咳嗽し痰盛ん。其の脉紋は関を透り指を射る。余、以爲(おもえらく)風邪が肺に蘊結し而して痰を作する也。二陳加桑皮杏仁桔梗を用いて之を治す。
自ら発散降火の剤を用いるも、風痰は退かず、発熱益々甚だし。
余が曰う、此れ脾肺氣虚なり、治は其の宜を失す、と。遂に五味異功散加炒桔梗を用い、漸愈す。又、六君子湯を用い而して痊える。

一小児、停食、発熱す。芩連三稜厚朴などの剤を服し、飲食日に少しく胸腹脹る。其の紋は透りて指甲に至る。補中益氣湯加木香釣藤鈎を用い、脾氣を温補し、肝木を平制す、数剤して漸く効す。又、六君子湯加炮姜を用いて之を治し、而して安し。
其の間、泛(ひろ)く金石・腦・麝・祛逐の剤を用い、驚に変じて歿する者、枚挙すること能わず。惜しむ哉。

小児の症例について

この章には、13種の症例が記載されています。13症例を挙げたその目的は、13種の脈紋パターンを説明することにあります。ですので、症例の順も、前章にある「流珠形」「環珠形」「長珠形」「来蛇形」「去蛇形」「弓反裏形」「弓反外形」「槍形」「魚骨形」「水字形」「針形」「透関射指形」「透関射甲形」…の紹介された順に症例が列挙されています。

この症例を参考にすることで、虎口三関脈診の活用の手がかりになるかもしれません。

本章の症例群は、当会講座のテキスト・教材としても活用することになることでしょう。

鍼道五経会 足立繁久

原文 『保嬰撮要』脉法

■原文 『保嬰撮要』治驗

一小兒發熱吐瀉腹脹不乳、其紋如流珠。此脾胃氣傷先香砂助胃膏後用六君子湯。全愈。
一小兒寒熱作嘔飲食不入按其腹乃哭、脉紋如長珠。此飲食停滯也。用大安丸。吐瀉宿滯遂安。但唇自抽動、大便稀黄、此病邪去而虚熱所迫也。用六君子湯加藤鈎而愈。
一小兒胸腹膨張發熱頓悶、脉紋如環珠、以手按腹卽哭、此属脾胃虚而飲食停滯也。先用保和丸一服、前症如失。更加煩渇、按其腹而不哭。此宿食去而脾胃復傷也。用五味異功散加柴胡治之。頓瘳。
一小兒不時乾嘔乳食不進肚腹膨脹、脉形如來蛇。此脾胃虚而成疳也。用四味肥兒丸治疳、佐以四君加蕪荑健中而痊。後傷飲食吐瀉完穀形氣甚困四肢微搐、視其紋如去蛇。余曰且勿用藥、次日吐止、但搐而瀉青黃、此脾土虚而肝木勝也。用六君子加釣藤鈎而瘥。
一小兒未及周歳、氣短喘急乳食少進時或吐乳視其形如去蛇、乃脾傷而食積。先用六君子加山査枳實漸愈。後乳食復傷吐瀉作渇、先與胃苓膏、繼與白朮散而愈。
一小兒睡臥驚悸發熱痰盛、脉形如弓之向外。此因驚木旺傷脾而食不消也。先以天麻防風丸、祛風定驚。後用五味異功散、壯脾止搐全瘥。
一小兒沉黙昏倦肢冷驚悸、其紋如弓之向裏。此属胃氣虚而外感寒邪也。先用惺惺散、以解外邪、調胃氣、諸症頓愈。但手足逆冷、又用六君子湯、調補元氣而安。
一小兒患咳嗽、服牛黄清心丸、加喘促腹脹。余視其右瞼色赤、紋指如鎗、属脾氣復傷、用六君子湯頓安。
一小兒沉困發熱驚搐不乳、視其脉紋如亂魚骨。此風熱急驚之症也。先用抱龍丸少許、祛風化痰。後用六君子湯加柴胡、壯脾平肝而愈。
一小兒咳嗽發熱、右瞼赤色、作渇煩悶倦怠少食肚腹作脹、脉紋如針。此風邪傷肺而飲食傷脾也。先用六君子湯加桔梗杏仁柴胡一劑。諸症少愈。後去杏仁柴胡再劑而安。
一小兒發熱夜啼乳食不進昏迷抽搐痰盛口噤、脉紋如水字。此脾肺氣虚、風木所乗、痰食積於胸腹也。先用大安丸、後用六君子湯加釣藤鈎而愈。
一小兒發熱右瞼赤咳嗽痰盛、其脉紋透關射指。余以爲風邪蘊結於肺而痰作也。用二陳加桑皮杏仁桔梗治之。自用發散降火之劑、風痰不退、發熱益甚。余曰此脾肺氣虚、治失其宜遂用五味異功散加炒桔梗、漸愈。又用六君子湯而痊。
一小兒停食發熱服芩連三稜厚朴等劑、飲食日少胸腹脹、其紋透至指甲。用補中益氣湯加木香釣藤鈎、温補脾氣、平制肝木、數劑漸効。又用六君子湯加炮薑治之、而安其間泛用金石腦麝、祛逐之劑、變驚而歿者不能枚舉、惜哉。

 

 

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