紋形主病歌に記される脈紋について
本記事では『幼幼集成』の紋形主病歌の節について紹介しています。本節では、虎口三関脈診における脈紋の形状を用いた診断について詳述されています。
本文に記される“脈紋の弯曲”への観点は興味深いものがあります。私も小児はりの臨床において、脈紋の内外弯曲は興味をもって観察した時期もあります。
また、以前の記事「小児の診法『保嬰撮要』より」においても13種の脈紋形について紹介されています。併せて読むと参考になるかもしれません。
まずは紋形主病歌の本文を読んでいきましょう。
※画像は『鼎鍥幼幼集成』国書データベースより引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『幼幼集成』 紋形主病歌
書き下し文 『幼幼集成』 紋形主病歌
腹疼の紋(脈紋)、掌の中心に入る。
内に弯(ま)がるは、風寒次第に侵す。
紋の外に向かい弯(ま)がるは、痰食熱。
(脈紋の形)水形は脾肺両(両臓)の傷陰なり。
掌は心包絡の主る所。紋(脈紋)掌中に入るは、邪内臓を侵し、中氣寒えるに由る也、故に腹痛を為す。
○紋(脈紋)、弯弓の若(ごと)くに、内外の別有り。其の紋の両頭弯(ま)がりて中指に向かうは、内と為し順証と為し外感風寒と為し、之を治するに猶(なお)易し。其の紋の弯(ま)がりて大指に向かうは、外と為し逆証と為し内傷飲食と為し、之を治するに稍(やや)難し。
○形、水字の如きは、脾肺不足、食塞太陰、中氣怯弱、脾の運化せざるが故也。
或る人問う、指紋は惟だ一線に止む。安んぞ能く水字の形有らん、と。
曰く、太淵の脈を観ざるや、亦た一線に止む。何を以て陽維・陰維・陽蹻・陰蹻、皆な左右に弾石するか。豈に水字の形に非ずや。脈に左右有り、安んぞ紋に左右無きことを知らん。但だ能く類に触れ旁(ひろく)通ずれば、往くに理に非ざるは無し。豈に特(ひとり)指紋のみ然りとするに為さん哉。
凡そ指紋を看るに、我の太拇指の側面を以て、児の食指三関を推す。切に指を覆すべからずして推す。蓋し螺紋に火有り。肺金を尅制する、紋には必ず色変ずる。
又、只(ただ)命関より風関に推し上ぐべくして、切に風関より命関に推し出すべからず。此の紋、愈(いよいよ)推せば愈(いよいよ)出でる。其の紋、先(はじめ)は原(もと)未だ透関せざるに、今、誤りて推して之(脈紋)を出だせば大いに肺氣を損ず。之を愼しみ之を戒めよ。
以上の表裏・寒熱・虚実、鑿鑿として據るところ有り、但だ能く証に臨む時に、此の六字(表裏寒熱虚実)を認め得て分明なれば、胸中に自ら主宰あり。中らずと雖も遠からずなり。
若し但だ驚証を以て責を塞げば、何れの応対も難し、第(ただ)晨鐘に自ら問えば、未だ懐漸を免れず。凡そ我が同人、互いに砥礪と為すれば幸いなり。
脈紋の弯曲
まず文中の「其紋之両頭弯向中指、為内為順証為外感風寒」「紋弯向大指為外為逆証為内傷飲食」ですが、文脈を察するに以下の(太文字)ように訂正すべきではないでしょうか。
誤?「其紋之両頭弯向中指、為内為順証為外感風寒…(略)…紋弯向大指為外為逆証為内傷飲食」
正?「其紋之両頭弯向中指、為外為順証為外感風寒…(略)…紋弯向大指為内為逆証為内傷飲食」
脈紋の向きではなく、文脈からみて「外感風寒」は内証ではなく外証であり、内傷飲食は外証ではなく“内”とすべきです。故に上記のような指摘とさせていただきました。
また脈紋の向きですが、食指の脈紋が「弯向中指」「弯向大指」で表裏外内を分けるというのは興味深いものがあります。
ちなみに薛氏の『保嬰撮要』では「弓反裏形、主感冒寒邪哽氣出氣…」「弓反外形、主痰熱心神恍惚夾驚夾食風癇痰盛…」とあります。
示される脈紋の向きと病症とをみると、「弯向中指」(幼幼集成)が「弓反裏形」(保嬰撮要)に相当し、「弯向大指」」(幼幼集成)が「弓反外形」(保嬰撮要)に相当します。このことは『保嬰撮要』に図示される脈紋からも確認することができます。
さて、この脈紋の向きによって、病位の内外を判断しようとする試みは非常に興味深いのです。
これは寸口脈の内外を診るという観点は、気口九道脈診になどにもみられるからです。
さらに「水字形」の一節(陳復正の記述)からは、気口九道脈診の示唆する一文も見られます。「曰不観太淵之脈、亦止一線、何以陽維陰維陽蹻陰蹻、皆左右弾石。豈非水字之形乎、脈有左右、安知紋無左右……」と、奇経の病脈(とくに陰蹻・帯脈・陽蹻、そして陰維・陽維)を連想させるものがあります。
続く文「但能触類旁通無徃非理、豈特指紋爲然哉。」という言葉の趣意を真摯に受け止めなければなりません。
鍼道五経会 足立繁久
指紋晰義 ≪ 指紋切要 ≪ 三関部位歌 ≪ 浮沈分表裏歌 ≪ 紅紫弁寒熱歌 ≪ 淡滞定虚実歌 ≪ 紋形王病歌 ≫ 小児脈法
… ≫≫ 面部形色賦 ≫ 弁色分註 ……
原文 『幼幼集成』紋形主病歌
■原文 『幼幼集成』紋形主病歌
腹疼紋入掌中心、彎内風寒次第侵、紋向外彎痰食熱、水形脾肺兩傷陰
掌心包絡所主、紋入掌中、邪侵内臓由中氣寒也、故爲腹痛。○紋若彎弓、内外有別、其紋之兩頭彎向中指、爲内爲順證爲外感風寒治之猶易、其紋彎向大指爲外爲逆證爲内傷飲食、治之稍難。
○形如水字、脾肺不足、食塞太陰、中氣怯弱脾不運化故也。
或問指紋惟止一線、安能有水字之形、曰不觀太淵之脈、亦止一線、何以陽維陰維陽蹻陰蹻、皆左右彈石、豈非水字之形乎、脈有左右、安知紋無左右、但能觸類旁通無徃非理、豈特指紋爲然哉。
凡看指紋、以我之太拇指側靣、推兒食指三關、切不可覆指而推、葢螺紋有火、尅制肺金、紋必變色、又只可從命關推上風關、切不可從風關推出命關、此紋愈推愈出其紋在先原未透關、今誤推而出之大損肺氣愼之戒之。
以上表裏寒熱虚實、鑿鑿有據、但能於臨證時、認得此六字分明、胸中自有主宰、雖不中、不遠矣。若但以驚證塞責、何難應對、第晨鐘自問、未免懐懐漸、凡我同人、互爲砥礪幸矣。

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