『幼幼集成』に記されるリアルな小児診療
『幼幼集成』(1750年)は、陳復正による小児科医書です。
実践的な小児診法という点では、冒頭にある「蓋診之難而虚実不易定也。小児毎怯生人、初見不無啼叫、呼吸先乱、神志倉忙、而遅数大小已失本来之象矣。診之何益。不若以指紋之可見者、与面色病候相印証、此亦医中望切両兼之意也。」という文章からも、臨床における小児診法の問題点が端的に指摘されています。
小児科だからこそ、望診(脈紋だけでなく面部・目部の望診も)が重要になってくるのです。それでは『幼幼集成』の指紋切要の章を読んでいきましょう。
※画像は『鼎鍥幼幼集成』国書データベースより引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
『幼幼集成』 指紋切要
書き下し文 『幼幼集成』 指紋切要
小児、彌月より三歳に至るまで、猶(なお)未だ診切を以てすべからず、診るべき脈の無きに非ずも、蓋し之を診るに難く、而して虚実は定まり易からざる也。小児は毎に生人に怯え、初見に啼叫せざる無く、呼吸は先ず乱れ、神志倉忙して、(寸口脈の)遅数・大小は已に本来の象を失うなり。之を診て何の益あらんか。指紋を以て之見るべき者、面色、病候と相い印証するに若(し)かず。此れ亦(また)医の中に望切の両つを兼るの意也。
人をして児を抱えせしめ、向光の処に対(む)かいて立つ。(医の)左手を以て児の食指を握り、我が右手の拇指を以て児の三関を推し、其の形色を察し、細心に体認し、亦た惟だ其の表裏・寒熱・虚実を弁ずれば之に足る。
世人は異なることを好む。実地用功に従わず、此を以て浅近の談と為し、留意するに屑(いさぎよ)しとせず。証に臨んで能く此の六者(表裏寒熱虚実)を弁ずれば、便ち至高の手と為ることを知らず。
蓋し表裏清ければ、則ち病の経に在るか腑に在るかを知り、而して汗下するに悞(うたが)い無し。
寒熱が明らかなれば、則ち寒を用いるに熱を遠ざけ、熱を用いるに寒を遠ざけ、或いは寒因に寒用い、熱因に熱用い、因事制宜(事に因りて宜しきを制する)、用いるに当たらざること無きを知る。
虚実を弁えれば、則ち大虚に盛候あり、大実に羸状あることを知り、仮証眩惑を為さず。
凡そ真虚真実は知り易く、仮虚仮実は弁ずること難し。真仮が既に明らかなれば、則ち虚虚実実の患い無し、此の切要の関頭に於いて、体会することを知らず。但だ不経の言を以て世を欺き俗を誑らかい、何れの者を人驚と為し、何れの者を畜驚と為すと謂う。特(ひと)り人を欺く(のみならず)、而して且つ自らをも欺く。特(ひと)り治療に益無く(のみならず)、而して且つ人の生命をも誤る。是れ誰の咎哉。
虎口三関脈診の実践について
陳氏の記す虎口三関の脈診法には、他の小児科医書にはない工夫が記されています。そのことが、この「指紋切要」の章にズバリ記されています。
次の学会で紹介する予定ですので、本記事では敢えて触れずにおくとします。しかし、他章でも随所に記されてもいますので、本書を熟読し、実践で試すとよいと思います。
診断の重要性
小児科医書でも(小児科だからこそ)、診断の重要性が説かれています。「寒熱」「虚実」「真仮」の弁証です。
「虚実弁、則知大虚有盛候、大実有羸状、不為仮証眩惑。」
この文には虚実を鑑別することが記されています。虚証の中に実候があり、実証の中に虚候があると。このようなケースは現代ではとくに多くみられるのではないでしょうか。
“飽食の時代”という言葉も、今は昔となった現代日本、大人はもちろん子どもたちも、食べ物に困ることは少なくなっています。そのため、身体的な発育は十分となり、体形・体格から虚証と断じることは誤診を招く可能性が出てくることでしょう。本文にある「大実有羸状」の正反対、強いていうなら“虚証有肥状”といったところでしょうか。
このように「寒熱」「虚実」「真仮」の鑑別は、実に基本的なことですが、日々のルーティーンの中で後回しになりがちなことでもあります。このような医書を読むことで、今いちど戒めることが大切ですね。
指紋晰義 ≪ 指紋切要 ≫ 三関部位歌 ≫ 浮沈分表裏歌 ≫ 紅紫弁寒熱歌 ≫ 淡滞定虚実歌 ≫ 紋形王病歌 ≫ 小児脈法
… ≫≫ 面部形色賦 ≫ 弁色分註 ……
鍼道五経会 足立繁久
原文 『幼幼集成』指紋切要
■原文 『幼幼集成』指紋切要
小兒自彌月而至於三歳猶未可以診切非無脈可診葢診之難而虚實不易定也小兒每怯生人初見不無啼呌呼吸先亂神志倉忙而遅數大小已失本來之象矣診之何益不若以指紋之可見者與靣色病候相印證此亦醫中望切兩兼之意也。
令人抱兒對立於向光之處以左手握兒食指以我右手拇指推兒三關察其形色細心體認亦惟辨其表裏寒熱虚實足之矣世人好異不從實地用功以此爲淺近之談不屑留意不知臨證能辨此六者便爲至高之手葢表裏清則知病之在經在府而汗下無悞寒熱明則知用寒遠熱用熱遠寒或寒因寒用熱因熱用因事制宜用無不當虚實辨則知大虚有盛候大實有羸狀不爲假證眩惑凡眞虚眞實易知假虚假實難辨眞假既明則無虚虚實實之患於此切要關頭不知體會但以不經之言欺世誑俗謂何者爲人驚何者爲畜驚不特欺人而且自欺不特無益治療而且誤人生命是誰之咎哉。

TOP