生薬探偵と行く金剛山!第四回金匱薬草同好会

先日(2020年10月11日)は当会恒例の鍼灸師の遠足・第一弾を開催しました。
場所は秋の金剛山、目的は薬草探しです。

この薬草見学会は濱口昭宏先生が主宰される金匱植物同好会。今回で4回目になります。

今回は台風の接近で開催そのものが危ぶまれましたが、我々の想いが通じたのか台風の進路変更してくれました。
登山のルートの変更こそありましたが、無事に薬草見学会を開催することができました。

今回の目玉のひとつはコレ!


写真 修治附子(西崎大祐氏の協力による)

トリカブトは附子や烏頭として生薬で使われています。
回陽や鎮痛を目的に使われますので、当然ながら鍼灸師としては知っておきたい生薬です。

附子が用いられている方剤には、八味地黄丸、牛車腎氣丸、真武湯、桂枝加朮附湯…などなどがあります。
鍼灸を受けに来られる患者さんの中には、これらの漢方を服用している方も少なくないのではないでしょうか?

漢方薬を理解するには生薬を理解すること。
そのためには実際に目で見て触れて、時には味わってみることはとても大事な学びだといえます。

さて、当日ルートの登山口から記憶を頼りに振り返ってみましょう。

シラネセンキュウ(白根川芎)


川芎の名はついているがこれは薬用ではない。
実際にその匂いも川芎のようなセリ科特有の芳香も感じられなかった。
ただ、登山口から5~6合目辺りまで最もよく目にした植物かもしれない。
途中から誰も写真におさめることがなくなり、今回最も待遇の差が大きかった植物だといえる。

観察しているとシラネセンキュウは昆虫たちには人気のある花で、なにかと蜜を吸いにハチやアブが集まっていた。
写真はシラネセンキュウにとまるシロツバメエダシャク(と思われる)。

ツルニンジン(生薬名:党参)

党参は人参(薬用人参・御種人参)の代用として用いられる。
なんでも本来の人参を採集(乱獲?)しすぎたため、その代用として党参が使われるようになったのだとか。
党参の効能はやはり「補中益気」や「補益肺氣」。
培土生金にも適するということであろう。
ちなみに『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版社)には「(党参を)人参に代用する場合は、約4倍量を使用する必要がある」と書かれている。


このルートでツルニンジンを確認できたのは、この一株だけだったように記憶している。
発見者は松浦薬業の加藤久幸先生であった。(加藤先生、グッジョブです!)
ツルニンジンの写真を愛でるように撮影する加藤先生。
加藤久幸先生(松浦薬業)は「伊吹山の主」の異名を持つ薬草のスペシャリストである。加藤先生のブログはコチラ『漢方と、薬草と、日々発見!』

オオツヅラフジ(生薬名:防已)


※良い写真が無かったので阿野美也子先生に写真をいただいた。2019年6月撮影、於 岩湧山


※良い写真が無かったので阿野美也子先生に写真をいただいた。2019年6月撮影、於 岩湧山

防已は傷寒論方剤にも使用されている。防己黄耆湯、防已茯苓湯、木防已湯、防已地黄湯である。

金匱要略 風湿暍病
23)風湿脉浮、身重汗出悪風者、防己黄耆湯主之。
防已黄耆湯方〔防已(一両)、甘草(半両炒)、白朮(七銭半)、黄耆(一両一分去蘆)〕
右(上四味)剉麻豆大、毎抄五銭匕、生薑四片、大棗一枚、水盞半、煎八分、去滓温服、良久再服。
 
金匱要略 中風歴節病
9)防已地黄湯
治病如狂状妄行、獨語不休、無寒熱、其脉浮。
〔防已(一銭)、桂枝(三銭)、防風(三銭)、甘草(二銭)〕
右(上)四味、以酒一盃、浸之一宿、絞取汁、生地黄二斤㕮咀、蒸之如斗米飯久、以銅器盛其汁、更絞地黄汁、和分再服。
 
金匱要略 痰飲欬嗽病
24)膈間支飲、其人喘満、心下痞堅、面色黧黒、其脉沈緊、得之数十日、醫吐下之不愈、木防已湯主之。
虚者即愈、實者三日復発、復與不愈者、宜木防已湯去石膏加茯苓芒硝湯主之。
木防已湯方〔木防已(三両)、石膏(十二枚鶏子大)、桂枝(二両)、人参(四両)〕
右(上)四味、以水六升、煮取二升、分温再服。
木防已湯去石膏加茯苓芒硝湯方〔木防已(二両)、桂枝(二両)、人参(四両)、芒硝(三合)、茯苓(四両)〕
右(上)五味、以水六升、煮取二升、去滓、内芒硝、再微煎、分温再服、微利則愈。
 
金匱要略 水氣病
22)風水脉浮、身重汗出悪風者、防己黄耆湯主之。腹痛加芍薬。
防己黄耆湯方は上に同じ。
 
24)皮水為病、四肢腫、水氣在皮膚中、四肢聶聶動者、防已茯苓湯主之。
防已茯苓湯方〔防已(三両)、黄耆(三両)、桂枝(三両)、茯苓(六両)、甘草(二両)〕
右五味、以水六升、煮取二升、分温三服。
 
33)『外臺』防已黄耆湯
治風水、脉浮為在表、其人或頭汗出、表無他病、病者但下重、従腰以上為和、腰以下當腫及陰、難以屈伸。

条文を見る限り、かなり水々しく濁々しい体質のようだ。ちなみに痛散湯にも防已は使用されている。

防已の薬効には「利水退腫」「祛風止痛」などが挙げられる。(『中医臨床のための中薬学』より)
つまりこれら薬能を必要とする疾患群には関節痛や腫れ、浮腫、運動障害があるが、それらはそのまま鍼灸適応疾患に重なるのである。

つまり防已の効能や東医的薬理を理解することが自身の鍼灸の治療イメージを具体化することにも結び付くのである。

アオツヅラフジ(生薬名:木防已)


写真:アオツヅラフジ(木防已)の葉
※良い写真が無かったので阿野美也子先生に写真をいただいた。撮影場所:東大阪市(第3回金匱植物同好会にて)


写真:アオツヅラフジ(木防已)の葉と青い実。
※良い写真が無かったので阿野美也子先生に写真をいただいた。2020年9月撮影、場所は不明

木防已は上記の防已と同じく「利水」や「止痛」に用いられるが、
『中医臨床のための中薬学』には「漢防已は利水退腫にすぐれ、木防已は祛風止痛にすぐれている」といった効能比較がある。

マムシグサ(生薬名:天南星 有毒


これは葛城山~金剛山~岩湧山エリアでよく見かけるマムシグサ。
生薬名を天南星。
根茎にはシュウ酸カルシウムが含まれており、安易に摂取するとひどい目にあうだろう。

同じくテンナンショウ属らしき植物の葉とその上にナナフシ

テンナンショウ属の実が色づき始める。

シュウカイドウ(秋海棠)


この秋海棠も岩湧山ツアーで観察できた植物。
園芸家でも人気の種らしく、時おり庭先で見かけることもある植物である。

オタカラコウ(雄宝香)

葉っぱが立派な雄宝香。
雄宝香(オタカラコウ)に対してやや小ぶりの雌宝香(メタカラコウ)もあるらしい。

この宝香の根は龍脳に似た香りがするのだそうな。

ウバユリ(姥百合)


この時期、ウバユリの開花時期はすぎご覧のように未成熟な実がなっている。
ウバユリは白く立派な花を咲かせる。
名前の通りユリに似た花だが、葉っぱや茎は通常のユリとは趣きが異なる。
この種は生薬の百合と違って薬用として用いられないが、地域によって食用にしていた時代もあったとか。

ヒキガエル(生薬名:蟾酥 有毒

ヒキガエルは個人的に大好きなカエル。
子どもの頃はとにかくこのヒキガエルを捕獲&飼育してみたくて仕様がなかった。平地ではあまり見られず、大峰山登拝の際にはかならず一匹はお目にかかる。

ヒキガエルは毒液を分泌することで知られている。その毒は耳腺や背部にある毒線にて分泌されるという。
毒液の成分はブフォトキシンと呼ばれ、心筋収縮作用をもつ。もし目に入ってしまった場合は、速やかに洗浄しないと失明の恐れがあるとしてよく注意喚起されている。

生薬としての蟾酥(せんそ)は、この分泌される毒液を集め、皮膚片などを濾過し、乾燥させたものだという。そしてこの蟾酥に含まれる成分の一つにブファリン(Bufalin)がある。
蟾酥を用いるもの六神丸がある。

ホコリタケ(生薬名:馬勃)

ホコリタケは意外とよく見かける。
子どもの頃は昆虫探しにいくと雑木林や薮の中でよく見かけた記憶がある。

成熟したホコリタケ+乾燥という条件が加わると…

ご覧の通りホコリ(胞子)を噴出するのだ。

ノダケ(生薬名:前胡、紫花前胡)

山頂展望台付近で咲いていた紫花前胡。

小柴胡湯で用いられる柴胡と補中益気湯に用いられる柴胡ではそのベクトルが異なる。
小柴胡湯は収降させ、補中益気湯は升提させる方向性に柴胡は働く。その違いは柴胡とこの紫花前胡にあるという。

サラシナショウマ(生薬名:升麻)


升麻の見分け方を説明される生薬探偵こと濱口先生(金匱植物同好会 会長)


これは金剛山 山頂の山野草園にてその群落を確認できた。

升麻が用いられる方剤で有名なものに補中益気湯がある。
『内外傷辨惑論』(李東垣 著)の立方本指に以下の記載がある。

損其元氣…人参以補之。心火乗脾、須炙甘草之甘以瀉火熱、而補脾胃中元氣、若脾胃急痛並大虚、腹中急縮者、宜多用之。…
白朮苦甘温、除胃中熱、利腰臍間血。
胃中清氣在下、必加升麻、柴胡以引之。引黄耆、甘草之氣味上升、能補衛氣之散解、而實其表也。

補中益気湯では升麻と柴胡は胃氣を升提させるのだ。

 

そして文字通り最後に発見できたのがコレ・・・!

トリカブト(生薬名:附子・天雄・烏頭 有毒

トリカブト(この種はカワチブシというらしい)を求めて山頂付近で探し回った…。
最後の最後で歩き回ったので、ほとんどのメンバーは疲労が足にキテいたと思う。それだけに見つけたときは喜びもひとしおである。

今回トリカブトの花を見つけられたのはこの花を含めて2株だけであった。

ほとんどのトリカブトはこのように葉は黒く枯れ、花は落ちて未成熟な実ができていた。


トリカブトとその向こうにサラシナショウマが見える。

このトリカブトの葉を自己責任の上で齧ってみたが(もちろん飲み込まずに吐き出している)、しばらくすると舌が痺れ…その痺れが咽喉にまで至る。
この痺れは地黄丸料に附子を増量させた時(これもまた自己責任に於いて)に感じた痺れと全く同じであった。
トリカブトの毒性は生息場所によって大きく異なるという。毒性の強い植物なので常識人と自認する方は決して安易に口にされぬよう厳に注意されたし。

とはいえ、このように実際に現場に足を運び、目を凝らし、薬草を探し手に取ることはとても意義がある。
五感を総動員させて体に備わるセンサーを働かせることは、屋内にこもる鍼灸師には貴重な体験といえる。
もちろん薬草探しのセンサーと、経穴をみつけ鍼を扱う際に働かせるセンサーは別モノであるが、いつもと違うセンサーを働かせることで、磨かれる感覚・センスもまた在るのだ。

「今の人たちはね『ネットで調べられるし、資料に目を通したらそれで十分 理解できる』と思ってしまっている人が多いんですね…。でも植物の美しさ・生きている姿をみて感動すること、この感性は学びことに於いてとても大事だと思うんですけどね。それを大切だと思う人、少なくなりましたね…。」と、ポツリと仰る加藤先生の残念そうな横顔が忘れられない。

譬え生薬・漢方薬を扱わないからといって、薬草見学会が無関係・無意味なものでは断じて無いと言い切れる。これを読む鍼灸師の中から次回・金匱植物同好会に一緒に参加してくれる人が増えることを望むばかりだ。


みんなで集合写真

今回、引率・レクチャーしてくださった濱口昭宏先生、殿(しんがり)を引き受け薬草を漏らさず発見&フォローしてくださった加藤久幸先生に改めて感謝の意を表します。

濱口先生のブログ『蒼流庵随想』「金匱植物同好会第四回薬草見学会を開催しました」
加藤先生のブログ『漢方と、薬草と、日々発見!』「金匱植物同好会 薬草見学会 in 金剛山①」「金匱植物同好会 薬草見学会 in 金剛山②」

お二人の先生方のブログ記事を読むと、より今回の薬草見学会の様子が分かることでしょう!
鍼道五経会 足立繁久
 

金剛山での金匱薬草見学の感想


金剛山での金匱薬草見学会に参加させて頂きました。
今回も濱口先生、加藤先生をはじめたくさんの諸先生の方々から色々なことを教えて頂きありがとうございました。
今回で参加するのは4回目になります。
初回、2回目ぐらいはどの山野草を見ても同じように見える感覚がありましたが、今回はこの山野草は知っている物やこれはすぐに名前は出てこないが見たことはある物が自分の中ではかなり増えた感じがしました。
今回、山野草は40種類前後を見ることが出来ましたが、途中、濱口先生が「これは傷寒論にも載っているよ」と説明されていた生薬を見落としている物もたくさんありましたので、傷寒論をはじめとする生薬、漢方をより一層勉強しなくてはならない課題も見つかりました。
今回の見学会で一番勉強になったのが“みる”力を養うことでした。一見同じように見える山野草ももちろん同じものは1つとしてありません。
視覚においては花や葉の形、葉脈の形、枝への葉の付き方、花の付き方などがあり、
触覚においては葉の表面の指触りの違い、
嗅覚は柑橘系の匂いやハーブ系の匂いがしたり、逆に全く匂いがしなかったり、
味覚においては河内附子のように少しかじっただけでも口腔内がピリピリしたりする物があり、
色々な特徴の感覚から分析して、類似した物でもそれぞれの山野草の種類を特定します。
それは鍼灸師として日々臨床において診察で四診をして情報を集め、その集めた情報を基にして治療方針を決める診断を正確にまた瞬時にしなければなりません。
山野草もその判断を間違うと生薬になるものとならない物の方向性が違う物になるように、臨床でも治療方針が全く別の方向の物になって誤治を起こす可能性はあります。
“みる”力を養うには日々の臨床経験を自分の中でどう分析をして、課題や疑問点を解消すべく勉強をして、それをまた臨床でフィードバックするのを繰り返していく中で正確性と瞬発力を身に着けていく重要性を感じました。
フィールドに出て山野草を見学することで山野草の知識だけではなく、臨床においてのこと、濱口先生や加藤先生の外部の先生の表現や説明の仕方、地元の大阪府のことなど、治療所では学べない色々なことを感じ学んだ濃密な1日でした。
 
川合真也先生(鍼灸整骨院かわい 院長)

おすすめ記事

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




Menu

HOME

TOP