1月のゴケイメシはクエ鍋 ~クエの食物本草能~

2025年1月のゴケイメシはクエ鍋!

1月の講座【医書五経を読む】の講座後・ゴケイメシはクエ鍋をいただきました。クエの身・アラ・皮・キモ(肝)と、各部位の入ったクエ鍋・セット購入。クエ鍋から〆のクエ雑炊まで美味しくいただきました。

ゴケイメシで食べるクエ鍋
写真:ゴケイメシでクエ鍋は初めて

クエ鍋雑炊
写真:クエ雑炊(の一部)アッという間に無くなりました。

クエについて

水槽を泳ぐクエの写真
写真:水草の中を悠然と泳ぐクエ(京都大学白浜水族館にて)

クエはハタ科の魚で、地方によってはアラ・モロコなどの呼び名があります。
同じハタ科の中でもキジハタ(アコウ)、キアラ(アオハタ)などは市場の鮮魚コーナーや居酒屋のメニューでたまに見かけることができます。

クエ(アラ・モロコ)について食物本草書を調べてみたところ、アラの項目が見つかりました。そこでクエ・アラの薬膳的効能を紹介します。

クエ(アラ)の食物本草情報

まずは『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からのアラ(クエ)情報です。

『日養食鑑』に記されるアラ(䲄)の効能

あら 䲄魚
微甘冷、毒なし。
産後の血暈および諸の失血・血熱を治す。
又、金瘡・折傷・破傷風の症に宜し。

■原文
あら 䲄魚
微甘冷、毒なし。
産後の血暈及諸の失血血熱を治す。又金瘡折傷破傷風の症に冝し。

「䲄」の字が当てられていますが、「䲄」を調べると現代では「にべ」「いしなぎ」(どちらも魚名)とあります。
さて本文をみると「産後の血暈および諸の失血・血熱を治す。又、金瘡・折傷・破傷風の症に宜し。」と、アラ・クエの食物本草能をよく表していると思います。

残念ながら『閲甫食物本草』(名古屋玄医 1669年序)にはアラ・クエ情報は見つかりませんでした。次に『魚鑑』(武井周作 著 1831年)をみると、さすがは魚の本草図鑑です。アラの情報が記されていました。

『魚鑑』におけるアラ情報

あら

状(かたち)たら(鱈)に似て、頭長く鱗細く、灰黒に赤色を帯ぶ。味(あじわ)い淡くよからず。
[氣味]微甘冷、毒なし。
[主治]産後の血暈、及び諸出血を療し、或は金瘡、破傷風等を治す。

■原文
状たらに似て、頭長く鱗細く、灰黒に赤色を帯ぶ。味ひ淡くよからず。
[氣味]微甘冷毒なし。
[主治]産後血暈、及諸出血を療し、或は金瘡破傷風等を治す。

『魚鑑』に記載されるアラ(クエ)の情報は『日養食鑑』の内容と大差ないようです。「産後の血暈、及び諸出血を療し、或いは金瘡、破傷風等を治す。」
各病症をみるに、血分に関わる食物本草能のようです。

また「破傷風」が挙げられていますが、これは破傷風菌の感染によるものとしてみるのではなく、重度の風症とみるべきでしょう。
「風を治するには先ず血を治せ(蓋治風先治血、血行風自滅也)」『医宗必読』巻十 明代1637年 李中梓)との言葉があります。
(他の本草書は未だ確認していませんが)おそらくはこの治則の意を含んだものではないでしょうか。

アラ?クエ?どっち?

ここでもう一度“”アラ”について確認しておきましょう。
アラは九州地方で使われるクエの呼び名です。しかし、アラと呼ばれる魚種は他にもいるようです。

スズキ目・アラ科・アラ属に分類される“アラ”という魚。一方、クエはスズキ目・ハタ科・アカハタ属に分類されます。

本記事で扱うアラ(クエとしてのアラ)は、その外見的特徴に「タラ(鱈)に似る」(『魚鑑』)とあります。アラ(アラ属)とクエ(アカハタ属)とで見比べると…タラ(鱈)に似ているのは、やはりクエ(アカハタ属)ではないでしょうか。
実際の画像については「市場魚貝類図鑑」さんの「アラ」「クエ」「マダラ」を参考にさせていただいています。

アラ・クエと力士・相撲との関係

力士の料理といえば「ちゃんこ」です。アラを使った「アラちゃんこ」は、力士が好む具材として知られていたようです。
また九州場所(11月場所)がはじまる時期に、アラは脂が乗り美味になるという説もあります。その美味しさからアラ・クエを「魚の横綱」とも呼ばれているようです。

しかしここはクエの美味しさ・高級感ではなく、食物本草能の方面から考えてみましょう。そうすると力士の仕事に対して、アラ・クエの効能がいかに有効であるか?がイメージできると思います。

力士は日々の稽古や年間の取組を通じて、外傷(打撲・折傷)が絶えないお仕事だといえます。瘀血処理と養血に心がけるのは、力士にとって必要な養生法だといえるでしょう。

ということで、お相撲のちゃんこ料理からみたアラ・クエの食物本草能に思いを馳せる…エピソードでした。

鍼道五経会 足立繁久

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