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11月のゴケイメシはカニ!
11月の講座【医書五経を読む】の講座後・ゴケイメシは、冬の味覚の王様・カニ(蟹)をいただきました。
カニといってもセコガニ。
セコガニはセイコガニや香箱ガニとも呼ばれますが、ズワイガニの雌で、カニの卵の味や食感を楽しむことができます。とくにセコガニの卵は内子と外子、2つの卵を楽しむことができるのも魅力の一つ。セコガニで炊きこんだカニメシを美味しくいただきました。ということでカニ(蟹)の薬膳的効能を紹介します。
写真:贅沢にセコガニ5匹を使いました。昆布ひとつ・白出汁・醤油・お酒(一まわし)、お米5合の簡単レシピです。
写真:土鍋で炊き上げました!セコガニご飯(カニメシ)
写真:ガザミ・ワタリガニもいただきます。
写真:カニ尽くしのゴケイメシ
写真には映ってませんが、しっかりお酒もいただきました。
ということで、ここからはお勉強のコーナー、カニ(蟹)の食物本草能(薬膳的効能)を読んでいきましょう!
カニ(蟹)の食物本草情報
まずはシンプルで読みやすい『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からのカニ(蟹)情報です。
『日養食鑑』に記されるカニ(蟹)の効能
カニ 蟹 總名なり。
鹹甘冷、毒あり。能く酒毒を解す。
○漆瘡に生にて(蟹を)搗きたるを塗りて速効あり。
○蟹の毒に中たるには冬瓜の汁、又は蘆根の汁を用いてよし。
▲柿及び荊芥と差し合い。
■原文
かに 蟹 總名なり
鹹甘冷、毒あり能く酒毒を解す。
○漆瘡に生にて搗きたるを塗りて速効あり。
○蟹の毒に中たるには冬瓜の汁、又蘆根の汁を用てよし。
▲柿及荊芥と差合。
とあります。
「鹹甘冷、毒あり」この氣味は、蟹の食物本草能をよく表していると思います。
「酒毒を解す」これは酒家にとってありがたい薬能ですね。酒肴にぴったりともいえます。
「漆瘡に(蟹を)生にて搗きたるを塗りて速効あり。」この効能は、かの『はだしのゲン』にて読んだことがあります。主人公ゲンのお父さんは漆職人で確か下駄に漆を塗ることを生業にしていたような…。それで漆かぶれの際には沢蟹(サワガニ)をつぶしてその汁を患部に塗るとよく効く…と、作中には描かれていましたね。
次に名古屋玄医の『閲甫食物本草』をみてみましょう。
『閲甫食物本草』に記されるカニ(蟹)の効能
按ずるに『本草綱目』時珍の説く所、俗に言う“麻女加尓(マメカニ)”、“伊志加尓(イシガニ)”、“加佐美(ガザミ)”、盡く皆なその中に在り、学者夫れ宜しく之を考うべし。
氣味、鹹寒、小毒あり。
主治
胸中の邪氣、熱結痛、喎僻面腫を主治す。
能く漆を敗り、之を焼けば䑕を致す。(本経)
結を解し血を散じ、漆瘡を愈し、筋を養い氣を益す。(別録)
諸熱を散じ、胃氣を治し、経脈を理し、食を消す。醋を以て之を食えば、肢節を利し、五臓中の煩悶の氣を去り、人を益す。(孟詵)
産後の肚痛、血の下らざる者は酒を以て之を食する。筋骨の折傷する者には生にて搗きて炒りて之を置く。(日華)
蟹爪
胞を破ち胎を堕すを主治する(別録)
宿血を破り、産後血閉を止む。酒及び醋湯に煎じて服して良し。(日華)
能く胎を安んず(張鼎)
生胎を堕し、死胎を下し、邪魅を辟く(時珍)
蟹殻
主治、燒きて性を存す。蜜にて調えて凍傷及び蜂蠆傷に塗る。
酒にて服し婦人の児枕痛及び血崩腹痛を治す。積を消す。(時珍)
按するに、諸賢の言う所、皆な血を破り胎を堕す者、謹みて婦人は食うべからず。孕婦には尤も之を忌むべし。
■原文
蟹
按本艸綱目時珍㪽説俗言麻女加尓伊志加尓加佐美、盡皆在其中學者夫宜考之。
氣味鹹寒有小毒。主治胸中邪氣熱結痛喎僻面腫。能敗漆焼之致䑕(本経)
解結散血、愈漆瘡養筋益氣(別録)
散諸熱治胃氣理経脉消食。以醋食之利肢節、去五藏中煩悶氣、益人。(孟詵)
産後肚痛血不下者以酒食之、筋骨析傷者生搗炒罯之。(日華)
蟹爪
主治破胞堕胎(別録)
破宿血止産後血閉。酒及醋湯煎服良。(日華)
能安胎(張鼎)
堕生胎下死胎、辟邪魅(時珍)
蟹殻
主治燒存性蜜調塗凍傷及蜂蠆傷、酒服治婦人児枕痛及血崩腹痛、消積。(時珍)
按諸賢㪽言、皆破血堕胎者、謹婦人不可食孕婦尤忌之。
とあります。
「マメガニ」「イシガニ」「ガザミ」と蟹の種類・バリエーションが増えてきました。ただし、それらの種別の効能はなく、一括して“蟹の氣味・主治”として記載されています。
但し、蟹・蟹爪・蟹殻(蟹の甲羅)と部位別に効能が書かれているのも注目に値します。
蟹の氣味は「鹹寒」とあり、やはり寒冷の性が強いことを指摘しています。そのため、熱性の強い病症に効能ありです。その代表例として「漆瘡(うるしかぶれ)」が挙げられているのでしょう。
私も子ども時代に漆にかぶれたことがありますが、あれは痒みもひどく、熱感も非常に強かったことを覚えています。その強い熱性に対して効かせるということなのでしょう。
もう一つ、注目すべき蟹の効能があります。それが「破血」です。
名古屋玄医は「皆な血を破り胎を堕す者、謹みて婦人は食うべからず。孕婦には尤も之を忌むべし。」との言葉で、蟹の破血能を前提に、女性が蟹を多食することを戒めています。
『公益本草大成』にあるカニ(蟹)の効能
鹹寒
諸熱を散じ、経脈を理し、食を消す。漆瘡を治し、結を解し、血を散じ、筋骨を養い、口喎面腫を治する。
蝤蛑(しゅうぼう・がざみ)
鹹寒
熱氣を解し、小児の痞氣を治する。
石蟹(いしがに)
搗きて久疽・瘡の瘥えざる者に伝(しきて)神効あり。
蟹爪
宿血を破り、生胎死胎を堕とす。邪魅を辟く。
殻
凍瘡(しもやけ)に塗る、婦人の兒枕(あとはら)痛、崩血、腹痛を治す、積を消す。
鹽蟹汁
喉風腫痛を治する(柿荊芥を忌む。○孕婦、風病者は食うこと勿れ。○独目、両目相向うもの、六足・四足のもの、腹の下に毛有るもの、腹中に骨の有るもの、頭背に黒点の有るもの、足斑目赤き者は、皆な食うこと勿れ。
■原文
蟹
鹹寒
散諸熱理經脉消食治漆瘡解結散血養筋骨治口喎面腫。
蝤蛑(いうばう・がざみ)
鹹寒
解熱氣治小兒痞氣。
石蟹
搗傳久疽瘡不瘥者神効。
蟹爪
破宿血堕生胎死胎。辟邪魅。
殻
塗凍瘡(しもやけ)、治婦人兒枕(あとはら)痛。崩血腹痛消積。
鹽蟹汁
治喉風腫痛(忌柿荊芥。○孕婦風病者勿食。○獨目兩目相向、六足四足、腹下有毛、腹中有骨、頭背有黒點、足斑目赤者、皆勿食。
上記『公益本草大成(和語本草綱目)』では、蟹全般の主治に加え、イシガニ・ガザミの主治も別に記載されている点が注目です。。
他にも『閲甫食物本草』と同じくカニの爪(カニのハサミ部分)、カニの殻の効能があります。それに加えてカニの塩ゆで汁などの効能も詳細に記されている点が興味深いですね。
最後に『魚鑑』に記されるカニの食物本草能です。。
『魚鑑』におけるカニ(蟹)情報
『万葉集』に出づ。漢名、蟹。綱目にみゆ。種類甚だ多し。
俗にがざみ、此れ蝤蛑なり。
あし原がに、俗に豆がに。
蟹の細小なるもの、此れ蟚螖(ほうこつ)なり。
俗にとろがに、田港に生ず。豆がにに似て大、此れ蟛蜞(ほうき)なり。
俗に“をがに”。此れ蟙(しょく)なり。
俗にすながに、一名“爪しろ”、一名“かくれがに”。洲渚沙磧の処に生ず。螯白く殻青し。此沙犳なり。
俗にうしほまねき。海濱に生ず。潮いたれば両螯をあげ望む。此れ望潮(ぼうちょう・しおまねき)なり。
俗に赤がに、一名いしがに。此れ石蟹なり。
俗に餅がに。此れ百足蟹(ひゃくそくかい)なり。
俗にかにむぐり。此れ蟹奴(かいど)なり。
俗に洲がに、此れ毛蟹(もうかい)なり。
蝤蛑(ゆうぼう)以下ともに綱目にみゆ。
俗にちからがに。此れ蚌江(ぼうこう)なり。一名千人捏(せんにんぢつ)。
俗に平家がに、一名清経(きよつね)がに、此れ鬼面蟹(きめんかい)なり。共に『蟹譜(かいふ)』にみゆ。
俗に大がに、此れ虎蟳(こじん)なり。
俗にわたりがに、此れ䘂(しん)なり。共に『閩志』にみゆ。
俗にてんぼうがに、一螯は大きく一螯は小さく、此れ擁剣(ようけん)なり。その尤も小なるもの清商歩荷(からひとほか)とよぶ。
此の他、漢名詳らかならざるもの、枚(あぐ)るに遑(いとま)あらす。
凡そ蟹月夜には肉少なく、闇夜には充満す。味、最も美し。
[氣味]鹹甘冷、毒なし。柿と同じく食ふべからず。荊芥に反す。
[主治]よく酒毒を解し、筋骨を続ぐ。生にて搗き漆瘡および疥癬に塗る。
■原文
萬葉集に出づ。漢名蟹、綱目にみゆ。種類甚多し。
俗にがざみ、此れ蝤蛑なり。あし原がに、俗に豆がに。蟹の細小なるもの、此蟚螖なり。俗にとろがに、田港に生す。豆がにに似て大此蟛蜞なり。俗にをがに。此蟙なり。俗にすながに、一名爪しろ、一名かくれがに。洲渚沙磧の處に生ず。螯白く殻青し。此沙犳なり。俗にうしほまねき。海濵に生ず。潮いたれは両螯をあげ望む。此望潮なり。俗に赤がに、一名いしがに。此石蟹なり、俗に餅がに。此百足蟹なり。俗にかにむぐり。此蟹奴なり。俗に洲がに、此毛蟹なり。蝤蛑以下ともに綱目にみゆ。俗にちからがに。此蚌江なり。一名千人捏。俗に平家がに、一名清經がに、此鬼面蟹なり。共に蟹譜にみゆ。俗に大がに、此れ虎蟳なり。俗にわたりがに、此れ䘂なり。共に閩志にみゆ。俗にてんぼうがに、一螯は大く一螯は小く、此れ擁剣なり。その尤小なるもの清商歩荷とよぶ。此他漢名詳ならざるもの、枚るに遑あらす。
凢蟹月夜には肉少なく闇夜には充満す。味最美し。
[氣味]鹹甘冷毒なし。柿と同く食ふべからず。荊芥に反す。
[主治]よく酒毒を觧し、筋骨を續く。生にて搗き漆瘡およひ疥癬に塗る。
さすがは『魚鑑』。蟹の種類も詳細に記されており「ガザミ・マメガニ・トロガニ・オガニ・スナガニ・シオマネキ・アカガ二・モチガニ・カニムグリ・スガニ(毛ガニ)・チカラガニ・ヘイケガニ・オオガニ・ワタリガニ・テンボウガニ」と、実に細やかに蟹の種名が記載されています。
「田港に生ず」「海濱に生ず」という言葉から淡水産・海産のものを一まとめにして蟹(かに)の効能を総括しているようです。
しかし、これらの蟹の多様な種類をみると、日本人が生き物を細やかに観察していたかということがわかりますね。
主治効能については、前述の本草書を参考にすべし、です。
これから冬の味覚・カニシーズンがやってきます。食べ放題!のような勢いでカニを食べることも贅沢な食べ方ですが、蟹がもつ食物本草能を頭の片隅に置いた上で賞味いただくと良いでしょう。
鍼道五経会 足立繁久
ゴケイメシに興味がわいた人は…
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