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12月のゴケイメシは蕎麦と山薬
今回のゴケイメシはひと足早い「年越し蕎麦」をいただきました。年末・Xmasも押し迫るため、講座後の宴ではなくランチ会でいただきました。
そして蕎麦のお供として、長芋(ナガイモ)をすりおろしてトトロ蕎麦をいただきました。ちなみにこの長芋は足立鍼灸治療院の薬草花壇にて育てたもの。ムカゴを拾ってきて発芽させ育てたものです。
本記事の食物本草情報は「蕎麦(ソバ)」と「山芋(ヤマイモ)」について紹介します。
写真:“茹でたて”のお蕎麦とみんなからの差し入れ日本酒
写真:昨日掘りたての長芋(小さいけどまずまずの本数)
写真:すりたてのとろろ
写真:茹でたて・掘りたて・おろしたての“3たてのとろろ蕎麦”
蕎麦(ソバ)の食物本草情報
お蕎麦(ソバ)食物本草情報はすでに記事にしていますので、こちらのページ『そば(蕎麦)の食物本草情報』をご覧ください。
山芋(ヤマイモ)の食物本草情報
山芋は自然薯とも呼ばれ、一般的にも“精がつく食材”としてよく知られています。また、いわゆる漢方でも用いられ生薬名は「山薬」または「薯蕷」として補腎薬に組まれています。
そして今回いただいたのは長芋(ナガイモ)。長芋はヤマノイモ科ヤマノイモ属のつる性植物であり、一般的な情報では長芋は山芋の中に含まれ説明されることが多いようです。
しかし実食して分かるように、両者には見た目・粘り・感触などの違いがあり、やはり本草学的には区別すべきものではないか?とも思われます。それも含めて調べていきましょう。
本草書では主に山薬・薯蕷として掲載されていますので、この情報を足掛かりに話を進めていきます。
では『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)に記される情報から。
『日養食鑑』に記されるヤマノイモ(山芋・薯蕷)の効能
やまのいも 薯蕷
甘涼、毒なし
腎氣を益し、脾胃を健やかにし、邪氣を除く。
久食すれば耳目を明にす。
■原文
やまのいも 薯蕷
甘涼、毒なし
腎氣を益し、脾胃を健にし、邪氣を除く。
久食すれば耳目を明にす。
むかご 零餘子
甘温、毒なし
虚損を補い、腰脚を強くし、腎を益す。
■原文
むかご 零余子
甘温、毒なし
虚損を補ひ、腰脚を强し、腎を益す。
『日養食鑑』には、山芋がもつ補腎能について簡潔に記されています。また「耳目を明にす」という情報からは、補腎の結果としてその影響が肝にまで及ぶような印象も受けます。
そしてムカゴ(零余子)の効能もしっかりと記されています。ヤマイモ本体もムカゴもともに補腎の効能が強いようですね。
ちなみにムカゴも収穫して、美味しくいただきました。
写真:ムカゴを油で揚げて塩を振って…
次に名古屋玄医の『閲甫食物本草』から、より詳細な情報をみてみましょう。
『閲甫食物本草』に記されるヤマノイモ(薯蕷・山薬)の効能
薯蕷 也末乃伊毛 一名山薬、一名山芋
氣味甘温平、無毒。
『神農本草経』に曰う、傷中を治し、虚羸を補い、寒熱の邪氣を除き、中を補し氣力を益し、肌肉を長じ、陰を強くす。
久服すれば耳目聡明、軽身、飢えずして年を延べる。
『名医別録』に曰う、頭面遊風・頭風・眼眩を主る。氣を下し、腰痛を止める。虚労羸痩を治し、五臓を充たし、煩熱を除く。
甄権が曰く、五労七傷を補い、冷風を去り、心神を鎮め、魂魄を安んじ、心氣不足を補う。心孔を開達し、多く事を記す。
大明(※)が曰く、筋骨を強くし、泄精健忘を主る。
李時珍が曰く、腎氣を益し脾胃を健やかにす。洩痢を止め、痰涎を化し、皮毛を潤す。
※大明:『日華子諸家本草』の説明に「日華子、姓は大、名は明なり」との記述がある。
■原文
薯蕷 也末乃伊毛 一名山藥、一名山芋
氣味甘温平、無毒。
本経曰、治傷中、補虚羸、除寒熱邪氣、補中益氣力、長肌肉、强陰。久服耳目聦明輕身不飢延年。
別録曰、主頭面遊風頭風眼眩、下氣、止腰痛。治虚勞羸痩、充五藏、除煩熱。
甄権曰、補五勞七傷、去冷風、鎮心神、安魂魄、補心氣不足、開達心孔多記事。
大明曰、強筋骨、主泄精健㤀。
時珍曰、益腎氣健脾胃、止洩痢、化痰涎、潤皮毛。
むかご(ぬかご) 零余子(れいよし)
氣味甘温、無毒
陳藏器が曰く、虚損(を治し)腰脚を強くし、腎を益す。之を食せば餓えず。
■原文
零餘子 奴加古
氣味甘温無毒
陳藏器曰、虚損强腰脚、益腎。食之不餓。
ここでは山薬の効能は補腎能だけに限定されず全般的な補薬としているように感じられます。むしろ「治傷中、補虚羸……補中益氣力、長肌肉」といった記述からは、中焦に対する補氣能を強調しているようでもあります。
しかし「強陰。久服耳目聡明……延年。」といった情報から補腎能を付記してもいます。
李時珍は「益腎氣健脾胃、止洩痢、化痰涎、潤皮毛」と、脾腎ともに対する補氣能を提示し、とくに津液の領域に対する薬能を示しています。
また「心孔を開達し、多く事を記す。」という効能も印象的です。「多く事を記す」とは、脳の容量を上げるということでしょうか、ありがたい効能です。
これも補腎のみならず、心に対する薬能も示唆しています。心孔に関する情報は『臓腑経絡詳解』の「心臓の象」を参照のこと。
『公益本草大成』にある山薬の効能
山薬 甘温
肺及び脾胃を補い、腎の精と氣を助け、肌肉を長じ、腰痛・泄精・健忘・瀉痢・小便頻数を治す。筋骨を強くし、虚羸を補い、痰涎を化し、皮毛を潤し、虚熱を除く。
生(なまの山芋を)擣きて腫硬毒・湯火傷に塗る。
○山薬は手足太陰脾肺二経の不足を補う。蓋し此れが白色、肺に入る。其の体、和柔にして中道を得て脾胃に入る。且つ体滑にして其の根氣(ぬめり)強く、久しくして腐(くち)ず。故に肺脾の氣を益し、燥も亦た潤す。此れが根体の深く達するを以ては、下焦腎氣を助け、体の滑かなるを以て腎精を聚め養いて下焦を固くす。是れを以て脾腎瀉、及び一切の久瀉・久痢・滑瀉・泄精を療するの主薬とす。
王安道が謂る、山薬の手太陰に入ると雖も、然れども肺は腎の上源と為す。源既に滋(ます)こと有りて、流れも豈に益すこと無からんか!?と。此れ山薬の腎を補う者は肺を補いて、金能く水を生ずるの義とす。愚(一抱子)案するに、此の説不可也。
山薬は肺の本薬と雖も此れ(山薬)が腎を補う者、独り補肺の余りのみに非ず。
山薬の腎を助くるには四の義を存す。
肺を補いて水を生ず、一つ也。
脾胃は営衛精津の生ずる所。山薬は脾胃水穀の精を補いて、腎を助くべき、二つ也。
山薬の其の根深く生ずるを以ては下焦に達して腎氣を助くべき、三つ也。
此れが体の滑らかなるを以て腎の精液を潤持(うるおしたもつ)べき、四つ也。
豈に肺を補うに止まりて腎を補うの者は、母能く子を養うの義のみならんや。
仲景、八味丸の中に之を用うる者も亦た是れ也。山薬の功、肺脾の氣液を補い、又腎の精および氣を補助して下元を固守しむる者也。
故に八味丸の氣血両虚を補うの剤中に之を用う。
[総概]
肺及び脾胃の氣液を補う。又腎の精氣俱に助けて脾腎瀉、泄精、滑瀉、久瀉、久痢、下氣不足の小便頻數を治するの要剤なり。
[使藥]紫芝を使と為す。
[毒]胸腹実満なる者は用いるに宜らず。
……
[愚案]山薬の性緩和也。多く用いるに非ざれば効を致し難し。
[修治]山中自然に生じて十年以上の者を用うべし。家園及び田中に生ずる者は不可也。形長して腐(くち)ず、肉白色者を択び、皮の損(そこね)ように洗いて土氣を去りて、竹篩に盛り、風吹に置きて乾かす。或いは焙籠(あぶりこ)に入れて遠火に焙乾も亦た可也。用いる時に銅刀を以て外の赤皮を刮(けずり)去り剉(きざみ)て使う。
○一法に初め(山薬を)采り得て竹刀を以て皮を刮(けずり)去りて、或いは陰乾或いは焙乾して剉み用う。
○一法に初め采り得て、皮を刮り去り、白礬末少し許(ばかり)を掺(ひねり)て涎を洗い去る。蒸して晒し乾かす。(宗奭が曰く、白を見え得ると、陰乾(かげぼし)の者を佳とすべし)
○今の薬店の者、多くは山城よりつくり出す長芋を用ゆ。自然生(じぜんじょう)に非ず。或は山中自然生の者あれども、其の形の不美にして、以て多くは之を用いず。嘆べしとす。製法も亦た悞りて詳らかならず。或いは石炭米粉を塗りたる者也。若し之を用いば、湯にして洗い、復た米泔(しろみつ)に浸すこと一宿にして赤皮あらば銅刀を以て此れを刮去、剉みて微し焙り用ゆ(此れ其の石炭の氣を去らんことを欲して也)。肉白き者を用よ。腐て青黒の者は用いるに宜からず。
○佛掌薯(つくねいも)、紅山薬(あかいも)は皆な食に供えるのみ。薬に用いるに宜からず。
■原文
山藥 甘温
補肺及脾胃、助腎精與氣、長肌肉。
治腰痛、泄精健㤀瀉痢。小便頻數。强筋骨、補虚羸。化痰涎、潤皮毛、除虚熱。
生擣塗腫硬毒湯火傷。
○山藥は手足太陰脾肺二經の不足を補。葢此が白色入肺、其體和柔に乄中道を得て入脾胃。且つ體滑に乄其の根氣强、久乄不腐。故に肺脾の氣を益し、燥も亦潤す。此れが根體の深達するを以は、下焦腎氣を助、體滑なるを以て腎精を聚養て下焦を固す。是以て脾腎瀉、及び一切
久瀉久痢滑瀉泄精を療するの主藥とす。
王安道謂、山藥雖入手太陰、然肺爲腎之上源。源既有滋流、豈無益と。此れ山藥の補腎者は補肺、金能生水義とす。
愚案するに、此説不可也。山藥は肺の本藥と雖𪜈此れが補腎者、獨補肺の餘耳に非ず。山藥の助腎、四義を存す。
補肺生水、一也。脾胃は營衛精津の生する所、山藥補脾胃水穀精、腎を助べき、二也。山藥の其根深く生するを以は下焦に達乄腎氣を助べき、三也。此れが體の滑なるを以て腎精液を潤持べき、四也。
豈肺を補に止て補腎者は、母能養子義のみならんや。仲景八味丸中に用之者亦是也。山藥の功、肺脾の氣液を補、又腎の精、及氣を補助乄下元を固守しむる者也。
故に八味丸の氣血兩虚を補の劑中に用之。
[總槩]
肺及脾胃の氣液を補。又腎の精氣俱に助て治脾腎瀉、泄精、滑瀉、久瀉、久痢、下氣不足小便頻數、要劑也。
[使藥]紫芝を爲使。
[毒]胸腹實滿者は不宜用。
……
[愚案]山藥の性緩和也。非多用難致効。
[修治]山中自然に生乄十年以上の者を用べし。家園及び田中に生する者は不可也。形長乄不腐、肉白色者を擇、皮の不損やうに洗て土氣を去て、竹篩に盛、風吹に置て乾、或焙籠に入て遠火に焙乾も亦可也。用時に銅刀を以て外の赤皮を刮去剉て使。
○一法に初采得て竹刀を以て皮を刮去て、或陰乾或焙乾乄剉用。
○一法に初采得、皮を刮去、白礬末少許を掺て涎を洗去。蒸て晒乾。(宗奭曰。不得見白と、陰乾者を佳とすべし)
○今の藥店者、多は山城よりつくり出す長芋を用ゆ。自然生に非ず。或は山中自然生の者あれ𪜈、其形の不美に乄以て多は不用之。嘆べしとす。製法亦悞て不詳。或は石炭米粉を塗たる者也。若用之、
湯に乄洗、復米泔に浸ヿ一宿乄赤皮あらば銅刀を以て此を刮去、剉て微焙用(此其石炭の氣を去ヿを欲乄也)。肉白き者を用よ。腐て靑黒者は不宜用。
○佛掌薯、紅山藥は皆供食のみ。不宜用藥。
零余子(れいよし) ぬかご
甘温
虚損を補い、腰脚を強くし、腎を益し、饑を充つ。
■原文
零餘子 甘温
補虚損强腰脚益腎充饑。
冒頭の薬能には「肺及び脾胃を補い、助腎の精と氣を助け…」とあります。この文からは、脾胃・肺の土金を補い、その余力で下流にある腎を補う…といった印象を受けます。“培土生金、金生水”といった流れでしょうか。また続く文には
「虚熱を除く」とあります。これは『名医別録』の「徐煩熱」が「虚熱」に変わっている点も注目です。
これは『本草綱目』「発明」における李時珍の記述「呉綬云、山藥入手足太陰二經、補其不足、清其虚熱」に倣っているようです。
また『本草綱目』には続けて王履の説が引用されています。本書『公益本草大成』にある「王安道謂、山藥雖入手太陰、然肺爲腎之上源。源既有滋流、豈無益」の部分です。
わかりやすく書き直してもくれています。「これ山薬の腎を補うは補肺、金能生水の義とす」。
しかし、この説に一抱先生は異を唱えているようです。
その主張がココ「山薬は肺の本薬と雖どもこれが腎を補う(効能)は、独り補肺の余のみに非ず。山薬の助腎に、四義を存す。」と記しています。山薬がもつ補腎薬能の機序を4パターン挙げています。詳しくは本文を。
また「修治」には長芋と山芋の違いについて、また栽培物と天然物との違いについても言及しています。この情報をみると、普段食べている長芋が補腎に結びつくと結論づけるには早計であると言わざるを得ません。
鍼道五経会 足立繁久
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