鍼道五経会の流儀、ゴケイメシとは?
先日は講座【生老病死を学ぶ】終了後も、定例の打ち上げ・ゴケイメシを楽しみました。
鍼道五経会では、講座後の打ち上げにて、皆で料理を作って宴を楽しんでいます。文字通り「同じ釜の飯を食う仲間」です。
でも“料理を作って一緒に食べるだけ”なら、誰でもできること。そのメニューの食材について調べ上げることで「勉強のネタ」にしているのです。
「呑む」「食う」「学ぶ」の三拍子そろうことで、自身の血肉となるのです。そのような楽しみ方&学び方をゴケイメシと呼びます。
6月のゴケイメシはクジラ肉が主役でした。
写真:近所のスーパーにてミンククジラの赤身肉を購入
クジラ料理といえば…ハリハリ鍋
近所のスーパーで、いい赤身のクジラ肉が手に入ったので、今回のゴケイメシは「ハリハリ鍋」に決定!
『この夏の暑い時期に…鍋???』と思う人もいるでしょうが、クジラ肉は「暑気払い」にも良いのです。そして、この時期の鍼灸師は、院内の冷房によって冷やされ続けてもいます。
やはりハリハリ鍋のチョイスは正しいといえるでしょう。
ハリハリ鍋のレシピMEMO
ハリハリ鍋のレシピはネットで調べたら容易に情報ゲットできますので、以下に買い物MEMOだけ残しておきます。
ハリハリ鍋のレシピ・MEMO(3人分)
・クジラ赤身肉 … ブロック×2
・水菜 … 2P
・エノキ茸 … 2P
・長ネギ … 2本
・〆のうどん … 4P
これだけの食材調達で豪華なメニューを楽しむことができました!
写真:鯨のお肉と水菜でハリハリ鍋
写真:ハリハリ鍋を楽しむ鍼道五経会メンバー
きれいな赤(鯨肉)と、白(エノキ茸)と緑色(水菜)のコントラスト。そしてシャキシャキした歯ごたえの水菜・エノキ茸と、赤身肉の旨味が強い鯨が非常に美味でありました!
さて食レポの後は、食物本草のお勉強です。今回はクジラ(鯨)の食物本草能を紹介しましょう。
クジラ(鯨)の食物本草情報
まずは読みやすい『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)からです。
『日養食鑑』に記される鯛の効能
甘酸、大温、毒なし。
腎を補い、脾を益し、胃を調え、腸を厚くす。
多食すれば熱を生じ瘡瘍を発す。
■原文
甘酸大温、毒なし。
腎を補ひ、脾を益し、胃を調へ、腸を厚す。多食すれば熱を生し瘡瘍を發す。
とあります。
鯨肉は補腎・補脾胃によい食材のようですね。ただし食べ過ぎは良くないようです。
『閲甫食物本草』に記されるクジラ(鯨)の効能
『和名集』に曰く、『唐韻』の云う大魚。雄を鯨と曰い、雌を鯢と曰う。和名、久知良(くじら)。
按ずるに、文選の註及び韻書を以て之を考うるに、俗に言う久知良(くじら)に非ざる者也。『本草綱目』の鱣魚を取りて事を久知良(くじら)の法に於いて同じくす。而して又、賈誼が弔いて屈原の賦に「江湖に横たわるの鱣鯨(原文では「横江湖之鱣鯨兮」)」と曰う、鱣と鯨を連ねて言うときは則ち鱣と鯨とが同類であることを知る。
又『山海経』に云う、鱣の如き薄魚あり而して一つ目なり。その音は嘔の如し。然るときは則ち薄魚・鱣・鯨の三物は共に俗に所謂(いわゆる)久知良(くじら)と、似たるが如し。『本草』に又、鱣魚その脊骨及び鼻并びに鬐と鰓、皆な脆軟にして可食。又その氣味を言うも、俗に謂う所の久知良と相い同じ。『山海経』に已に一目と言う、則り是れ亦た似たり。然れども未だ考え定だまらず。字を借りて以て之が氣味を繋ぐ。
肉 氣味甘温、小毒あり。
五臓を利し、風を動じ瘡疥を発し痰を生ずる。
多食すれば則ち尅化し難く、腹痛を発する。病人に益あらず。(閲甫)
皮 氣味甘平、無毒。
五臓を利し、肺大腸を補う。
血熱の有る人、之を食せば瘡痒を発す。脾胃虚弱の者が之を食せば、腹痛満悶を発する(閲甫)
骨、腸、鰾 皆な有毒。之を食せば損有りて益無し、食べからず。
■原文
和名集曰、唐韻云大魚。雄曰鯨、雌曰鯢。和名久知良。
按、以文選註及韻書考之、非俗言久知良者也。本艸綱目、取鱣魚事同於取久知良之法。而又賈誼弔屈原賦曰横江湖之鱣鯨、鱣鯨連言則知鱣鯨同類矣。又山海経云、有薄魚如鱣而一目也。其音如嘔。然則薄魚鱣鯨三物共與俗㪽謂久知良如似。本艸又鱣魚其脊骨及鼻并鬐與鰓、皆脆軟可食。又其言氣味與俗㪽謂久知良相同。山海経已言一目、則是亦似。然未考定借字以繋之氣味。
肉 氣味甘温、有小毒。利五藏動風發瘡疥生痰。多食則難尅化發腹痛。不益病人(閲甫)
皮 氣味甘平、無毒。利五藏補肺大腸。有血熱之人、食之發瘡痒。脾胃虚弱者食之、發腹痛滿悶(閲甫)
骨、腸、鰾 皆有毒。食之有損無益、不可食焉。
とあります。
本書記載の鯨肉の効能は「五臓を利」するとあり、腎・脾のみならず広く五臓を対象としています。
また、クジラ肉の補益能の高さから「風を動じ、瘡疥を発し、痰を生ずる。」という副次的な作用も記しています。
このような高い“補益”能のために生じる“動風”・“生痰”作用は、クジラだけでなく魚や家畜のお肉の注意書きによくみられます。このような副作用(?)を抑えるためにも薬味が必要なのでしょう。
以上『閲甫食物本草』におけるクジラ(鯨)の氣味効能でした。次に『魚鑑』(武井周作 著 1831年)をみてみましょう。この『魚鑑』には当時の漁業のようすが詳細に記されています。
『魚鑑』に記されるクジラ(鯨)の効能
『唐韻』に鯨鯢の字を用ゆ。『萬葉集』に“いさな”という。漢名「海鰌」、『綱目』に出づ。魚中の大なるものなり。冬は南に往き春は北に往く。状(かたち)、肥圓にして長大なり。色、蒼黒。鱗なし。頭は牛の如く、尾は横につく。魚の玉茎玉門あるはこれのみなり。
俚諺に、一浦一鯨を獲るときは七郷の賑わいなりと。実に漁家の獲(えもの)の第一なり。種類多し、ゆえに伝え聞くところ左(下)に記す。
せび鯨(セミクジラ)、好んで水面に浮かぶ。背乾(せび)の義なり。
ながす鯨(ナガスクジラ)、身長くして矛の如し。
ざとう鯨(ザトウクジラ)、瞽者(めくら)の如し。ゆえに名づく。
あかほう鯨(アカボウクジラ)、赤色なるが故に名づく。
むかで鯨(ムカデクジラ※)、五つの鬛、十二の脚あり。蜈蚣に似たり。この鯨ひとり大毒ありて、漁人も懼る。
さかまた鯨(サカマタクジラ※今でいうシャチ)、倒戟(さかほこ)のいいなり。尖れる鰭(ひれ)うしろに向う。よって名づく。
又、ないさ五島、しお五島、おおなん五島あり。又、あそび鯨・かつお鯨(カツオクジラ)・こ鯨(コクジラ)・いわし鯨(イワシクジラ)・ぬそ鯨・まつこ鯨(マッコウクジラ?)あり。これ大魚といえども毫末も捨てる所なし。油をとると一魚数十石に過ぐ。骨も肥し(肥料)となし、農家の助け少なからず。世用もまた多しとす。
[氣味]甘酸、大温、毒なし。皮革常に食うものなり。又、肉を“あずきみ”という。其の色似たれば名づく。小毒あり。
多く食えば停滞し火を動し瘡を発す。
[主治]腎を補い、脾を益し、胃を調え、腸を厚くし、虚冷久泄瀉を治し、暑気を祛(はら)う。
“鰓”、細工に用うるもの。これせび鯨(セミクジラ)のえらなり(おそらくは鯨のヒゲではないだろうか?)。粉となして切疵を治す。
“たつぱ”、ひれの肉なり。
“おばき”、尾の肉なり。共に食に充。小毒あり。
“とこほね”、筋なり。煮食て、脆(もろく)美(うま)し。又、製して、唐弓の弦とす。
“かぶらほね”、頭枕骨を以て製す。脆美(もろくよし)、毒なし。
“ひやくひろ”、大腸なり。煠(ゆひき)食(くらう)に柔靭(やわらか)にして淡し。久泄を治す。
“たけり”、陰茎なり。婦人の帯下を治し、男子の陽道を壮にし、一切の冷熱を治す。
“糞”、痘瘡黒色になり、やまのあがらぬ(病のあがらぬ?)に、ふすべてよし。
○附していう。おきな、又大魚(おおな)ともいう。鯨さえ大なるものにするに、いやまし大なるもの有るにや。『列子』に鯤の広さ数千里、長さこれにかなうといい、『荘子』にも鯤という魚みえ、『華厳経』に摩竭というものみえたり。古(いにしえ)鯨ともいえり。これはみな寓言(そらごと)なれども、何ともいうべからす。
吾、東海に“おきな”という魚栖(す)めり。甚だ大にして、稀に背のあらわるることあり。嶋の如く山の如し。その出る時は海底鳴ること雷の如く、鯨も逃走(にげはし)となり。
またいつのころにや、志摩の小平治というもの、台湾へ漂着せしことあり。その北の方へ漂う中、一夜おりおり火燃え出でて、海上一面に火になると見えしが、消失(きゆ)ればいづくともなく法螺吹ごとき响(おと・ひびき)せしと、語りしといい伝う。これも大魚なるにや。
又、西洋人、北海にて廻り三里許(ばかり)の島を見て船を繋(かけ)、陸(くが)に上り、飯を炊き、食おわりて、䌫(ともづな)を解き、二三十里程も行し比(ころ)、大海俄に渦まきさわぐ。あやしとみるに、彼島くるくると廻り、沈失(しずみうせ)たり。これは北海の大魚“ミコラコスニユス”というものの背にて、ありしよし語(かたる)となん。詳に『紅毛雑話』にみる。
■原文
くぢら 唐韻に鯨鯢の字を用ゆ。萬葉集にいさなといふ。漢名海鰌綱目に出づ。魚中の大なるものなり。冬は南に往き春は北に往く。状、肥圓にして長大なり。色蒼黒、鱗なし。頭は牛の如く、尾は横につく。魚の玉茎玉門あるはこれのみなり。
俚諺に一浦一鯨を獲るときは七郷の賑なりと。實に漁家の獲の第一なり。種类多し、ゆへに傳聞ところ左に記す。
せび鯨、好んて水面に浮ぶ。背乾の義なり。ながす鯨、身長くして矛の如し。ざとう鯨、瞽者の如し。ゆへに名つく。あかほう鯨、赤色なるかゆへに名つく。むかで鯨、五つの鬛十二の脚あり蜈蚣に似たり。此鯨特り大毒ありて漁人も懼る。さかまた鯨、倒戟のいひなり。尖れる鰭うしろに向ふ。よつて名づく。又ないさ五島志ほ五島おほなん五島あり。又あそび鯨かつを鯨こ鯨いわし鯨ぬそ鯨まつこ鯨あり。これ大魚といへとも毫末も捨る㪽なし。油をとると一魚数十石にすぐ。骨もこやしとなし、農家の助け少なからす。世用もまた多しとす。
[氣味]甘酸大温毒なし。皮革常に食ふものなり。又肉をあづきみといふ。其色似たれば名づく。小毒あり。多食へは停滞し火を動し瘡を発す。
[主治]腎を補ひ脾を益し胃を調へ腸を厚し。虚冷久泄泻を治し、暑気を祛ふ。
鰓、細工に用ゆるもの。これせび鯨のゑらなり。粉となして切疵を治す。たつぱ、ひれの肉なり。をばき、尾の肉なり。共に食に充。小毒あり。とこほね、筋なり。煮食て、脆美し。又製して、唐弓の弦とす。かぶらほね。頭枕骨を以て製す。脆美毒なし。ひやくひろ、大腸なり。煠食に柔靭にして淡し。久泄を治す。たけり、陰茎なり。婦人の帯下を治し、男子の陽道を壮にし、一切の冷熱を治す。糞、痘瘡黒色になり、やまのあがらぬに、ふすべてよし。
○附ていふ。おきな又大魚ともいふ。鯨さへ大なるものにするに、いやまし大なるもの有にや。列子に鯤の廣さ數千里、長さこれにかなふといひ、荘子にも鯤といふ魚みへ、蕐嚴経に摩竭といふものみへたり。古へ鯨ともいへり。これはみな寓言なれども、何ともいふべからす。吾東海におきなといふ魚栖めり。甚大にして、稀に背のあらわる〱ことあり。嶋の如く山の如し。その出る時は海底鳴ること雷の如く、鯨も逃走となり。またいつのころにや志摩の小平治といふもの臺灣へ漂着せしことあり。その北の方へ漂ふ中、一夜おり〱火燃出て海上一面に火になると見へしが、消失ればいづくともなく法螺吹ことき响せしと、語しといひ傳ふ。これも大魚なるにや。又、西洋人、北海にて廻り三里許の島を見て船を繋、陸に上り飯を炊き食おわりて、䌫を觧、二三十里程も行し比、大海俄に渦まきさわぐ。あやしとみるに、彼島くる〱と廻り、沈失たり。これは北海の大魚みこらこすにゆすといふものヽ背にて、ありしよし語となん。詳に紅毛雑話にみゆ。
とあり、「腎を補い」「脾を益し」「胃を調え」「腸を厚く」するという効能は前述の『日養食鑑』と同じ。
また「虚冷久泄瀉を治し、暑気を祛(はら)う。」といった主治は興味深いものがあります。「甘酸・大温」の氣味、補腎補脾胃の性質から「虚冷久泄瀉を治」するのは頷けるのですが、大温の氣で「暑気を祛(はら)う」に用いるのはどのような機序なのでしょうか。
これは「暑氣払い」の機序について改めて理解し直す必要がありそうですね。
また江戸後期には「せび鯨・セミクジラ」「ながす鯨・ナガスクジラ」「ざとう鯨・ザトウクジラ」「あかほう鯨・アカボウクジラ」「さかまた鯨・シャチ」「かつお鯨・カツオクジラ」「こ鯨・コクジラ」「いわし鯨・イワシクジラ」「まつこ鯨・マッコウクジラ?」など、鯨の種類が詳細に区別されていたのも興味深い情報です。
ちなみに、この日にいただいた鯨はミンククジラ。この種はナガスクジラ属ヒゲクジラの一種だそうです。
さて「ハリハリ鍋」といえば、もう一つの主役が水菜(ミズナ)です。水菜の食物本草情報も欲しいところですね。
水菜(京菜)の食物本草情報
『日養食鑑』(石川元混 著 1819年)には次のように「水菜(ミズナ)」の情報が記されています。
『日養食鑑』の水菜(ミズナ)の情報
みづな(水菜) 又の名、きょうな(京菜)
甘平、毒なし
■原文
みづな 又きやうな 水菜
甘平、毒なし
…『えっ!?コレだけ???』と言いたくなるような、アッサリ淡白な内容です。
しかし、見ようによっては、これくらい薬理的な性質が弱いほうが“食材”として利用しやすい気もします。
水菜は古くから京都にて栽培されてきた野菜でしられています。そのため京奈とも呼ばれています。そして『和名抄』には「みずな」の名が確認されるとのこと(サイト「京都市情報館」みず菜 より)
なので期待を込めて『閲甫食物本草』に「水菜」「京菜」を探したのですが…残念ながら見つかりませんでした。京都に生まれ、京で活躍した名古屋玄医先生の書なのに…残念!です。
鍼道五経会 足立繁久
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