脈診の先入観

脈診に対する先入観を問う

当会では脈診の指導に力を入れている。

写真:鍼道五経会の脈診実技風景

理由は単純明快、脈診は信頼できる診法であるからだ。

しかし現場で使える脈診とするには、いくつかのステップをクリアする必要がある。

脈診の知識や感度を高めることだけが脈診上達の条件ではない。
脈診で遊ぶことも大切なのだ。

なぜなら鍼灸師が学ぶ脈診のほとんどが“治療時の脈”をみる。
治療時に脈をみるのは当然だが、毎日絶えず搏ち続ける脈のホンのわずかな時間だけを切り取って脈をみているに過ぎない。
それで脈の全てが分かったような気持ちになってしまうのも少し残念だ。

もっと残念なのは脈診の経験を積むことで、脈に対する先入観・思い込みができてしまうことである。
脈を診ることに慣れ始めた段階で生じやすい先入観の例をいくつか挙げてみよう。

お酒を呑めば脈は変化する

『飲酒すれば脈は変わる…って、そんなこと当たり前のことじゃないか』
こう思う人は多いだろう。

ではお酒を呑んだ後に、どのような脈の変化をみせるのか?
予測できる人はいるだろうか。

『お酒は陽気を多分に含んだ水だから…
飲酒量にもよるけど、数・洪・大脈かな、脈が浮いてくることもあり得るかも。
湿痰の影響によっては、軟や滑脈も・・・』

と、こんな風にシミュレートするのではないだろうか?

答えは「お酒の銘柄によって脈の変化は異なる」である。


写真:鍼道五経会の利き酒脈診の風景

日本酒の飲み比べをすると、分かりやすい。
実験方法は、至極カンタン。お酒を半口~ひと口、口に含み、飲み込む前と後で脈の変化をみるだけである。
その結果…

「寸口を中心に浮いてくる」
「尺中が浮いてくる」
「三部俱に浮く」
「滑脈が強くなる」
「緩脈を帯び脈が太くなる」
「脈が収斂して細弦となる」

…などなど、脈位・脈状が日本酒の種類によって固有の変化をみせる。
実際は上記の変化よりもさらに複合的なものである。

この脈の変化を把握することで、利き酒も可能となる。
当会では、脈診を使って日本酒のブラインド・テイスティングを行う。
我々は“利き酒脈診”と呼んでいる。
※香りでも分かってしまうため、鼻を摘まんで行うときもある
※未成年とお酒が苦手な人には飲酒を勧めない

利き酒脈診の的中率は高い。

さらに面白い実験がある。
日本酒によって脈状の変化は異なるならば、まったく方向性の異なる日本酒をブレンドした場合、どのような脈の変化がみられるのか?
例えば「脈が広がる(太くなる)お酒」と「脈が細くなる(収斂する)お酒」を等分にブレンドした場合である。

結果は…ここで書くのは省くが(ネタバレしては面白くない)

その異なる作用を入力した場合、人体はどのような反応を脈を通じてみせるのかが分かった。
これは鍼灸治療にも大いに参考になる結果であった。

写真:天狗舞の二種(本醸造と超辛口純米)をブレンド。さてその後の脈の変化はいかに?

脈とお酒を嗜む方ならば、ぜひ追試されたし。

水風呂に入ると脈は変化する

冷水に浸かると、脈は変わる。これも脈診を嗜む者にとっては至極当然の現象といえる。
では実際に水風呂に入った時の脈を検証した人はどれほどいるだろうか?
以前、温泉行くたびに脈を診たことがある。被験者は私 足立である。

①冷水浴中の脈(サウナ後に水風呂)
②温泉浴中の脈(水風呂後の温泉)

①,②の条件にて以下の脈状変化が確認できた。

a 浮・洪大
b 沈・細弦

以下4つの選択肢から、2つの正解を選んでいただきたい

㋑冷水浴-脈:浮洪大
㋺冷水浴-脈:沈細弦
㋩温水浴-脈:浮洪大
㋥温水浴-脈:沈細弦


温泉に入ることは温熱刺激そのものであり、補陽ともなる行為である。
であれば、脈は広く浮かびあがる…といった陽脈を示すだろう…と、
㋩を推測する人も多いのではないだろうか。


冷水浴も同様である。
冷水とは陰寒の刺激を体表全体に加えて束表するわけであるから、脈も陰脈を示すはずである…と、
㋺を選択するのではないだろうか?

しかし、㋑も㋥のパターンの脈の変化を機序を考察しておく必要がある。
そして、正しい答えは実際に検証したほうが良いだろう。
もしかしたら、㋑㋺㋩㋥以外の脈の動きがみられることもあるかもしれない。

睡眠時の脈状は?


夜間睡眠時の脈をみたことはあるだろうか?
私は家族全員の脈を診たが、初めて熟睡時の脈を診たときは意外に感じた。

夜間睡眠時は、時間帯・生理現象ともに五行的には腎がはたらくときである。
であれば、脈は沈み内向性の脈状を示すかと予想していた。

しかし、実際は予測したものとは正反対の結果であった。
脈は浮滑洪大という外方向性のベクトルを示すものであった。

この現象は大人も子供(妻と三人の子供)に共通してみられた脈状である。

他にもいろいろな条件下で脈を診て遊んでいる。

脈で遊ぶことの大事

他にも「全力疾走時の脈」「歌っているときの脈」「脈を診る人の脈」「寐寤における脈の違い」「蝋燭や朝日をみたときの脈」…などなど、様々なシチュエーションでの脈をみて遊んでいる。

このいろいろと条件を変えて脈で遊ぶことが重要なのだ。
治療中という限られた条件、ましてや屋内での脈しかみたことがないというのも狭い視野になる。

いろいろな脈を観察することで「脈とは人の心と体の微細な変化を示す指標となる」といったことを体感実感できるようになるのだ。

以上のように鍼道五経会では、遊びや実験を通じて鍼灸技術を学び研鑽している。
このような会に興味のある方はぜひご参加ください。

6月から各講座を再開しました

参加条件:鍼灸師・鍼灸学生・医療関係者で東洋医学を学ぶ意欲のある方

【日 時】
「臓腑経絡のキホン」(東京会場)毎月第1日曜日 10:30~16:30
「医書五経を読む」(大阪会場)毎月第2日曜日 10:30~17:00
「生老病死を学ぶ」(大阪会場)毎月第3日曜日 10:30~17:00

【受講費】:6,000円。初参加の方は4,000円です。
※継続して参加される場合は別途 年会費が必要です。
詳しくはコチラでご確認ください

【持ち物】:スリッパ、白衣、勉強道具
【会 場】
大阪会場は足立鍼灸治療院アクセスはコチラ
東京会場はStudio Libra(アシル養生堂薬店)アクセスはコチラ
※講座に関するお問合せをアシル養生堂薬店に電話・メールすることの無いようお願いいたします。

【講 師】:足立繁久
【定 員】:約10名

【申込先】:以下のメールフォームからお申込みください。
※記入されたメールアドレスにメールが届かないケースが多発しています。
複数のアドレス、もしくはTel情報を記入して申し込みください。

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