『奇経八脈攷』その11 任脈為病について

任脈為病について

「任脈為病」で記される病症群は任脈の性質をより色濃く表わすものであると思います。
任脈の任は姙(妊)の意を含むという言葉もあるほどで、また「陰脈の海」という別名からも、血と深く関与する奇経にも思えます。しかし李時珍が示す「任脈為病」の情報からは血との強い関与はさほど感じられないように思えます。ということで、本文を読んでみましょう。


※『奇経八脈攷』(『重刊本草綱目』内に収録)京都大学付属図書館より引用させていただきました
※下記の黄色枠部分が『奇経八脈攷』の書き下し文、記事末青枠内に原文を引用しています。

書き下し文・任脈為病

『素問』に曰く、任脈の病為(た)る、男子は内結して七疝、女子は帯下して瘕聚。
又、曰く、女子は二七(14歳)にして天癸至り、任脈通じ、太衝の脈盛ん、月事は時を以て下る。七七(49歳)にして任脈は虚し、太衝の脈衰ろう、天癸竭き、地道は通ぜず、故に形壊れて子無し。
又曰く、上氣して音有る者は、其の鈌盆中を治する。(謂ゆる天突穴也。陰維任脈の会。刺すこと一寸、灸すること三壮。)
『脈経』に曰く、寸口脈の来たること緊にして実、長にして関に至る者は、任脈也①
(ややもすれば)少腹より臍を繞り、下は横骨に引き陰中に切痛することを苦しむ。関元を取りて之を治す。
又曰く、寸口に邊りに横たわりて、脈の丸丸とする者は、任脈也。
腹中に気有ること指の如く、上りて心に搶き俯仰すること得ず、拘急することを苦しむ。

瘕聚であることの意味

瘕聚という病名が登場しています。この瘕聚という言葉にも意味があると考えています。そもそも瘕聚とは「癥瘕」の瘕に、「積聚」の聚です。

聚とは積聚の「聚」です。積聚という病名は鍼灸師にとってはなじみがある言葉です。(難経五十五難の記事を参照のこと)
積とは「邪が蓄積した病変」であり、聚とは「邪が聚まった病変」であります。
両者の違いは陰陽であり、固定性のものか遊走性のものか…等々の違いも難経五十五難では記されており、陰陽をもとに積と聚の違いを端的に説明しています。

また癥瘕についてですが、癥とは「固定性で腫塊」であり、瘕は「遊走性があり境界も不明瞭である腫塊」です。

このようにみると、本文中にある「瘕聚」という病名は「瘕」と「聚」の性質を強調していることが分かります。つまり完全に凝結し固定された邪実ではないというメッセージとして読み取ることができます。

このように考えると「男子内結」という言葉にも、ある程度の結ぼれ加減を考慮して理解することもできるでしょう。当然、男性と女性に分けている点に留意して考えるべきですね。

以上のことから、任脈の特性を理解するほどに「癥積」ではなく「瘕聚」とした点も推測できるのではないでしょうか。

任督衝の脈証

李時珍は『脈経』の記述を引用しており、任督衝の脈証もいくつか紹介してくれています。以下の任脈督脈衝脈の各脈は「診左手九道圖」では記されていない系統の情報です。

任脈の脈「寸口脉来緊而實、長至関者、任脉也。」(本文下線部①)
督脈の脈「脉来中央浮、直上下動者、督脉也。」(「督脈為病」を参照のこと)
衝脈の脈「脉来中央堅實、径至関者、衝脉也。」(「衝脈為病」を参照のこと)

これらの脈証は、関上・中央が起点となり任督衝・三岐の特徴を垣間見ることができる表現だと思います。任脈の脈が「寸口から…関に至る」という点が内丹術の一過程を表しているようにも感じます。

 

鍼道五経会 足立繁久

■原文・任脉為病

素問曰、任脉為病、男子内結七疝、女子帯下瘕聚。
又曰、女子二七而天癸至、任脉通、太衝脉盛、月事以時下。七七任脉虚、太衝脉衰、天癸竭、地道不通、故形壊而無子。
又曰、上氣有音者、治其鈌盆中(謂天突穴也。陰維任脉之會。刺一寸、灸三壮。

脉経曰、寸口脉来緊而實、長至関者、任脉也。
動苦少腹繞臍、下引横骨、陰中切痛、取関元治之。
又曰、横寸口邊、脉丸丸者、任脉也。
苦腹中有氣如指、上搶心不得俯仰、拘急。

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