『奇経八脈攷』その6 陽蹻脈

特殊な陰蹻脈…の対である陽蹻脈

前回の陰蹻脈の章では、内丹・神仙術における陰蹻脈の特殊性が明らかになったと思われます。
…とはいえ、まだまだ考察すべき点があります。蹻脈の陰陽と性差は深い関係があるという点です。男性は陽蹻を経とし陰蹻を絡とします。女性はその逆です。

ということは…前回の内容と併せて考えると、絡の重要性に今一度目を向ける必要がある!と考えるべきでしょう。
今回は経と絡について再考してみましょう。

※『奇経八脈攷』(『重刊本草綱目』内に収録)京都大学付属図書館より引用させていただきました
※下記の黄色枠部分が『奇経八脈攷』の書き下し文、記事末青枠内に原文を引用しています。

書き下し文・陽蹻脈

陽蹻なる者、足太陽の別脈。其脈は跟中に起こり、外踝に出て足太陽申脉穴〔外踝の下五分隙中に在り、爪甲白肉の際に容れる〕に下る。踝後に當り跟を繞る、以て僕参を本と為す〔跟骨の下陥中に在り、足を拱て之を得る〕。外踝の上三寸に上り、以って附陽を郄と為す〔外踝の上三寸に在り。足太陽之穴也〕
直ちに上りて股外廉を循り、脇後の胛に循り、上りて手太陽、陽維に臑兪〔肩後、大骨の下、胛の上廉陥中に在り〕に於いて会す。肩髆外廉に上行して、手陽明に巨骨〔肩の尖端、上行し両又骨の鏬間 陥中に在り〕に於いて会し、手陽明 少陽に肩髃〔髆骨頭、肩の端上の両骨鏬陥、宛宛たる中に在り、臂を挙げて之を取る、空有り。〕に於いて会す、人迎に上りて口吻を夾み、手足陽明 任脉に地倉〔口吻の旁ら四分外を夾み、近下に微脈の動ずる処有るが如し〕に於いて会し、足陽明に同じく上りて巨髎〔鼻孔の旁ら八分を夾み、瞳子に直(あた)り、水溝に平(ひと)し〕に行る、復た任脈と承泣〔目の下七、瞳子に直り陥中に在り〕に於いて会す、目内眥に至り、手足太陽 足陽明 陰蹻五脈と睛明穴〔陰蹻の下に見たり〕に於いて会す。睛明従(よ)り上行して髪際に入る、耳後に下り、風池〔風池は耳従り玉枕骨を夾み下りて髪際陥中に在り。〕に入り而して終わる。凡せて二十三穴。
難経に曰く、蹻脈は足従(よ)り目に至る長さ七尺五寸、合せて一丈五尺。
甲乙経(※)に曰く、蹻脈に陰陽有り、何れの者が其の数に當たるや?。
曰く、男子は其の陽を数え、女子は其の陰を数う、数に當る者は経と為す、数に當らざる者を絡と為す。氣の身に在る也(や)、水の流れの如く、日月の行り休まざるが如し。故に陰脈は其の藏を営し、而して陽脈は其の府を営する。環の端の無きが如く、其の紀を知ること莫し、終わりて復た始まる。其の流溢の氣、内は藏府を漑し、外は腠理を臑(濡)す。

※『鍼灸甲乙経』巻二 奇経八脈第二

経とは…?絡とは…?

本書『奇経八脈攷』の総説では二十七氣というワードが登場しています。
陽維脈の項では二十八脈を話題にしましたが、二十七氣という概念も奇経を理解する上で重要なヒントとなります。

二十七氣は『霊枢』九鍼十二原に登場する言葉です。十二経と十五絡、両者を合わせて二十七氣となります。つまり経脈と絡脈を流れる氣を総称して二十七氣という訳です。
ではこの二十七という数字で何が分類されているかと言いますと、十二経脈(12)に加え、十二経の絡(12)、任督(2)、脾之大絡(1)の十五絡となります。
つまり経脈と絡脈を流れる氣を二十七氣といいます。たいていの毫鍼治療家が相手にする氣です。

ちなみに難経二十六難では、十五絡を十二経の絡、陽絡と陰絡、脾の大絡としています。
二十六難の本文では、陰絡・陽絡とは陰蹻の絡、陽蹻の絡であるとしています。陰蹻の絡、陽蹻の絡とは、これまで奇経の勉強をしてきて既にお分かりだと思われます。(『陽蹻脈 経穴密語集より』陽蹻脈の流注から生命観へ

任督を絡と採るか?陰陽蹻脈の絡を採用するか?
どちらの説が正しいのか?と考えるのが常ですが、ここはもっと自由に思考を広げましょう。

任督か?陰陽蹻脈の絡か?と、意見が分かれることに意味があると私は考えます。
そのヒントが前回の『奇経八脈攷その5 陰蹻脈』にも書かれてあると思うのです。
「医家は此れ有ることを知らず。(醫家不知有此。)」まさに張紫陽の謂う通りであります。

鍼道五経会 足立繁久

■原文・陽蹻脈

陽蹻者、足太陽之別脉。其脉起於跟中、出於外踝下足太陽申脉穴〔在外踝下五分隙中、容爪甲白肉際〕當踝後繞跟、以僕参為本〔在跟骨下陥中、拱足得之〕。上外踝上三寸、以附陽為郄〔在外踝上三寸。足太陽之穴也〕。
直上循股外廉、循脇後、胛上會手太陽、陽維於臑兪〔在肩後大骨下胛上廉陥中〕。上行肩髆外廉、會手陽明於巨骨〔在肩尖端上行両又骨鏬間陥中〕、會手陽明 少陽於肩髃〔在髆骨頭肩端上両骨鏬陥宛宛中、挙臂取之、有空。〕、上人迎夾口吻、會手足陽明 任脉於地倉〔夾口吻旁四分外如近下有微脉動處〕、同足陽明上而行巨髎〔夾鼻孔旁八分、直瞳子、平水溝〕、復會任脉於承泣〔在目下七分、直瞳子陥中〕、至目内眥、與手足太陽 足陽明 陰蹻五脉會於睛明穴〔見陰蹻下〕。従睛明上行入髪際、下耳後、入風池而終〔風池在耳従夾玉枕骨下髪際陥中〕。凡二十三穴。

難経曰、蹻脉従足至目長七尺五寸、合一丈五尺。

甲乙経曰、蹻脉有陰陽、何者當其数。
曰、男子数其陽、女子数其陰、當数者為経、不當数者為絡。氣之在身也。如水之流、如日月之行不休。故陰脉營其藏、而陽脉營其府。如環之無端、莫知其紀、終而復始。其流溢之氣、内漑藏府、外臑(濡)腠理。

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