脾胃論の「凡そ治病、當に其の所便を問うべし」

脾胃論の読みどころ

『脾胃論』というと一見したところ、脾胃、中焦をいかに健やかにするか?がテーマのようにみえます。
しかし、そう単純なものではないということは『脾胃論』を読めばよく分かると思います。

また李東垣の医学は鍼灸師にとっても本来なじみがあるものです。東垣針方という鍼方・鍼治の技術が『鍼灸聚英』や『鍼灸大成』に記されています。いずれこれらの書も紹介しようと思います。
ですが東垣伝の鍼方ならば、まずは李東垣ご本人の書を紐解くべきだろう、ということで『脾胃論』の鍼方部分の各章を記事にしようと思います。
まずは鍼や経穴が登場する前の章『脾胃論』凡治病當問其所便 から始めます。


※画像・本文は『脾胃論』より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『脾胃論』凡そ治病、當にその便る所を問うべし

■凡そ治病、當に其の便る所を問うべし。

黄帝鍼経に云う、中熱消癉なるは則ち寒に便り。寒中の属なるは則ち熱に便る。
胃中熱するは則ち消穀し、人をして心に懸りて善く飢えせしむ。臍已上は皮熱す。
腸中熱するは則ち黄を出し糜の如し。
臍已下は皮寒し、胃中寒するは則ち腹脹す。
腸中寒するときは則ち腸鳴して餐泄す。

一説に、腸中寒するときは則ち食し已えて窘迫し、腸鳴切痛し、大便の色白し。
腸中寒し、胃中熱するときは則ち疾飢えて、小腹痛脹す。
腸中熱し、胃中寒するときは則ち脹れて泄を具う。
独り腸中熱して則ち泄するに非ず、胃中寒して傳化して亦た泄する。

胃は熱飲を欲し、腸は寒飲を欲す。
その好悪は同じからずと雖も、春夏は先に標を治し、秋冬は先に本を治す。
衣服、寒には悽愴無く。暑には汗出ること無し、熱にして灼灼無く、寒にして愴愴無し。
寒温の中適なる故に氣は将に持して乃ち邪僻することを致さず。

此れ規矩法度にして、乃ち常道也、正理也、揆度也。
當に事に臨んで宜しきを制し、以て常に反して変に合するのみ。

便(たよ)る所を知るとは

本章「凡治病當問其所便(凡そ治病は當に其の便る所を問うべし)」とは、本文にある通り『黄帝針経』すなわち『霊枢』師伝第二十九に記載されている内容です。ちなみに『霊枢』師伝にない記述は下線部と終わりの二行です。

春夏と秋冬で標本の先後が変わるという話は『霊枢』師傳の引用ではありますが、医家たちは何と言っているのでしょうか。

楊上善は「春夏の時、萬物の氣上昇して標に在り。秋冬は萬物の氣下流して本に在り。病の在る所を候い以て療法を行う。故に春夏は標を取り、秋冬は本を取る也。」としています。
また李東垣の思想を汲む張景岳はこのように言っています。
「春夏は発生(の季節)、宜しく先に氣を養い以て標を治するべし、秋冬は収蔵(の季節)、宜しく先に精を固めて以て本を治するべし。」としています。

本来であればオリジナル『霊枢』の文章は「便此者、飲食衣服、亦欲適寒温、寒無淒愴、暑無出汗。」のところが『脾胃論』では「衣服、寒無悽愴、暑無出汗」と省略されています。
シンプル化するのは良いとしても『脾胃論』なのに「飲食」の文字を消してしまうのは違和感を覚えます。
好悪とは「腸胃がそれぞれ欲する(便りとする)寒熱」のこと。これらに差異が有るのは当然としているようで、李時珍が焦点を当てているのは、春夏と秋冬で異なる要素が外氣・天氣であるとしているようです。
つまりは天地の氣に沿って人氣が反応しており、これを踏まえて病の発生および治療はそれを考慮せよ、ということでしょうか。楊氏や張氏の説にある通りです。

以上の説を「規矩」「法度」「常道」「正理」「揆度」としながらも、最後の文では「当に事に臨んで制宜すべし、常に反するを以て変に合する(當臨事制宜、以反常合変)」との言葉で本章を締めています。

鍼道五経会 足立繁久

原文 『脾胃論』凡治病當問其所便

■原文 『脾胃論』中巻 「凡治病當問其所便」

黄帝鍼経云、中熱消癉則便寒、寒中之属則便熱。
胃中熱則消穀、令人懸心善飢、臍已上皮熱。腸中熱則出黄如糜、臍已下皮寒。
胃中寒則腹脹。腸中寒則腸鳴餐泄。一説、腸中寒則食已窘迫、腸鳴切痛、大便色白。
腸中寒、胃中熱則疾飢、小腹痛脹。
腸中熱、胃中寒則脹而具泄。
非獨腸中熱則泄、胃中寒傳化亦泄。胃欲熱飲、腸欲寒飲。
雖好悪不同、春夏先治標、秋冬先治本。
衣服寒無悽愴、暑無出汗、熱無灼灼、寒無愴愴。
寒温中適、故氣将持乃不致邪僻。
此規矩法度、乃常道也。正理也。揆度也。
當臨事制宜、以反常合變耳。

 

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