天元図・地元図ふたたび… 『此事難知』より

天元図・地元図ふたたび…

王好古(王海蔵)の鍼法を簡略紹介するシリーズ・その5である。今回紹介する「天元図」はその3の「天元図・地元図」の補足のようである。しかし私の力量では十分に詳解できないので、簡略な紹介に留めさせていただく。


※『医学綱目』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

此事難知 天元圖の書き下し文

書き下し文・天元圖

七十四難に曰く、その首に従いてその数に繋ぐ。
間象  在表  五化疊元  は並びに前図に見わしたり(拾遺)

夫れ天元の法は之を五化疊元と謂う。當にその首に従いその数を繋ぐべし。
首とは寅の方、春也。人に在りては肝と為す。
是れ東方従(よ)り天輪に順じて数えて主る所の處に至り、幾数に従うということを計えて、却て病を一方に受ける所に於いて、倒(さかさま)に疊み回し去りて、数えて前に依りて数え盡きる所に至る。
便ち原(元)病を受ける一方の穴内に於いて、止まる所の方に来たる路穴を瀉する也(受病一方の穴内に於いて瀉す。主る所の方に来たる路の穴也。)。主る所の方内経中に於いて之を瀉して得ざる。誤ること勿かれ。

假令(たとえば)病者、香臭を聞く。二者、心は五臭を主る也。脾に入りて香臭と為す。
東従り数えて主る所の處に至る、五臭は心也。
東一つ南二つ計えて二数を得る。
却て當に受病の方に於いて、倒(さかさま)に疊み回し去るべし。
脾一つ心二つ、元数は二也。
是れ数えて心に至る。心は栄火也。
當に受病の方内に於いて、栄火を瀉すべし。是れ脾経に従りて大都を瀉する。是れ也。

或る人の曰く、何を以て倒に疊み数うか?
対て曰く、此れ地従(よ)り出でて天輪の載する所を為す。天に於いて右旋す。
當に顕わす所の處に於いて之を治すべからず。此れ舟行きて岸移るの意也。

七十四難を参考に…

本文の冒頭に「七十四難曰、従其首繋其數。」にあるように、天元図なる鍼法は『難経』七十四難をベースとしている。
では、七十四難はどのような鍼法かというと、四時(春・夏・季夏・秋・冬)と井栄兪経合と、さらに五臓とを対応させた鍼法が記載されている。いわば天氣と人氣とを対応させた鍼法といっても過言ではない。また、井栄兪経合と五臓との対応は、経氣と藏氣との密接な関係をも示唆している。
さらに七十四難本文の後半部には、その鍼法の具体例として「色」「臭」「味」「声」「味」に五行対応させた診法(望診・聞診・問診)を記載しており、数多ある病症を五行で分類鑑別する便法を例示している。
以下に七十四難を引用しておく。書き下し文と簡略解説はコチラの記事を参考にされたし(四時の刺法-難経七十四難-)。

難経七十四難より

七十四難曰、経言、春刺井、夏刺榮、季夏刺兪、秋刺経、冬刺合者、何謂也?
然。
春刺井者、邪在肝。
夏刺榮者、邪在心。
季夏刺兪者、邪在脾。
秋刺経者、邪在肺。
冬刺合者、邪在腎。其肝心脾肺腎、而繋於春夏秋冬者、何也?
然。
五藏一病輙有五也。
假令、肝病色青者肝也。臊臭者肝也。喜酸者肝也。喜呼者肝也。喜泣者肝也。
其病衆多、不可盡言也。
四時有数而竝繋於春夏秋冬者也。
針之要妙在於秋毫者也。

実際に七十四難には「従其首繋其數(その首に従い、その数を繋ぐ)」との記述はない。しかし“その首”とは四時でいうと春、方角でいうと東、経穴でいうと井穴である。その首を先頭に春夏季夏秋冬・井栄兪経合と順当に並び、かつ循環している様を意図している。

そして天元図は、その循環を基につくられたものである。文中には「前図にあらわしたり」とあるが、これはその3『『此事難知』の天元図と地元図』にある表のように記されたものを天元図として指している。

「疊み回し去り」「天輪」「右旋」というワードから、一覧表ではなく環状に配置し直して診察に用いるようだ。

また「舟行きて岸移るの意」の言葉は、『正法眼藏』からの出典であろうか。
「釋迦牟尼佛告金剛藏菩薩言、譬如動目能搖湛水、又如定眼猶廻轉火。雲駛月運、舟行岸移、亦復如是。(釈迦牟尼佛、金剛藏菩薩に告げて言はく、譬へば動目の能く湛水を搖がすが如く、又、定眼のなほ火を廻轉せしむるが如し。雲駛れば月運り、舟行けば岸移る、亦復是の如し)」

『医学綱目』にある天元図の註では…

以下に『医学綱目』(明代 楼英 著)に記される天元図の註文も念のため紹介しておこう。

醫学綱目 巻之八 陰陽臓腑部より

右(上)の天元図は乃ち王海藏、扁鵲七十四難の義を発明す。但、心腧五穴は経旨に合せず。
按するに内経に言う、心臓は堅固なり、邪を容れること能わず、故に手少陰は独り兪無し。その外経病みて臓は病まざる者は、独りその経を掌後鋭骨の端に取る。その余脈の出入屈折その行りの徐疾は、皆な手少陰心主の脈行の如き也。故に諸邪の心に在る者は、皆な心の包絡に在る也。
今図中に心の五邪を列して、赤焦苦言汗を曰う者は、皆な心包絡の受ける所に在るに当たる。而して心包絡の中衝・労宮・太陵・間使・曲沢の五穴を列さず、反て手少陰の少府・少衝・神門・霊道(少海)の五穴を列するは未だ得ざると為す也。

【原文】右(上)天元圖乃海藏發明、扁鵲七十四難之義、但心腧五穴不合經旨。按内經言心臓堅固、邪弗能窬、故手少陰獨無腧其外經病而臓不病者、獨取其經於掌後鋭骨之端。其餘脉出入屈折其行之徐疾、皆如手少陰心主之脉行也。故諸邪之在心者、皆在心之包絡也。
今圖中列心五邪曰、赤焦苦言汗者、皆當在心包絡所受、而不列心包絡中衝勞宮太陵間使曲澤五穴。反列手少陰少府少衝神門靈道五穴、為未得也。

【難】五臓六腑各有井榮兪経合、皆何所主。
然…(略)

『医学綱目』の著者、楼英(1332-1400)は、少陰心経が他四経と同列に記載されていることが氣に入らないようである。なぜなら心経ではなく心包経を使うべきだと『霊枢』邪客篇の記載を理由に批判している。
これを理由に「(王海蔵は)未だ(理を)得ず」と結論づけてしまうのはどうかと思われる。王海蔵は『霊枢』邪客篇を知らないはずもなく、その上で上記の天元図を残したのであろうと推測する。楼英は王海蔵の真意を得んと精進すべきであったのではないかと思う次第である。

しかし、天元図に関する註が『医学綱目』にしか見つけられなかったため、一応ここに紹介しておく。

原文 此事難知 天元圖

■原文 此事難知 天元圖

七十四難曰、従其首繋其數。
間象  在表  五化疊元  並見前圖(拾遺)

夫天元法者謂之五化疊元。當従其首繋其數。
首者寅方春也。在人為肝。是従東方順天輪數至所主之處、計従幾數却於所受病、一方倒疊回去、數至依前數盡所便於原受病、一方穴内瀉所止之方来路穴也。
不得於所主之方内経中瀉之勿悞。

假令病者聞香臭二者、心主五臭也。入脾為香臭、従東數至所主之處所主、五臭者心也。
東一南二計得二數。却當於受病之方、倒疂回去、脾一心二、元數二也。是數至心。心者榮火也。
當於受病之方内、瀉榮火。是脾経瀉大都是也。

或曰、何以倒疂數?
對曰、此従地出為天輪所載、右旋于天。不當於所顕之處治之。此舟行岸移之意也。

次項の地元図は少文であったため、同記事に紹介しておこう。

此事難知 地元圖の書き下し文


※『医学綱目』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

書き下し文・地元圖

六十八難に曰く、元証、脈合、復た五象を生ず。

在表間象、以て望聞に応ず(及び肝胆各々五法) 並びに前図に見わす。
人元の法例(前図に已に七象七法を載す、前の人元例の後に見わす) 並びに前図に見わす。

この地元図もまた前述したその3『『此事難知』の天元図と地元図』の補足説明のようである。非常にシンプルな内容のため、前述の地元図を再度読まれたし。

鍼道五経会 足立繁久

人元例 ≪ 天元図・地元図 ≫ 大接経従陽引陰、大接経従陰引陽

原文 此事難知 地元圖

■原文 此事難知 地元圖

六十八難曰、元證脉合復生五象。

在表間象以應望聞及肝膽各五法) 並見前圖
人元法例(前圖已載七象七法、見前人元例後) 並見前圖。

 

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