難経十難の書き下し文と原文と…

難経 十難のみどころ

難経十難には「十変」に関する脈診法が記されています。『十変ってナニ?』と思う鍼灸学生さんもいることでしょう。
五行をベースに治療を行うには基本となる病伝の概念でもあります。

前の九難の内容を踏まえた上で十難を読みすすめてみましょう。


※『難経抄』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

難経 十難

書き下し文・難経十難 

十難に曰く、一脈、十変と為す者は何の謂い也。

然り。
五邪剛柔、相い逢う意也。
仮令、心脈の急甚なる者、肝邪が心を干(おか)す也。
心脈の微急なる者、胆邪が小腸を干す也。
心脈の大甚なる者、心邪が自ら心を干す也。
心脈の微大なる者、小腸邪が自ら小腸を干す也。
心脈の緩甚なる者、脾邪が心を干す也。
心脈の微緩なる者、胃邪が小腸を干す也。
心脈の濇甚なる者、肺邪が心を干す也。
心脈の微濇なる者、大腸邪が小腸を干す也。
心脈の沈甚なる者、腎邪が心を干す也。
心脈の微沈なる者、膀胱邪が小腸を干す也。

五臓各々剛柔の邪有り、故に一脈をして輙ち変じて十と為す也。

十変とは五邪が相い逢うの意

五邪とは五行(木火土金水)を基本単位とした5つの病伝パターンのことです。虚邪・実邪・賊邪・微邪・正邪の5つに分類できますが、詳しくは難経五十難を参考にしてください。

この十難でも分かりやすく五臓五腑を具体例にして列挙してくれています。
五行には陰陽があります。
これを十干という符号にすると、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸となり、
臓腑に当てはめると、胆・肝・小腸・心・胃・脾・大腸・肺・膀胱・腎となります。
これに関して詳しくはコチラ「五行の中にも陰陽あり」を参考にしてください。

十難本文で挙げられているのは、病位が火(心・小腸)であるケースについて限定しています。
言葉を変えると、火における五邪(虚邪・実邪・賊邪・微邪・正邪)に陰陽×2に展開した十パターン、すなわち十変です。

…ここまでが十変という病伝パターンの概要です。しかしそもそも十難は十変の脈診について述べている難です。
どのような脈法かみてみましょう。

十変をみる脈診

十変の脈診の要素は2つ。
“脈状”と“微甚”というシンプルな脈診法です。

五行に準じた脈状

脈状とは五行の性質に沿って分類しています。
木=急、火=大、土=緩、金=濇、水=沈です。

心脈に、例えば左寸口に上記の各脈状が異常として現れている場合、左寸口(火の脈位)に各五邪が乗じた、としてみることができます。

例えば木邪が火位に乗じた場合、左寸口に弦脈が現れるといった脈証となります。
他にもおなじみの木剋土の病伝であれば、右関上に弦脈が現われるという脈証になるでしょう。

そして微・甚とは

ここからが変則的…といいますか、『おやっ!?』と思うところです。

微とは少しく病脈が現われ、甚とは甚だしく病脈が現われます。
これを陰陽で言い換えると、微とは陰で甚とは陽です。

前の九難では脈の遅数と臓腑の病を挙げ、脈の陰陽(遅数)と臓腑病の“常の関係”を説いていました。そしてこの十難では“変の関係”が主テーマです。
故に脈における陰陽が逆転する(臓が陽脈、腑が陰脈)ことでその変を示しています。

では何が変なのでしょうか?
本難における九難との大きな違いは他邪を受けるという点です。本位が他位から邪を受けるという病伝、すなわち変則的な病態を捕捉するための脈診法として示されているのが十難の脈法といえるでしょう。

ちなみに、上記の十難・微甚における解は脈診の師、馬場先生によるものです。馬場先生からは他にも七難や八難などについても思い出深い教えをいただきましたが、それについては当サイト記事では伏せています。

補足ですが、他邪から乗じられるというセオリーのみでは、心邪が自ら心を干す(心邪自干心)、小腸邪が自ら小腸を干す(小腸邪自干小腸)の場合は、脈の微甚は逆転するのではないかと思われます。

視点を変えて、臓が臓を干かし(陰干陰)、腑が腑が干かす(陽干陽)という陰陽でみるとどうでしょう?これもまた常ではなく“変”であるといえます。しかし、これもまた自正の病邪が“変”となり得るのか?という疑問が生じます。
十変の脈診における陰陽・微甚については、まだまだ考察の余地があると思われます。

また一脈変じてという点では氣と血の変も考慮することも可能かと思われます。この観点は二十二難の是動病と所生病を詳しく学ぶべきでしょう。

難経抄の註文より

……蓋し臓は裏邪は已に深くして剛と為す、臓を以て臓を干す。
此れ脉の甚しき所以也。
府は表邪と為し、頗る浅くして柔と為す。府を以て府を干す。
此れ脉の微なる所以也。
邪に剛柔有る故に脉に微甚有るのみ。餘邪は此れに倣う云々。

此れに由りて之を観るときは則ち、蓋し藏深く居る而して陰也。
今、病を受ける者は即ち剛陽の邪、此れに入る也。故に脉も亦た陽の甚脉を見わす也。
陰部は剛陽の邪に干を被り、陽部は柔陰の邪に干を被る故に剛柔相逢の意、此れ之の謂い欤。

以上の引用は『難経抄』の註文ですが、
臓病は病位が深いため剛である故に甚脈を呈し、腑病は病位が浅いため柔であるから微脈を呈するという説はなんとも…賛同し難い説ですね。陽位の病はむしろ甚脈が現われます。これは傷寒論の三陽病と三陰病の脈を比較しても明らかでしょう。

後段の臓病は陰位にあり、剛陽の邪が入る故に陽の甚脈が現わる…というのも、臓干臓という設定では矛盾を感じます。

…ムム、否定するために引用したのではなく、微甚と剛柔について記されていたので引用させてもらったのですが…。まぁ備忘録としても付記しておきます。

鍼道五経会 足立繁久

難経 九難 ≪ 難経 十難 ≫ 難経 十一難

原文 難経 十難

■原文 難経 十難

十難曰、一脉為十變者何謂也。

然。
五邪剛柔相逢之意也。
假令心脉急甚者、肝邪干心也。
心脉微急者、膽邪干小腸也。
心脉大甚者、心邪自干心也。
心脉微大者、小腸邪自干小腸也。
心脉緩甚者、脾邪干心也。
心脉微緩者、胃邪干小腸也。
心脉濇甚者、肺邪干心也。
心脉微濇者、大腸邪干小腸也。
心脉沈甚者、腎邪干心也。
心脉微沈者、膀胱邪干小腸也。
五藏各有剛柔邪、故令一脉輙變為十也

 

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