難経二十一難では息・脈・氣の三要を再確認す

難経 二十一のみどころ

脈診章の最終回となる二十一難にたどり着きました。二十一難ではスタート地点である一難に回帰する内容にもなっています。

「形病みて脈の病まざるは生くると曰う。脈の病みて形の病まざるは死する」
脈診の本質を問うテーマで締める難経脈診章は実に意義深いものがあります。では、二十一難を読んでみましょう。

※『難経蒼壁』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

難経 二十一の書き下し文

陰陽のズレは決定的！

脈は元氣を診る診法であります。故に形（身体）が病んでいても脈に異常がなければ生きる（可治）であり、形（身体）が病まずとも脈に異常があれば死する（難治・不可治・逆証）なのです。

「脈が悪いのに症状がないのは死証である（脉病形不病曰死）」を読んで、『それってそこまで悪い状態なの？』『いくら脈診が好きだからって、ちょっと飛躍しすぎでは？？？』と思う方もいるかもしれませんね。

まず、これまでの各難の内容を踏まえた上での上記表現となることを念頭に読むべきでしょう。
そして診断における陰陽の差分について認識を改めるべき…と思わせる非常に啓発的な問題提議でもあります。

これまでの各難を読んで分かるように「形体と脈の情報に大きくズレがある」ということは、心身も含む人体の中で陰陽の乖離が起こっているという兆しなのです。
臓腑・経絡を始めとする五行・六経（三陰三陽）などはまだ細かなズレであります。ということはまだ修正が利くのです。しかし陰陽という大きなズレとなると決定的なものがあります。陰陽のズレは陰陽乖離につながる由々しき事態なのです。

ちなみに各診法に基づいて五行的な情報のズレを診断に用いる法は十三難にて学びました。そして情報のズレを五行から陰陽へと問題視する診断法は十七難にて学びましたね。

脈と呼吸と氣の行り

二十一難本文にて、息数という言葉が登場します。
息・呼吸について説く難は一難と四難、八難、十一難、そして十四難です。
この二十一難に記される息数と脈との関わりは一難そして八難のメッセージと共通するものがあります。

本難最後の文には「息数と脈数が応じていない」ことが大いに問題であるとしています。

「脈数と息数と氣行とは緊密な関係にある」
このことは鍼灸師であるならばよくよく理解できることであります。
特に毫鍼を用い、経穴に刺鍼し、経脈にアプローチするという治法を用いる鍼灸師ならば、以上三者の緊密な関係は知識としても感覚的にも理解しておく必要があるといえます。

詳しくはコチラの記事（「経脈を流れる氣の速さと呼吸」）を参考にしてください。

二十一難をふり返って…

形と脈そして息（呼吸）を最後のテーマとして掲げた二十一難は秀逸であります。
形体と呼吸の対比は陰陽（有形と無形）の対比です。そしてその陰陽・有形と無形を結びつける存在として脈（陰陽の間）があります。

私が脈診に力を注ぎ、脈診に魅力を感じるのはこの点にあります。
鍼灸師・鍼灸治療は、この陰陽を結びつける力を本来は有しています。

有形と無形、客観と主観、近代と伝統、エビデンスと思想…現代の鍼灸事情には様々な陰陽の対比が雑然として在ります。
我々東洋思想を解する鍼灸師ならば、そのどちらか一方に偏ることは得策とは言えません。如何に普遍性を説こうとも、それは形而下における普遍性であり、陰陽でみると偏ったものの見方であると思わずにはいられません。

なぜ鍼灸を通じて伝統医学を追窮するのか？
それは道理を追い求めているのだと私は思います。

理とは何か？
陰陽を包括したすじ道であり、表現を変えると主観と客観を結ぶ存在でもあると思います。
当会のモットーである「伝統医学の一貫性と多様性を学ぶことで道理に至る」には、このような趣意を含むものであります。

鍼道五経会　足立繁久

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原文 難経 二十一難