難経四難の書き下し文と原文と…

難経四難のみどころ

前の三難では脈位を寸尺と浮沈に分け、大過不及(実と虚)、陰陽相乗、関格といった脈の分類が行われました。
今回の四難では、脈位である浮沈を基に五臓に配当し、それを呼吸と相応させています。呼吸と脈との関連性は一難に説かれている話ですが、それと本難ではどのような違いがあるのでしょうか?

そして本難の後半ではいよいよ脈状が登場します。本文を読みすすめてみましょう。


※『難経評林』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

難経四難の書き下し

書き下し文・四難

四難に曰く、脈に陰陽の法有り。何の謂い也?

然り。
呼は心と肺に出て、吸は腎と肝に入る。呼吸の間、脾は穀味を受く也。其の脈は中に在り。
浮は陽也。沈は陰也。

故に陰陽と曰う也。
心肺俱に浮、何を以て之を別つ?
然り。
浮にして大散なる者は心也。
浮にして短濇なる者は肺也。

腎肝は俱に沈なり、何を以て之を別つ?

然り。
牢にして長なる者は肝也。
之を按じて濡、指を挙げ来たること実なる者は腎也。
脾は中州、故に其の脈は中に在り。
是れ陰陽の法也。

脈に一陰一陽、一陰二陽、一陰三陽有り。
一陽一陰、一陽二陰、一陽三陰有り。
此れの言いの如きは、寸口に六脈俱に動ずること有りや?

然り。
此の言いは、六脈の俱に動ずること有るに非ざる也。浮沈長短滑濇を謂う也。

浮は陽也。滑は陽也。長は陽也。
沈は陰也。短は陰也。濇は陰也。

所謂、一陰一陽は、脈来たること沈にして滑を謂う也。
一陰二陽とは、脈の来たること沈滑にして長を謂う也。
一陰三陽とは、脈の来たること浮滑にして長、時に一沈するを謂う也。
所言、一陽一陰は、脈来たること浮にして濇を謂う也。
一陽二陰とは、脈の来たること長にして沈濇を謂う也。
一陽三陰とは、脈の来たること沈濇にして短、時に一浮するを謂う也。

各々其の経の所在を以て病の逆順を名く也。

呼吸と五臓の氣

前半は呼吸と五臓の関係について説いています。

呼氣は上焦の肺氣心氣と、吸氣は下焦の肝氣腎氣と相関関係があるとしています。呼吸を陰陽に分け、呼を陽、吸を陰とし、さらにそれを四臓に配当しています。
一呼一吸にそれぞれ脈氣が三寸ずつ進むという呼吸と脈行の関係は『難経』一難『霊枢』五十営にあります。本難ではこれと異なる「呼吸と臓氣との関係」が提示されています。

「呼出心與肺、吸入腎與肝」
呼氣が心肺から出て、吸氣は腎肝に入ると読むべきでしょうか。この呼気と心肺、吸気と肝腎の関係を説くのは『素問』『霊枢』は無かった身体観ではないでしょうか。
そして呼と吸の間(閏)が脾として、中央として脾胃の特性を呼吸に於いても示しています。
この間(閏)という概念は非常に重要です。陰陽論に於いても陰と陽の間、両者をつなぐ存在は重要であり、呼吸法に於いても呼と吸の間は重要であります。

さて、二難三難では寸尺・浮沈と脈を陰陽に分ける脈診観でしたが、四難では陰中の陽・陽中の陰という概念が脈診に適応されます。

浮脈に属する心肺を脈でどう診分けるのでしょうか?
ここでようやく脈状が登場します。

五臓の特性を表わす脈状

心の脈状は浮位にして大脈・散脈の要素を持ち、
肺の脈状は浮位にして短脈・濇脈の要素を持ちます。
これら脈状の表現は両臓の陰陽の性を表現する脈状と言えるでしょう。

同様に、沈脈に属する肝腎を脈で診分けるには…
肝の脈状は沈位にして牢脈・長脈の要素を持ちます。
これも肝が持つ陰の性と木の性を示す表現であると考えます。

ところで脾腎の脈状は他臓と比べて特殊な表現を採用しています。
「之を按じて濡、指を挙げ来たること実なる者は腎也。」
「脾は中州、故に其の脈は中に在り。」
腎脈は肝脈と同じく沈位にある脈ですが、それを触知するためにさらに「按じる」とあり肝よりも深い層であることを示唆しています。また按ずれば脈力は一過性に弱くなりますが(濡脈)、その指を少し挙げると、堰き止められた水を開放した時のように脈力が増します(来たること実)。この脈状イメージは次の五難につながります。

蛇足かもしれませんが、ここでいう濡脈は滑伯仁の説く『診家枢要』濡脈の記載(軽手乍来、重手即去)とは異なります。

寸口脈に全ての病脈が現れるのか?

「寸口に六脈がともに動ずることは有るのか?(寸口有六脉俱動耶)」という問いがあります。

この六脈とは前文の「一陰一陽、一陰二陽、一陰三陽、一陽一陰、一陽二陰、一陽三陰」の六つの脈証パターンです。

その問いに対して「六脈が寸口においてともに動ずるのではない。(非有六脉俱動也)」と答ています。
これは浮沈・長短・滑濇の陰陽六脈が、一陰一陽・一陰二陽・一陰三陽・一陽一陰・一陽二陰・一陽三陰の各パターンで脈に現れるとしており、無秩序に病脈が現れるのではないことを示唆しています。

言うまでもなく、浮沈とは脈位、長短は脈の伸張、そして滑濇はそのまま脈の滑濇なのですが、それらの脈理はそれぞれに意味があります。
難経が伝える脈診の基本単位がこの浮沈・長短・滑濇である、と本難の文から読み取ることもできます。
基本単位ですのでそれらを組み合わせたパターンとして六脈(一陰一陽・一陰二陽・一陰三陽・一陽一陰・一陽二陰・一陽三陰)を挙げているのです。まさに陰陽の法です

そして現場では基本単位(浮沈・長短・滑濇)が“意味を持った組み合わせ”として指先に触知されることとなります。対立する病脈が同部位に現れることは無いが(この矛盾も診るレベルによっては触知し得る)、複数の病脈が指先で確認される…これも日常の臨床でみられることですね。

鍼道五経会 足立繁久

難経三難 ≪ 難経四難 ≫ 難経五難

原文 難経二難

■原文 難経四難

四難曰、脉有陰陽之法。何謂也。

然。
呼出心與肺、吸入腎與肝。呼吸之間、脾受穀味也。其脉在中。
浮者陽也。沈者陰也。
故曰陰陽也。

心肺俱浮、何以別之。
然。
浮而大散者心也。浮而短濇者肺也。

腎肝俱沈、何以別之。
然。
牢而長者肝也。
按之濡挙指来實者腎也。
脾者中州、故其脉在中。
是陰陽之法也。

脉有一陰一陽、一陰二陽、一陰三陽。有一陽一陰、一陽二陰、一陽三陰。如此之言、寸口有六脉俱動耶。

然、此言者、非有六脉俱動也。謂浮沈長短滑濇也。

浮者陽也。滑者陽也。長者陽也。
沈者陰也。短者陰也。濇者陰也。

所謂一陰一陽者、謂脉来沈而滑也。
一陰二陽者、謂脉来沈滑而長也。
一陰三陽者、謂脉来浮滑而長時一沈也。
所言一陽一陰者、謂脉来浮而濇也。
一陽二陰者、謂脉来長而沈濇也。
一陽三陰者、謂脉来沈濇而短時一浮也。

各以其経所在名病逆順也。

おすすめ記事

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




Menu

HOME

TOP