難経五十五難の書五下し文と原文と…

難経 五十五難のみどころ

本難には「積聚」についての情報が記されています。積と聚はそれぞれに違いや特徴があります。
五十五難では積聚それぞれの「病位」「形状」「症状パターン」が記されています。これらの情報は診察・診断そして治療法の決定に直結するものです。

鍼灸治療の特色は「経脈の治療」も「臓腑の治療」も鍼・お灸で共に行うことができることです。この利点は実は凄いことでして、鍼灸師はこの利点を誇るべきだと思います。
しかし、その長所ゆえにか経絡と腑と臓の治療の区別が不明瞭になりがちだとも感じます。(「鍼道五経会で追究・実践する鍼灸その2」を参照のこと)本難の積聚の知識を通じて、積聚と経絡の病との違いを明確することも実践的な学びとなるでしょう。


※『難経或問』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

難経 五十五難の書き下し文

書き下し文・難経五十五難

五十五難に曰く、病に積有り聚有り、何を以て之を別たん?

然り。
積とは陰気也、聚とは陽気也。
故に陰は沈みて伏す、陽は浮みて動ずる。気の積もる所、名を積と曰い、気の聚まる所を名けて聚と曰う。
故に積とは五臓に生ずる所、聚とは六腑に成る所也。
積とは陰気也、其の始め発するに常処有り、其の痛みは其の部を離れず、上下に終始する所有り、左右に窮まる所の処有り。
聚は陽気也、其の始め発するに根本無く、上下に留止する所無し、其の痛みにも常処無し、之を聚と謂う。
故に是を以て別ちて積聚を知る也。

積と聚、それぞれの特徴

積聚とは慢性病の一形態で、臓腑に発するということが分かります。つまり病位は表位にはなく裏位にあり、その中でも陰陽(臓腑)の別があるということです。

五十五難では積聚の違いを「病位」「形状」「発症パターン」の別を陰陽論の観点から説いてくれています。形状という点では有形の病に焦点を当てていることが分かります。その上で有形の病をシンプルに分類しており、陰陽論の長所が活かされています。

積聚ともに時間という要素が重要

周仲立は「陰は沈みて伏する、初めは亦た未だ覚えず、漸く以て滋(ますます)長じて日に積み月に累ねて是(これ)也。聚は病の在る所、血と氣と偶然にして邂逅す。故に常の処無き也。(原文を記事末に付記。『難経本義』)」として、その病理および病発生に時間という要素を明確にしている。

『難経或問』では積聚を陰陽に分類する所以をじっくりと考察しています。
「人の身体というものは惟だ是れ一氣の往来であり、その表裏・上下・升降・開闔によって陰陽の名があるものです。
体腔の裏(臓腑)に二氣が対立して俱に存するに非ざるや!今、五十五難では陽気の聚まるときは聚と為し、陰気が積もるときは積と為る。二氣が相い対するに似て各々用を為すとはこれいかに?」

なるほど五十五難の本文をこんな風に深読みするのかと感心します。人身一元氣の観点から始めつつも、裏位において陽気と陰気が積もり聚まる病理を説いています。

「積とは氣が裏位に凝蓄する病であり、賁走することはあってもその元の処を離れず、時有りても聚散することは無い。
常に腹裏に塊して左右上下とその処を固定する。一朝一夕の病に非ず。その根は深くその蒂は固い、みな裏気の蓄積である。」

ここでも積聚の病理を時間という要素で解説している点に注目です。また続く文では積聚の治療における易難に触れている点も重要です。

「腑病は治し易く、臓病は治し難い。聚とは軽病にして治し易い。聚は散じ易く、百人に一、二人の死者は無し。積は重病であり愈え難い。積は解き難く、日に畳なり月に盛んにして、終に生命を亡する者は往往に有り。神の手でなければ、これを救うことはできない。」

とやはり治療の易難とやはり時間の要素を含めて説明しています。

鍼道五経会 足立繁久

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医家たちの各注釈

『難経本義』滑伯仁 1361年序(至正辛丑自序)

積者五藏所生。五藏屬陰、陰主靜、故其病沈伏而不離其處。
聚者六府所成。六府屬陽、陽主動、故其病浮動而無所留止也。
楊氏曰、積蓋也。言血脉不行、蓄積而成病也。
周仲立曰、陰沈而伏、初亦未覚、漸以滋長日積月累是也。聚者病之所在與血氣偶然邂逅、故無常處也。五十二難意同。

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『難経或問』古林見宜 1711年序

或問曰、人身者惟是一氣之往来従其表裏上下升降開闔而有陰陽之名矣。
言腔子之裏、二氣対立而俱存焉、今也五十五難陽氣聚則為聚、陰氣積則為積。似二氣相対各各為用也。何如?
対曰否。
夫聚者、氣結滞於表而動揺無常。或散或聚而不常常有其形一旦瞥起矣。
非陽病而何!
府者陽也、故云聚者六府所成也。
積者氣凝蓄於裏、而雖有賁走不離其元處無聚散有時矣。
常塊于腹裏而左右上下定其處、非一朝一夕之病。其根深其蒂固、皆裏氣蓄積也。
非陰病而何!
藏者陰也。故云積者五藏所生也。
凡府病易治、藏病難治。聚者軽病而易治、其聚易散。百無一二死者。積者重病而難愈、其積難解、日疊(畳)月盛而終亡生命者往往有之、非有神手、何能救之哉。是所以積聚有陰陽之別而屬藏腑也。何疑之有焉。

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『難経達言』高宮環中 1749年刊

心一氣猶如一水之流。陽陰猶如川之向背、水遇寒而凌則向(ひなた)則凘(いてて)而不見其痕。背(うら)則亦致堅而似石、
氣因病而凝者、陽之浮而散者毎聚而無定處、陰之沈而敦(あつき)則於積則有成形。曰聚曰積。
雖府藏而異状、氣順則亦無物、見其冰而不知其為則水至鑿破之而空其本殆哉。

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原文 難経 五十五難

■原文 難経 五十五難

五十五難曰、病有積有聚、何以別之。

然。
積者陰氣也、聚者陽氣也。
故陰沈而伏、陽浮而動。氣之所積名曰積、氣之所聚名曰聚。
故積者五藏所生、聚者六府所成也。
積者陰氣也、其始発有常處、其痛不離其部、上下有所終始、左右有所窮處。
聚者陽氣也、其始発無根本、上下無所留止、其痛無常處、謂之聚。
故以是別知積聚也。

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