第37章 虚煩似狂【瘟疫論】より

これまでのあらすじ

前々章では薬煩の章で服薬後の過剰反応について。
また前章の停薬では中気の枯渇によって薬力がめぐらないという深刻なステージの話でした。

今回も深刻なステージの話。熱病が極まると狂証のような精神疾患様の症状がみられます。

『高熱から精神症状…これは鍼灸院には無縁だな』なんて思わないでください。
私も過去、一例そのようなケースを治療したことがあります。(どちらかというと本章のような証ではなく39章の奪気不語に近いと思われる)

本章から39章までは熱病が精神に影響を及ぼした場合の話が続きます。
鍼灸師にとっても無縁とはいえない、いつこのような患者さんが来るかもしれない…と思いながら読んでみてください。

(写真・文章ともに四庫醫學叢書『瘟疫論』上海古籍出版社 より引用させていただきました。)

第37章 虚煩似狂

虚煩似狂

時疫、坐臥不安、手足不定、臥して未だ穏ならざるは則ち起坐して纔(わずか)に坐に著けば即ち乱れ走り、纔に身を抽すれば、また臥せんと欲し寧刻有ること無し。
或いは循衣摸牀(循衣模床)、撮空撚指す。
師至りて纔に脉を診すれば、将に手を縮めて去り、六脉甚だ顕れず、尺脉至らず。
これ平時、斵喪(身体精神を傷害)して根源を虧損し、因りてその邪に勝てず、元氣を主持すること能わず。
故に煩躁、不寧、固より狂證に非ず。その危うきこと狂に於いて甚しき有る也。
法當に大補す。
然れども、急下する者有り、或いは下して後に厥回りて尺脉至り、煩躁少し定まる。
これ邪氣少し退き正氣暫く復して、微陽少しく伸びることに因る也。
二時ならずして、邪氣復た聚まり、前證復た起こる。
前に下して効を得て、今再びこれを下すこと勿れ。これを下せば死を速やかにす。
宜しく峻補するべし。
補に及ばざる者は死する。
この證に、表裏に大熱無く下證備わざる者、庶幾(こいねがわくば)生くべし。辟(たとえば)城郭空虚なる如し。残寇ありと雖も能く直に入る。戦いて可ならず。守りて可ならず。その危うきを知るべし。

瘟疫による熱病、そして下法などの処置(誤治も含む)により人体の正気・精は大いに消耗します。
それによって裏気、臓気ひいては精神が傷つくと、このような狂症に似た状態に一過性に陥ります。
急ぎ峻補、大補して、正気、裏気、精を確保すべしとのことです。

またこのような状態に下法を行って、一時的に精神が正常に回復する場合があります。
しかし、それも一時的なもの。
余邪を下し駆逐することで、正気が伸びるため、精神は回復するのですが、
すぐにまた邪が集まれば精神に異常をきたします。

ちなみに誤診例として挙げられていた「狂症に下法を施す」のはなぜなのか?ですが
傷寒論の承気湯証は陽明腑熱が陰に波及して精神にまで異常をきたします。
詳しくは『傷寒論』の大小承気湯や『素問』陽明脈解篇を読むと分かりやすいでしょう。

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鍼道五経会 足立繁久

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