第24章 盗汗・第25章 狂汗『瘟疫論』より

これまでのあらすじ

前回までは戦汗・自汗に関する内容でした。
瘟疫論の病理設定を考えると、戦汗や時間のメカニズムが理解できるはずです。
熱病の治癒起点として発汗は大きなターニングポイントとなります。その発汗にもいろいろなケースがあります。
今回は盗汗と狂汗という発汗パターンを理解していきましょう。

(写真・文章ともに四庫醫學叢書『瘟疫論』上海古籍出版社 より引用させていただきました。)

第25章 盗汗

盗汗
裏證下後、続て盗汗を得る者は、表に微邪有る也。
若し邪、甚ければ、竟(つい)に自汗を作し、伏邪中に潰えるときは則ち戦汗を作する。
凡そ人の目張るときは則ち衛氣は陽に行り、目瞑するときは則ち衛氣は陰に行る。
陽に行るとは、表に升発することを謂い、陰に行るとは、内に斂降することを謂う。
陰に行けば、その表を衛護すること能わず、
毫竅は空疎となり、微邪は間に乗じて出づ。邪、盡きて盗汗は自ら止む。
設し止まざる者は、宜しく柴胡湯にて以ってこれを佐するべし。
時疫、愈えて後、脉静、身涼、数日後に反って盗汗および自汗を得る者は、これ表虚に属す。
黄芪湯に宜し。柴胡湯・・・柴胡(三銭)、黄芩(一銭)、陳皮(一銭)、甘草(一銭)、生薑(一銭)、大棗(二枚)
古方、人参半夏を用いる。今、表實する故に人参半夏を用いず。嘔吐無くば半夏を加えず。黄芪湯・・・黄芪(三銭)、五味子(五分)、當歸(一銭)、白朮(一銭)、甘草(五分)
常を照らして煎服す。
汗、未だ止まざるが如しには麻黄浄根一銭五分を加えて、止まざる者有ること無し。

然れども實に属する者は常に多く、虚に属する者は常に少なし。
邪氣盛んなるを實を為す。正氣奪うるを虚と為す。
虚實の分、有熱無熱に在り乎。有熱を實と為し、無熱を虚と為す。
若し傾倒して誤り用いれば、未だ實を實し、虚を虚するの誤りを免れず。證に臨んで當に慎むべし。

盗汗は東医概論などでは陰虚証の所見であると習うことが多いですが、実際には盗汗は陰虚のみの症候ではありません。
本章にある盗汗もその一つ。
夜間に衛氣は陰分に行くため、手薄になった表の毫竅(腠理)から邪が出ていくという病理です。
しかし、実際には勝手に邪が出ていくことではなく、正氣によって押し出されているとも解釈できます。
但し、日中に邪氣の排除が起こらずに夜間に起こることがミソです。

ちなみに、もし(瘟疫罹患時に)陰虚なのであれば盗汗どころでは済みません。
陰分血分の位に熱は病伝して、さらに深いステージに病態は移行していることでしょう。

第26章 狂汗

狂汗とは見慣れない症候名ですが、まずは本文を読んでみましょう

狂汗
狂汗なる者は、伏邪中に潰え、汗解を作さんと欲するも、その人の禀賦充盛なるに因りて、陽氣冲撃して、頓ろに開くこと能わず。
故に忽然として、坐臥不安となり、且つ狂し、且つ躁し、少頃あって大汗淋瀝して、狂躁頓ろに止む。
脉静に、身涼く、霍然として愈える。

汗出により表解する際、本来ならそのまま発汗して邪を追い出して解除…のはずが
元々持っている正氣の勢いが強すぎるため、表を開くことができない…とあります。
陽氣が押し出す勢いが強すぎて、一過性に陽分に目詰まりを起こしているとイメージします。
そのため本文中の諸々の症状が見られるのですが、その後に発汗して表解します。
治癒の特殊パターンということでしょうか。

第23章【自汗】≪ 第24章【盗汗】・第25章【狂汗】≫ 第26章【発斑】

鍼道五経会 足立繁久

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