第46章 前後虚實【瘟疫論】より

これまでのあらすじ

前回と前々回は二便がテーマでした。病位が太陽腑・陽明腑に移ることでどのような症状が現われ、どのような治療法を選択すべきか?が勉強になったと思います。

今回は虚実の先後がテーマです。
先補後瀉という言葉は、鍼灸師にとっては見慣れたものだと思います。

瘟疫に罹患する前に、すでに素体が大いに虚していた場合、旧病を患っており正気の損耗が無視できないレベルにある場合。
疫邪を取り去りたいが、正気の衰弱が甚しくそれもままなりません。
先補して、ある程度正気を補充する必要があります。

『先補するのはどのくらい?』

そんな疑問が浮かびますよね。

また、これまで「安易に補剤を使ってはいけない!」「人参の使用には気を付けろ!」と散々言ってきたのに、ここにきて先補後瀉です。
先補の秘訣をこの章で学びましょう。

(写真・文章ともに四庫醫學叢書『瘟疫論』上海古籍出版社 より引用させていただきました。)

第46章 前後虚實

前後虚實

病、先虚し後實する者有り、先補して後瀉するに宜し。
先實して後虚する者有れば、先瀉して後補するに宜し。

假令(たとえば)、先虚し後實する者には、或いは他病先虧に因り、或いは年高血弱に因り、或いは先に勞倦の極み有るに因り、或いは新産亡血過多なるに因る、或いは舊くは吐血及び崩漏の證有り。
時疫、将に発せんとするとき、即ち舊疾を触動し、或いは吐血、或いは崩漏、以て亡血過多を致し、
然る後、疫氣 漸漸に加重す。

已上、並びに宜しく先補して後瀉すべし。
瀉するとは疎導の剤を謂う、承気の下薬を併せ、概してこれを言う也。

凡そ先虚後實する者に遇えば、これ萬に已むことを得ずして、補剤一二帖を投じて
後、虚證少しく退かば、便ち宜しく疫を治すべし。
若し補剤を連進すれば、必ず疫邪を助け、禍害隨いて至る。

假令(たとえば)、先實して後虚する者は、疫邪 應(まさ)に下すべきに下を失し、血液 熱の為に搏たれ盡きる。
原邪尚在るときは、宜しくこれを急下すべし。
邪、六七(分)を退けば、急にこれを補うに宜し。
虚、五六(分)を回さば、慎みて再び補う勿れ。
多く服すれば則ち、前邪 復た起こる。
下後、畢竟 虚證を加添する者、方(まさ)に補い、若し意を以て、その虚を揣度(はか)り、虚證を加えざるに、誤りて補剤を用いば、害を貽すること浅からず。

何度も書きますが『瘟疫論』は外邪による急性熱病です。
病因である外邪(疫邪)を排除しることが根本的な治療なのです。

そのため先補後瀉といっても、先補することに満足してはいけないのです。
私はよく講義で「補は瀉の補助、瀉は補の結果」と言います。

補瀉のイメージは術者によって大きく異なりますが、
補法偏重の治療はどうしても視野が狭くなりがちように感じます。
(ま、私自身が過去に補法偏重の治療をしていたのですが…)
この意見は、病の質や患者さんの年代によって当然変わります。
が、前提条件の違いで大いに治療の軸を変えざるを得ない…これこそが本章の本旨でもあります。

また先実後虚の病症には、先瀉後補しなければいけません。
この時の補瀉の目安が興味深いですね。

先瀉は六分七分、後補は五分六分…と、これまた微妙な配分です。

瀉法七分を超えず、補法は六分を超えずといったところでしょうか。
絶妙な匙加減が必要です。

私たち鍼灸師であれば、絶妙な鍼の補瀉の加減を必要とします。
六分の補法、七分の瀉法…できますか?

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鍼道五経会 足立繁久

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