葉天士の『幼科要略』その13 痧疹について

痧疹とは?

今回は痧疹が主題です。痧疹とは見慣れない病症名ですが、どうやら熱後に起こる流行性の発疹と解釈できそうです。発熱、頭痛、呼吸器系症状が起こった後に、皮膚に発疹が現れる病態のようですね。麻疹や風疹、手足口病などがこれに該当するでしょうか。
またこの時代でも、地域によって呼び名は異なるようです。痧疹の他にも痧子、瘖子、疹と名称が補足されています。
では本文を読んでいきましょう。

以下に書き下し文(黄色枠)と原文(青枠)を記載します。
『幼科要略』は『温熱湿熱集論』福建科学技術出版社および『葉天士医学全書』山西科学技術出版社を参考および引用しています。
書き下し文に訂正箇所は多々あるでしょうがご容赦ください。現代語訳には各自の世界観にて行ってください。

書き下し文・痧疹

痧子(呉音)、瘖子(浙江)、疹(北音、丹)

痧は陽腑経の邪に属す。初起は必ず表より治する。
症には頭痛、喘急咳嗽、氣粗嘔悪が見(あらわ)れる。一日二日は即ち発する者は軽く、三五日になる者は重し①
陽病に七日外、隠伏して透ぜず、邪は反て内攻し、喘は止まず、必ず腹痛脹秘悶するは、危なり②
治法は宜しく苦辛清熱すべし、涼膈散去 芒硝、大黄。

方書に謂う足陽明胃の疹は、雲の如く密に布する、或いは大顆なるは痘の如し、但し根盤無し
方書に謂う手太陰肺の疹は、但だ点粒有りて片片無き者、辛散解肌を用いる③

冬日無汗に、壮熱喘急するは、麻黄、杏仁を用いる、華蓋散、三拗湯の如し。
夏月無汗には、辛涼解肌を、葛根、前胡、薄荷、防風、香薷、牛蒡、枳実、桔梗、木通の属を用いる。

古人、表邪口渇を以て、即ち葛根を加える、以って其の陽明の胃津を升らす。熱甚しく煩渇するには、石膏を用い辛寒解肌す、無汗には忌用す。
凡そ瘡疹には辛涼を宜と為す。連翹の辛涼、連翹は衆草に出づ、能く升し能く清す、最も幼科に利用され、能く小児の六経諸熱を解く。

春令の痧を発するは風温に従い、夏季は暑風に従う、暑は必ず湿を兼ねる。秋令は熱爍燥氣し、冬月は風寒に従う。
疹は宜しく通泄すべし。泄瀉するは順と為す④
下痢五色する者も亦た妨げ無し。
惟だ二便不利の者、最も凶症多し、治法は大いに止瀉するを忌む。

痧は本(もと)六氣の客邪なり。風寒暑湿は必ず火に従い化する。
痧は既に外発す。世人は皆な邪透ずと云う。孰ぞ謂う出没の際、升に必ず降有りと。勝には必ず復有り。
常に痧の外発有り、身熱除かれず、咽唖し齦腐を致す、喘急し腹脹し、下痢して食せず、煩躁して昏沈す。竟に以て斃を告げる者、皆 裏症に属して清せずは変を致す。
須らく三焦受邪の孰ぞ多きかを分ける、或いは別病累瘁を兼ね、須らく細かに体認すべし。
上焦の薬は辛涼を用い、中焦の薬は苦辛寒を用い、下焦の薬は鹹寒を用いる。

上焦の薬、氣味は宜しく軽を以てすべし。肺は氣を主りて、皮毛は肺の合に属す。外邪、宜しく辛 (味)勝すべし。裏甚しければ宜しく苦(味)勝するべし。
若し煩渇せざれば、病日多し。
邪鬱して清ならざれば、淡滲し以て氣分を泄すべし。
中焦の薬、痧火の中に在るは陽明燥化と為して多氣多血なり、薬の氣味苦寒を用いることを宜しと為す。若し日多ければ、胃津消爍す。苦(味?)(を用いるときは)則ち燥を助け津を劫す、甘寒を宜しく用うべし。
下焦の薬、鹹苦を主と為す。若し熱毒下注して痢と為すときは、必ずしも鹹味は軟堅を以てせず、但だ苦味を取り陰を堅くし湿を燥かす。

古人は痧を以て経腑の病と為し、温燥澀補を忌む。所謂(いわゆる)痘は温暖を悦喜し、疹は清涼を喜ぶ也。
然るに常に氣弱体虚有れば、表散寒涼するは法に非ず、淹淹として損法を醸成する。
但だ陰傷多しと為す、陰を救い必ず胃汁を扶持する。
氣衰う者は亦たこれ有り、急ぎ當に益氣すべし。
稚年(小児)は陽体、純剛の薬を忌み用う。
幼科方書の歌括に曰く、赤疹は清涼に遇いて而して消える、白疹は温暖を得て而して解す。
此の温の字、即ち後人の酒醸、檉木、粗草紙、木綿紗の属。知らずんばあるべからずと雖も、然るに近年に用いる者多く益無し。

痧疳は、湿熱熱蒸し、口舌咽喉疳蝕す。
若し治の速やかならざれば、腮を穿ちて頬を破ること有り、咽閉し喘促して告斃するなり。
之の治、宜しく早すべし、外治の他に専方有り。若し湯薬の方法、必ず軽淡にて能く上病を解す、或いは清散するも亦た可なり。

痧痢は、乃ち熱毒内陥す。傷寒協熱と邪尽くせば則ち痢止むの法と同じ。升提を忌み、補澀を忌む。軽症なれば則ち分利宣通し、重症なれば則ち苦寒解毒す。

痧疹の概論

下線部①「一日二日は即ち発する者は軽く、三五日になる者は重し。」
下線部②「陽病に七日外、隠伏して透ぜず、邪は反て内攻し、喘は止まず、必ず腹痛脹秘悶するは、危なり。」
以上の文は痧疹の病態をよく表わしています。

痧疹・発疹は発熱を始めとする表症の勢いを借りて皮膚に表出する病態です。
表位に居る邪を正氣が駆邪しようと外に張り出します。その勢いで邪が駆出するため皮膚に痧疹が現れるのです。端的にいえば邪正相争の一環でもあります。
そのため早期に痧疹が発出する場合は正気の勢いが旺盛であり、遅れて痧疹が現れる場合は正気の勢いが不足しているのです。そのため痧疹の発する日数で病の軽重がある程度わかるのです。

さらに下線部②となると痧疹の発出が遅い…といったレベルではありません。「隠伏して透ぜず」とあり、皮表に発疹(病邪・邪毒)が発出されない事態を言っています。これは体外に排除駆邪するはずであった邪毒が、一転して裏位に内攻してしまうことを意味しています。
そのため「喘不止、腹痛脹秘悶」と裏症を提示しており、危険な状態であると言及しています。

ここまでは痧疹、発疹の概論にあたります。

痘疹との鑑別

下線部③の文章です
方書に謂う足陽明胃の疹は、雲の如く密に布する、或いは大顆なるは痘の如し、但し根盤無し。
方書に謂う手太陰肺の疹は、但だ点粒有りて片片無き者、辛散解肌を用いる

この文にある「痘の如し、但し根盤無し」という語は、痘瘡(天然痘)との鑑別の要点を示しています。
痘瘡については次章で触れますが、足陽明の疹はその形状が大きく密に分布します。その状は痘瘡にも似ているようで、痘瘡との鑑別ポイントを明らかにする必要があるのです。
手太陰に比べて、足陽明の方が「疹の発出が盛大である」のはやはり陽明が多氣多血であるからとみて良いでしょう。

皮表から発出するだけに四時の令に配慮すべし

下線部④です。
「春令の痧を発するは風温に従い、夏季は暑風に従う、暑は必ず湿を兼ねる。秋令は熱爍燥氣し、冬月は風寒に従う。」

下線部④までにいくつかの治則が提示されました。
「苦辛清熱」「辛散解肌」「辛涼解肌」「辛寒解肌」です。

「苦辛清熱」これは涼膈散去芒硝大黄という処方箋が付記されています。
「辛散解肌」は手太陰肺疹に対する治則。
「辛涼解肌」は夏月無汗の証に対して。
「辛寒解肌」は陽明ベースに、熱甚しく煩渇する者に石膏を用いよとあります。
いずれにせよ、清熱と解肌が主となります。
それだけに、外気の温暖(すなわち天氣が味方となるか否か?)を意識して治療を組み立てるべきであるとのことでしょう。

ちなみに、涼膈散去芒硝大黄の生薬構成は〔甘草、山梔子仁、薄荷葉、黄芩、連翹、竹葉〕となります。『風温―涼膈散について―』を参考のこと

また解肌が主であると示唆しつつも「疹は宜しく通泄すべし」「泄瀉するは順と為す」と記しており、複数の駆邪ルートを提示してくれているのは非常に実践であると言えます。

続く文も同様の意があります。
「二便不利の者、最も凶症多し、治法は大いに止瀉するを忌む。」
解肌が有効であるということは二便(太陽陽明の腑)から駆邪することもまた(変法と呼ばれるかもしれませんが)有効であるということなのでしょう。この治療プランは鍼灸でもよく用います。

後半部も非常に学ぶべき内容が満載ですが、記事としてはここまでとさせていただきます。(いずれ講義ネタとして話すかもしれません)

鍼道五経会 足立繁久

■原文・痧疹

痧子、(呉音)瘖子、(浙江)疹、(北音)丹

痧属陽腑経邪、初起必従表治。症見頭痛、喘急咳嗽、氣粗嘔悪。一日二日即発者軽、三五日者重。陽病七日外、隠伏不透、邪反内攻、喘不止、必腹痛脹秘悶、危矣。治法宜苦辛清熱、涼膈去硝、黄。
方書謂、足陽明胃疹、如云布密、或大顆如痘、但無根盤。方書謂手太陰肺疹、但有点粒、無片片者、用辛散解肌。
冬日無汗、壮熱喘急、用麻、杏、如華蓋散、三拗湯。
夏月無汗、用辛涼解肌、葛根、前胡、薄荷、防風、香薷、牛蒡、枳、桔、木通之属。

古人以表邪口渇、即加葛根、以其升陽明胃津。熱甚煩渇、用石膏辛寒解肌、無汗忌用。
凡瘡疹、辛涼為宜。連翹辛涼、翹出衆草、能升能清、最利幼科、能解小兒六経諸熱。
春令発痧従風温、夏季従暑風、暑必兼湿、秋令熱爍燥氣、冬月従風寒。

疹宜通泄、泄瀉為順、下痢五色者亦無妨。惟二便不利者、最多凶症、治法大忌止瀉。
痧本六氣客邪、風寒暑湿、必従火化。痧既外発、世人皆云邪透。孰謂出没之際、升必有降、勝必有復。常有痧外発、身熱不除、致咽唖齦腐、喘急腹脹、下痢不食、煩躁昏沈、竟以告斃者、皆属裏症不清致変。須分三焦受邪孰多、或兼別病累瘁、須細体認。上焦薬用辛涼、中焦薬用苦辛寒、下焦薬用鹹寒。

上焦薬、氣味宜以軽。肺主氣、皮毛属肺之合、外邪宜辛勝、裏甚宜苦勝。若不煩渇、病日多、邪鬱不清、可淡滲以泄氣分。
中焦薬、痧火在中、為陽明燥化、多氣多血、用薬氣味苦寒為宜。若日多、胃津消爍、苦則助燥劫津、甘寒宜用。
下焦薬、鹹苦為主。若熱毒下注成痢、不必鹹以軟堅、但取苦味堅陰燥湿。

古人以痧為経腑之病、忌温燥澀補。所謂痘悦喜温暖、疹喜清涼也。
然常有氣弱体虚、表散寒涼非法、淹淹醸成損法。
但陰傷為多、救陰必扶持胃汁。氣衰者亦有之、急當益氣。稚年陽体、純剛之薬忌用。幼科方書歌括曰、赤疹遇清涼而消、白疹得温暖而解。此温字、即後人酒醸、檉木、粗草紙、木綿紗之属。雖不可不知、然近年用者多無益。

痧疳、湿熱熱蒸、口舌咽喉疳蝕。若不速治、有穿腮破頬、咽閉喘促告斃矣。治之宜早、外治另有専方。若湯薬方法、必軽淡能解上病、或清散亦可。

痧痢、乃熱毒内陥、與傷寒協熱、邪尽則痢止同法。忌升提、忌補澀。軽則分利宣通、重則苦寒解毒。

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