『切脈一葦』脈状⑧-遅脈・緩脈-

『切脈一葦』これまでの内容

1、序文
2、総目
3、脈位
4、反関
5、平脈
6、胃氣
7、脈状その1〔浮・芤・蝦遊〕
8、脈状その2〔滑・洪〕
9、脈状その3〔数・促・雀啄〕
10、脈状その4〔弦・緊・革・牢・弾石〕
11、脈状その5〔実・長〕
12、脈状その6〔沈・伏〕
13、脈状その7〔濇・魚翔・釜沸〕


『切脈一葦』京都大学付属図書館より引用させていただきました

※下記の青枠部分が『切脈一葦』原文の書き下し文になります。
文末にデジタル図書館へのリンクを貼付。

遅 緩

遅は一息に脈四動以下を云う。甚しき者は三動に及ばざる者あり。これ陽氣不足の候なり。
又、病毒に痞塞せられて遅脈を見わす者あり。陽明病脈遅(※)の類これなり。

緩はゆったりとしたる脈を云う。平人の脈なり。
浮緩は太陽の脈なり。
緩弱は太陰の脈なり。
緩は中風の脈なりと雖も浮の字を熟して見ざれば中風の脈と為し難し。
又、遅と同類なりと雖も遅は数を以て言い、緩は形を以て言う。
故に遅而緩と云いて、太陰の脈を明にしたる者なり。

※陽明病編の脈遅の条文は以下のとおり
195条)陽明病、脈遅、食難用飽。飽則微煩頭眩、必小便難、此欲作穀癉、雖下之、腹満如故。所以然者、脉遅故也。
208条)陽明病、脈遅、雖汗出不悪寒者、其身必重、短氣、腹満而喘、有潮熱者、此外欲解、可攻裏也。手足濈然汗出者、此大便已鞕也。大承気湯主之。…
234条)陽明病、脈遅、汗出多、微悪寒者、表未解也、可発汗、宜桂枝湯。

遅脈と緩脈を同じ項に分類しているのがまた特徴的です。
遅脈の“遅さ”と緩脈の“ゆったり”とを共通項としているのでしょう。
遅脈と緩脈を同類としているのは、一見したところ奇異にみえますが、脈数と脈状の違いを弁えた上でのカテゴライズです。
文中にある「緩は遅と同類といえども遅は数(脈数)を言い、緩は形(脈状)を言う」と論述されています。

当会提唱「脈の五要素-脈位・脈力・脈状・脈数・脈機-」の中で、脈の遅数は“脈数”に当たります。
脈数における平脈は一息四至~四至半。それより脈数の遅いものを遅脈といいます。
中莖氏はこの理由を陽気不足としています。脈気脈血を推動する陽の気のはたらきが不足しているという意でしょう。

一般的には脈の遅数で寒熱を候います。遅脈を寒証と判定しますが、中莖氏のいう陽気不足という判定も当然可です。

また脈数は陽気の大過不及をみるというのは私も同意見です。
脈数は単に寒熱を診る指標ではなく、息数と脈数の関係性から生命力そのものを問う指標(脈の要素)です。

「遅数はただ寒熱を診るだけではない」という点では、
陽明病(陽実証)において遅脈(寒証を示す脈)があらわれるという現象も当然矛盾はしないのです。
その理由として中莖氏は「病毒痞塞」という病理を挙げています。

 

鍼道五経会 足立繁久

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