脈象大旨『診家枢要』より

『診家枢要』が説く脈のイロハ

この脈象大旨から『診家枢要』の脈診講義が始まります。“脈のキホン” “脈のイロハ”といったところでしょう。

・氣血と脈の関係
・体格と脈の関係
・性格と脈の関係
・性差と脈の関係

と、シンプルにして基本原則を陰陽を基軸に説いています。
まずは四の五の言わずにこの原則を頭に入れるべし!と、そんな滑氏の声が聞こえてきそうな章です。
訳文を載せておきます。

脈象大旨(訳文系書き下し文)

脈とは氣血の先である。氣血が盛なれば則ち脈も盛ん、氣血が衰えれば則ち脈は衰ろう。
氣血が熱すれば則ち脈は数となり、氣血寒なれば則ち脈は遅となる。
氣血が微なれば則ち脈は弱り、氣血平なるときは則ち脈は治まる。

又、長人の脈は長じ、短人の脈は短なり。
性急なる人の脈は急して、性緩なる人の脈は緩なり。

左脈が大なるは男にとって順であり、右脈の大なるは女にとって順である。
男性の尺脈は常に弱く、女性の尺脈は常に盛んである。
此れば皆その常なり。
これに反する者は逆である。

「脈は氣血の先」この言葉はたいていどの脈診書にも記されている重要ワードです。

『素問』脈要精微論では「夫脉者血之府也(甲乙経では血氣之府)」とあります。
さらに「長則氣治、短則氣病」と続き、脈が長じれば氣もまた治まり、短なれば(暢びやかでなければ)氣は病むとあり、脈の状態と気血のコンディションは一体にあります。
この「脈とは氣血の先」について自分なりの解を持っておくことも、脈診を深く理解することにつながるでしょう。

また本論は陰陽を基軸としており、気血の盛衰と脈の虚実や寒熱と脈の遅数などは分かりやすい例といえるでしょう。
しかし、男女における寸尺の虚実に関しては、単に陰陽論のみで片づけるわけにもいきません。

陰陽論をベースにしつつも、男性女性の各生理を考慮に入れて、男女の脈における順逆を考えるとよいでしょう。

脈診には生理病理と思想ともに含まれていることが分かる章です。

おっと、忘れてはいけない。
「性格が性急な人は脈も性急であり、緩やかな人は脈も緩やか」という言葉も、つい見落としがちではあるが実際にみられることです。

写真はスタジオジブリの作品静止画より引用
湯婆婆(ユバーバ)と銭婆(ゼニーバ)は対極的なキャラクターとして描かれている。
仕事や礼儀に厳しく、時に冷徹さをみせる湯婆婆と温和な性格の銭婆、二人の脈もそれぞれ違うことだろう(多分…)。
『ならば千尋の脈はどんな脈だったのだろうか…?』と色々と想像を膨らますのも悪くないのです。

さて、当会の脈診実習(実験?)でもたまーに行うのですが「その人の性分が分かる脈診法」というのがあります。
具体的には危機に直面した時にどのように対峙するタイプなのか?が大まかですが脈で分かります。
これはJapanese Acupuncture abroad-study tour(海外の人に向けての日本鍼灸を学ぶツアー)でも紹介しました。つまり、日本人だけでなく欧米人にも通ずる脈と精神の相関関係といえるのです。ま、いつか機会があればどこかで紹介するかもしれませんね。

鍼道五経会 足立繁久

さて、本章の原文白文も以下に引用しておきます。

【原文】脉象大旨

脉者氣血之先也。
氣血盛則脉盛、氣血衰則脉衰、
氣血熱則脉数、氣血寒則脉遅、
氣血微則脉弱、氣血平則脉治。

又、長人脉長、短人脉短、性急人脉急、性緩人脉緩。
左大順男、右大順女。男子尺脉常弱、女子尺脉常盛。此皆其常也。反之者逆。

 

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