婦人脈法の前に「兼見脉類」「諸脉宜忌類」「験諸死證類」「死絶脉類」「五藏動止脉」が収録されている版がありますが、本記事『診家枢要』シリーズでは一旦おいておきます。
婦人の脈の時間です
婦人の脈法
婦人女子は、尺脈が常に盛にして右手大なるが皆その常也。
若し腎脈微濇、或いは左手の関後尺内の脈浮、或いは肝脈が沈にして急、或いは尺脈が滑にして断絶し匀わず、みな経閉不調の候也。
婦人の脈、三部浮沈正等にして、他病無くして月経せざる者、妊娠也。
又、尺中数にして旺なる者も亦然り。
又、左手の尺脈が洪大なるは男子を為し、右手の沈実なるは女子と為す。
又、経に云う、陰搏ちて陽別るる、これ子有りと謂う。
(尺内の陰脈が手に搏ちて其の中に別れて陽脈有る也、陰陽相平なる故に能く有子する也。※)
凡そ女人、天癸未だ行らざるの時は少陰に属す、既に行らば厥陰に属す。已に絶せば太陰に属す。胎産の病は厥陰に従う。
凡そ婦人室女は寒、及び諸寒熱氣滞を病まば、須らく経の事を若何(いかん)と問うべし。
凡そ産後には、須らく悪露の有無や多少を問うべし。
※尺内の陰脈が手に手つときは則ちその中に別れて陽脈ある也、陰陽相い搏つ、故に能く有子する也。の説あり。
婦人の平脈から
まずは王道の内容です。
婦人の平脈は尺中や右が旺盛である。
一貫して書かれているのは、婦人と血の関係が強いということ。気:血=陽:陰ですので、脈の陰は尺部であり、右脈となります。
その結果、血が旺盛である場合の女性の平脈は相対的に右脈が強く、尺脈が強くなります。
しかし、当然ながらそれは“常”の場合においてのこと。血が旺盛な女性に限ります。
私たち治療家は常ではなく“変”を診るのが仕事ですから、臨床では教書通りのキレイな脈を診ること自体が特殊なのかもしれません。
性交や月経や出産が転機となる
非常に興味深いのが、月経や性交、お産が体質を変える転機として記されていることです。
(当たり前といえば当たり前なのですが…)
天癸が至る前と後では、女性の体質や周期、心身が全く異なることは良く知られています。
ここで興味深いのは初潮前は少陰に属し、月経が始まれば厥陰に、閉経すれば太陰に属すという生理学です。これは婦人科の周期や病理を俯瞰的に考えるうえで参考になります。
また室女(未婚女性や未亡人など)の病理にも触れられているのが素晴らしいですね。
未婚女性や未亡人というと、現代ではちょっと意味がズレてしまうかもしれません。簡単にいうと過度にセックスをしない女性をいいます。ですから、現代では結婚していてもセックスレスな方もいますので、室女の定義に入ります。
性交・セックスの有無は当然ながら氣血の盛衰や周期、正経・奇経に影響します。
この辺りのことは講座【生老病死を学ぶ】に詳しく一年以上かけて解説しましたので、本記事では割愛します。
ジブリ絵で学ぶ脈診
イラストa、木陰で女子会
左からサツキ(12歳)、メイ(4歳)、おばあ(年齢不詳)
サツキさんは既に月経が始まっており、おばあは既に閉経しているという前提でみると、彼女らの平脈は全く異なる…という主旨の問題を緩脈の記事に書いた。
(緩脈記事では、ノーヒントとするため上記の前提条件には触れていない)
映画『ホーホケキョ となりの山田くん』から山田たかしとまつ子のイオラストを見てみよう。
イラストb、山田たかしとまつ子の新婚時代(おそらく)
イラストc、第一子のぼるを授かったであろう頃のまつ子とたかし
イラストd、第二子のの子(通称ののちゃん)を授かった頃のたかしとまつ子(後方の船の上)
まつ子さんは何年経ってもブレずに同じ姿のため、見た目に惑わされずに体質を考えよう!というテーマでは非常に良い教材となる。
さて、イラストb~dのまつ子さんの脈(平脈も含め)は変化しているのは言うまでもない。
出産という大きな出来事は、その後の女性の体質に大きな影響を及ぼす。
このように考えると、例えば不妊治療・不妊鍼灸において、第一子妊娠目的の治療と、第二子以降の妊娠目的の治療とでは診るべき点が大きく異なることも分かるだろう。
※以上のイラストはスタジオジブリの作品静止画より引用させていただきました。
鍼道五経会 足立繁久
以下に原文を付記しておきます。
■原文 婦人脉法
婦人女子、尺脉常盛、而右手大、皆其常也。
若腎脉微澀、或左手関後尺内脉浮、或肝脉沈而急、或尺脉滑而断絶不匀、皆経閉不調之候也。
婦人脉、三部浮沈正等、無他病而不月者、妊也。又尺数而旺者亦然。
又左手尺脉洪大為男、右手沈實為女。
又経云、陰搏陽別、謂之有子。(尺内陰脉搏手、而其中別有陽脉也、陰陽相平、故能有子也。※)
凡女人天癸未行之時属少陰、既行属厥陰、已絶属太陰。胎産之病従厥陰。
凡婦人室女病寒、及諸寒熱氣滞、須問経事若何。
凡産後、須問悪露有無多少。
※尺内陰脉搏手、則其中別有陽脉也、陰陽相搏、故能有子也の説あり