血虚とネギで有名な脈
芤脈は血虚の脈として習うことが多いです。この「芤脈=血虚」という固定的な覚え方も考え直すべきだと思いますが、この点については、いつものように〆のクイズで思案してもらえると嬉しい限りです。
そして芤脈の譬え。
葱の孔のような脈と、脈診の教科書などで覚えることが多いですね。
この譬えの分かりやすさは、他の脈状に比べると群を抜いていると思います(笑)。
葱の孔(ネギの輪切り部分)と表現したのはそもそも誰なのでしょう。『瀕湖脈学』では戴起宗(劉同父)や劉開(劉三点)などの言葉を紹介しています。ま、この辺りのことはいずれ『瀕湖脈学』の紹介記事にて書こうと思います。
まずは芤脈の全体像を理解していきましょう。
これを尋ねて中は空、傍らは実る。傍ら有りて中は無し。
診は浮挙重按の間に在り。
失血の候と為す。
大抵は氣有余、血不足し、血は氣を統べること能わず。
故に虚にして大、芤(あな)の状のごとき也。
左寸口の芤脈は、心血妄行を主り、吐と為し、衄を為す。
関上の芤脈は、脇間血氣痛を主る、或いは腹中瘀血、亦は吐血目暗を為す。
尺中の芤脈は、小便血、女人では月事の病と為す。
右寸口の芤脈は、胸中積血。衄と為し、嘔を為す。
関上の芤脈は、腸癰、瘀血、及び嘔血して食せず。
尺中の芤脈は、大便血。
又云う、前大後細は脱血也。芤に非ざるや?而して何ぞや?
芤脈の形状はまさに葱
脈を診る際は尋を用いて候うも、中は空です。ネギのような脈なので当然です。そして、ネギなものですから傍ら(=外縁部)にて脈を触知することができます。
これを諸々の脈状名を用いて芤脈を表現すると「浮大にして軟」ということになります。
また、診るべきポイントは「浮挙重按の間にあり」というのも大事な戒めです。浮実沈虚の脈なのか、それとも芤脈なのか?その見極めが「浮挙重按の間にあり」ということです。
芤脈が意味すること
「芤脈は失血の候である」という滑氏の言葉が秀逸です。そしてその後にフォローが添えられています。気有余血不足です。
さらには血が気を統制することができない。だから脈も外方向的に広がってしまっているのだ(もしくは外縁部に脈力が残存している)…と。
この言葉から何が分かるのか?と言いますと「同じ血虚に属する濇脈と芤脈では違いはどこにあるのか?」ということです。
本書『診家枢要』では濇脈もまた「気多血少の候」としています。芤脈も「気有余血不足」と記されています。
芤脈・濇脈ともにその証は似たようなものです。
しかし脈状が違う以上は、大きな違いがあるはずなのです。
芤脈の特徴は「中空傍実」という形状、濇脈の特徴は「不滑、往来難」という動きに表れているということです。
さらに両脈を比較するならば、芤脈は「浮大而軟」であり、濇脈は「虚細而遅」です。
この両者の違いを考えると同じ血虚とはいうものの、証に置き換えると大きな違いとなることも分かるかと思います。当然、治法にも差が出てきます。
脈状クイズ☆ジブリ絵から考えよう
Q1,以下の3つのイラストの中から最も芤脈をあらわすと思われる人物はダレ?
イラストa、背後からズドン!銃撃を受け、大量出血しながらもサンを砦から救出するも起き上がれなくなったアシタカの脈
イラストb、砲弾の飛び交う戦場から生還、魔法を使いまくりかつ出血おびただしくフラフラになって帰ってきたハウルの脈
イラストc、トルメキア装甲兵の喉元に短剣を突き付けつつ左手で暴走したナウシカの剣を受け止め出血するユパ様の脈
※ただし、アシタカの右腕の呪いが蝕む影響は脈には反映されないものとする。
Q2,また選択理由も答えよ。
※以上のイラストはスタジオジブリ作品静止画から引用させていただきました。
この記事が脈について色々と思いを馳せるきっかけになればうれしいです。
鍼道五経会 足立繁久
以下に原文を付記しておきます。
■原文 脉陰陽類成 芤
芤、浮大而軟。
尋之中空傍實、傍有中無。
診在浮挙重按之間、為失血之候。
大抵氣有餘、血不足、血不能統氣、故虚而大、若芤之状也。
左寸芤、主心血妄行、為吐、為衄。
関芤、主脇間血氣痛、或腹中瘀血、亦為吐血目暗。
尺芤、小便血、女人月事為病。
右寸芤、胸中積血、為衄、為嘔。
関芤、腸癰、瘀血、及嘔血不食。
尺芤、大便血。
又云、前大後細脱血也。非芤而何?