牢脈とは『診家枢要』より

牢脈の時間です。

革脈の項で牢脈に少し触れましたが、牢脈と革脈と芤脈は似ている説がある、と。
この説にはいささか疑問を感じるのですが、なぜ牢・芤・革が似ることに疑問を感じるのか?という点に留意して読んでもらうのも面白いかと思います。

脈の陰陽類成 牢
牢脈は堅牢なり。
沈にして有力、動じて移らず。

裏実表虚、胸中氣促と為し、労傷と為す。
大抵その脈、胃氣の無き者に近く、故に諸家は皆以って危殆の脈と為すと云う。
亦(また)骨間疼痛して、氣が表に居するを主る。

牢脈の形状

牢脈は堅牢です。堅牢とは堅牢無比という言葉のように、堅固といった印象が強い言葉です。
滑氏の言葉には「沈にして有力」そして「動じて移らず」といった有力な様を表現しています。

また同じく元代の脈診書『崔氏脈訣』では「牢比弦緊、轉堅轉勁」といった表現が採られており、やはり力強い脈状として伝えられています。

隠れマッチョみたいな脈ですね。

ジブリ絵でみる隠れマッチョ

ジブリ作品の牢脈のような隠れマッチョと言えば(私の中では)この人、千尋のおとーさん。
wikipediaによると、本名は萩野明夫。建設会社に勤める。アウディ(左ハンドル)を駆って山道を爆走する辺りが、どうも一般的ではない系統ではないがマッチョな気質ありかと…。

イラストa、見知らぬ町、昔でいう隠れ里、今風にいう異世界にも何の疑問も抱かずにズンズン歩くさまはジャイアニズムすら感じる。

イラストb、子どもたちには不評のシーン。『勝手に食べちゃダメッ!』やはりジャイアニズムが垣間見える。

そしてマッチョにみえて常に漂わせる『志村~うしろ~!うしろっ~!!』的な危機の予感。この辺りは牢脈と共通するのではないだろうか。(詳しくは次段の「マッチョに漂う危険な香り」をご覧ください)

イラストc、最後に『あ~やっぱり~(><)』となる結末に。

医家の場合は映画と違って『やっぱり~(><)』では済まされない。なので古来より脈診で望診で死生吉凶を占うのだ。「可治」と「不可治」をよくよく判断すべし。
いうまでもなく明夫は不可治を突き進んだパターン。

※以上のイラストはスタジオジブリ作品静止画『千と千尋の神隠し』から引用させていただきました。

マッチョに漂う危険な香り

さて以上のイラストでも触れましたように、牢脈で気を付けるべきは「危殆の脈」であることです。
牢脈はただの沈位にある伏した実脈なのではないのです。
牢脈は沈で有力、動じて移らずです。これだけみれば裏位に病邪が侵入したものの、まだ戦う力が残っている状態です。

しかし「多くは胃氣の無い者に近く」とあり、戦う力が尽きる手前にある人に多くみられるのが牢脈である、との但し書きがあります。
「諸医家は皆 口をそろえて危殆の脈であると云う」という記述も同じくです。

このようにみると(私見ではありますが)“陰陽の離れ”を示す脈、もしくは延長線上にそれがある脈としてみることも可ではないかと思える脈でもあるのです。

※蛇足ではありますが、上のイラストbでは「モリモリ食べる明夫さん」が描かれていますが、『“胃氣の無い者の脈”ではないじゃないか!?』と思う人はいないとは思いますが、念のためにフォローしておきますと、それは譬えの軸がズレていますので予めご理解ください。

鍼道五経会 足立繁久

以下に原文を付記しておきます。

■原文 脉陰陽類成 牢


堅牢也。沈而有力、動而不移。
為裏實表虚、胸中氣促、為勞傷。
大抵其脉近乎無胃氣者、故諸家皆以為危殆之脉云。
亦主骨間疼痛、氣居于表。

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