細脈はきわめて細い脈
脈の陰陽類成 細
細脈は、微眇(びびょう)也。
指下にこれを尋ねれば、その往来は綫の如し。
蓋し血冷氣虚して、以って充つるに足らざる故也。
元氣不足、乏力無精、内外倶冷、痿弱洞泄を為し、
憂労過度を無し、傷寒を為し、積を為し、痛み内に在り及び下に在ると為す。
このきわめて細く幽かな様を微眇(微渺)という言葉で表しています。
なにせ微眇な脈なものですから、よくよく尋ねて診ないと触知できません。尋は挙・按・尋の尋です。
その往来も綫(せん・いと・すじ)のようであると書かれています。
これは脈幅が細い点のみを指して言っているのか?それとも往来の様も含めて綫の如しなのか?考察の余地があると思います。
細脈が示す体の状態は…
血冷気虚のため、脈を含めて色々なものを充たすことができない状態です。
元気は不足し、力乏しく精も尽きてしまい、内も外も冷えてしまっています。
このようにみると、細脈ってなんにも残ってない状態を示す脈のようです。
『傷寒論』弁脈法にも類似の脈が紹介されています。
脈縈縈、如蜘蛛絲者、陽氣衰也(一云、陰氣)
脈縈縈として蜘蛛(クモ)の糸のような脈は、陽気の衰えなり、一説には陰気の衰えという。
私個人の考えとしては陰氣の衰えの方がこの脈の形状には合っていると考えます。
『診家枢要』における細脈も明らかに陽気の衰えだけでは済まない証(体質)として記されていますし。
今回もジブリ絵でなんとかイメージ(汗)
終盤に差し掛かり、ジブリ絵に譬えるのがかなりハードになってきました。
イラストa、釣り糸(釣り針もあるのか?)の先に虫を付けてカエル釣り。
釣り糸はテグスともいいます。漢字では天蚕糸と書きます。
江戸期あたりでは、天蚕(ヤママユガ)の繭糸からとったものを釣り糸として使っていたそうです。
『竹取物語』の時代背景からするとズレますが、蚕糸と蜘蛛絲、ちょっと似てる気がしますね。とはいえ、蚕糸(私が触ったのは楠蚕の糸でしたが)と蜘蛛絲も実際に触るとけっこう頑丈です。
実際の細さという点では、蜘蛛の糸の譬えが具体的に分かりやすいでしょう。しかし、その心細さや危うさという点では、以下のイラストを参考にしてみてください。
イラストb、たった一つの命綱、これを離してしまったら命はない!!
このシーンは『蜘蛛の糸』(芥川龍之介 著)の犍陀多(カンダタ)を連想してしまう。やはり蜘蛛の糸は微かさを示す代名詞なのか!?
イラストc、雨どい(パイプ?)とはいえ、命がけの綱渡り
同じく命を繋ぐ一本の微(かす)かな存在という比喩としてこのシーンも想像しやすいのではないだろうか。
鍼道五経会 足立繁久
以下に原文を付記しておきます。
■原文 脉陰陽類成 細
細、微眇也。指下尋之、往来如綫、蓋血冷氣虚、不足以充故也。
為元氣不足、乏力無精、内外倶冷、痿弱洞泄、為憂勞過度、為傷寒、為積、為痛在内及在下。