代脈とは『診家枢要』より

脈数の意味を考える

「脈がとぶ」という脈象は、促脈・結脈にて学びました。本項の代脈も同じく「脈がとぶ」がテーマとなります。
促脈をはじめ、脈を深く学んでいくと脈数は非常に重要な要素であることが分かってきます。
そして“脈がとぶ”ことに実は深い意味があるのです。そもそも常に脈が一定のペースで止まることなく続くこと自体が大きな意味があるのです。
このような脈数の意味を考えるうえで、代脈を理解することは大いに意義があります。

脈の陰陽類成 代

代脈は、更代也。
動じて中止し、自ら還えること能わず。因りて復た動ず。これに由りて復た止まる。
これを尋ねれば良久(しばらく、長い間)して、乃ち復た強いて起きるを代と為す。
形容羸痩、口不能言を主る。

若し病に因らずして人羸痩し、その脈代止せば、これ一藏に氣無し、他藏これに代わる、真に危亡の兆也。
若し病に因りて気血驟損して、以って元気続かざる(卒かに元気が相続せざる)ことを致す。
或いは風家、痛家、脈に止代の見(あらわ)れるは、ただ病脈と為す。
故に傷寒家にも亦、心悸有りて脈代する者、心痛(腹心痛)にも亦、結濇止代有りて均わざる者、蓋し凡痛(久痛)の脈なり。准(準)とすべからず也。
又、妊娠にも亦脈代なる者あり、これ必ず二月余りの胎也。

代脈とは「更代」

代脈も一止する脈…というイメージですが、本文には時一止の言葉がありません。
「動而中止、不能自還、因而復動、由是復止、尋之良久、乃復強起為代。」とあります。

書き下し文にすると「動じて止まり、自ら還ることができない。そのためまた動ずることになる。そのためまた止まることになる…」ということ。
かなり困った状態のようですね、よく分からないけれども…。
しかし同じ「脈がとぶ」にしても、促脈や結脈とは全く異なる病理・脈理であることが分かると思います。

更代とは「改め代えること」や「入れ代わること」といった意味があります。更(こもごも)代わるとも読めます。
うーむ、それでもちょっとピンとこないかもしれませんね。

もっと分かりやすく言い換えると「接続できない」という表現がしっくりくるなと私は考えます。
上記の病理脈理や、『素問』平人気象論の代脈の脈理を考えると、このように繋ぐことができない状態、つまりは危機存亡の兆しとなる脈ということも可なのです。

「接続できない」について少し考えてみましょう。

胃氣を和緩とみることが多いが…

『素問』平人気象論の一節を引用しましょう。(『素問』平人気象論はコチラからどうぞ)

平脾脉の来たること、和柔して相い離れる。鶏の地を践むが如し。脾の平と曰う。
長夏は胃氣を以て本と為す。
病脾脉の来たること、実而して盈数、鶏の足を挙げるが如し。脾病と曰う。
死脾脉の来たること、鋭堅なること烏の嘴の如し、鳥の距の如し、屋の漏の如し、水の流れの如し。脾の死と曰う。

平脾脉来、和柔相離、如鶏践地、曰脾平。
長夏以胃氣為本。
病脾脉来、實而盈数、如鶏挙足、曰脾病。
死脾脉来、鋭堅如烏嘴、如鳥之距、如屋之漏、如水之流、曰脾死。

このパートにおける脾胃の氣・土の作用について触れられているのは言うまでもありません。
脾の死脈なので、無胃氣の脈にほぼ同義と仮定します。

有胃氣の条件「和緩」に対してはこのフレーズ、「鋭堅なること烏の喙の如し」です。無胃氣の脈なので、鋭堅なる脈なのです。
鋭堅(死脈≒無胃氣)の真逆にあるのが和緩(有胃氣)の脈ということです。

そしてもう一つの無胃氣の要素が「如屋之漏、如水之流」です。
言うまでもありませんが、これは和緩を言っているのではありません。
これは「接続性」や「連続性」をいっているのだと考えられます。

接続性に関しては、一旦 脈状を離れて考えると分かりやすいでしょう。
四時(五季)でいうと、土の時は土用です。その役割は四時を繋ぐことでもあります。

時間でいうと土用、空間や物でみると脾胃。
機能でみると、接続性や寛容性・中心…といった言葉になります。

そしてこれを脈に置き換えると、和緩であり、脈の恒常性になるのです。
そして脈における連続性が失われたとき「屋の漏のような脈」があらわれると平人気象論にありますが、これは代脈そのものですね。

また臓無氣に関しては難経十一難にもまとめられています。が、藏無氣、および危脈ではない代脈については本記事では割愛させていただきます。

脈とぶ脈をまとめると…

促脈はつっかえる
結脈は結ぼれ阻まれる
代脈は繋がりを失う

ということになります。

ジブリ絵から代脈をイメージすると…

バルス!


イラスト バルス 
※スタジオジブリの作品静止画『天空の城ラピュタ』より使用させていただきました。

この呪文を唱えると、Twitter上で“バルス祭り”なるものまで引き起こすという超強力な呪文。
なぜバルスが代脈と関係があるのかって?
各自考えてみてください。当会会員には宿題です。

鍼道五経会 足立繁久

以下に原文を付記しておきます。

■原文 脉陰陽類成 代

代、更代也。
動而中止、不能自還、因而復動、由是復止、尋之良久、乃復強起為代。
主形容羸痩、口不能言。

若不因病、而人羸痩、其脉代止、是一藏無氣、他藏代之、真危亡之兆也。
若因病而氣血驟損、以致元氣不續、或風家痛家、脉見止代、只為病脉。
故傷寒家亦有心悸而脉代者、心痛亦有結澀止代不均者。
蓋凡痛之脉不可准也。
又妊娠亦有脉代者、此必二月余之胎也。

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