霊枢 病本第二十五 の書き下し文と原文と

霊枢 病本第二十五のみどころ

本篇はその名の通り“病の本”および標について論述されている。いわゆる病の標本を知ること、これが本篇の内容である。
ちなみに『素問』標本病伝論第六十五には本篇病本と『霊枢』病伝第四十二とがセットで記載されている。言い換えると『素問』標本病伝論が病本と病伝に分割されていると考えてもよいだろう。

本篇では、治療の先後、優先順位について論述されており、極めて臨床的実践的な内容だといえる。
特に鍼灸師は「標治」「本治」という言葉を好んで用いるが、そもそも標とはなにか?本とはなにか?と改めて考える必要もあるだろう。
特に腸胃を基軸とする病態において治病の先後を理解することは重要であり、私も臨床で大いに参考にしている現役鍼灸師向けの内容であるといえよう。


※『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

霊枢 病本第二十五

霊枢 病本第二十五 (『甲乙経』巻六 逆順標本末方宜形志大論第二、『太素』???、『類經』巻十 標本類 5標本逆従治有先後)

先に病みて後に逆する者は、其の本を治する。先に逆して後に病む者は、其の本を治する①
先に寒して後に生ずる者は、其の本を治する。先に病みて後に寒を生ずる者は、其の本を治する。
先に熱して後に生ずる者は、其の本を治する。
先に泄して後に他病を生ずる者は、其の本を治する。
必ず且(まさ)に之を調え乃ち其の他病を治す。
先に病みて後に中満する者は、其の標を治す。
先に病みて後に泄する者は、其の本を治す。
先に中満して後に煩心する者は、其の本を治す。

客氣有り、同氣有り。
大小便不利なれば、其の標を治す。大小便利せば、其の本を治する。

病発して有餘せば、本にして之を標とする、先に其の本を治し、後に其の標を治する
病発して不足せば、標にして之を本とす、先に其の標を治し、後に其の本を治する②
謹みて詳らかに間甚を察し、意を以て之を調う。間なる者は並び行いて、甚しきなるは独り行うを為す。
先ず小大便不利せずして、後に他病を生ずる者は、其の本を治する也。

標本・逆従の定義

馬蒔先生はこのように言っている「標者、病之後生。本者、病之先成」と。

病態というものは、時間と共に育つもので、いざ治療するときには、経時的にみるとかなり複雑になっているものである。
患者さんが訴える愁訴や病症はすべて一斉に発症してわけではない、というのは言うまでない。

多愁訴に対する治療は「幾つものだんご結びが複雑に絡み合った状態」のようなもので、その結び目を解くには、正しい順番で解かなければ、余計にややこしいことになるのだ。
本篇で示される標本とは、結び目を解く順番をいう。

ではどのようにして順番・治療の優先順位を判断するのか?

そのセオリーとして最初に書かれているのが
「先に病みて後に逆する者は、其の本を治する」と「先に逆して後に病む者は、其の本を治する」下線部①である。

そもそも『素問』標本病伝論では「逆従」という言葉で逆の対比として従の文字が提示されている。
「治反為逆、治得為従(反を治するを逆と為し、治得ることを従と為す)」とある。
同様に『傷寒論』にても「観其脈証、知犯何逆、随証治之」とあり、ここでの逆随は上記の逆従と同義とみてよいだろう。

以上のように読むと、自ずと下線部①の文意も分かると思う。
とはいえ「その本」はいつの「本」なのか?中期~長期続く病態になると、その病態における“本”を判別しにくくなる。故に病理と診断が必要となる。

その具体的な指針となるのが、下線部①に続く文である。

「先に寒して後に生ずる者は、其の本を治する。」から「必ずまさに之を調え乃ち其の他病を治す。」までは王道のセオリーといえ、理解しやすい。

そして「先に病みて後に中満する者は、其の標を治す。」および「先に中満して後に煩心する者は、其の本を治す。」の二文では「中満」が鍵となっている。
中満、すなわち腸胃の腑が閉塞することを非常に警戒していることが分かる。これは『傷寒論』医学と共通する病理観であるといえよう。
この話は続く「大小便の利不利」に関する文で繰り返し具体的に解説されている。

下線部②「病発而有餘、本而標之、先治其本、後治其標。病発而不足、標而本之、先治其標、後治其本。」は続く「間者並行、甚為獨行。」の言葉にかかる文であろうかとみている。

病を発する氣、すなわち病氣が有余し病症が甚なれば、「本にして之を標とし、其の本を治する」すなわち独行するのである。後は推して知る可しであり、本来『素問』標本病伝論の後半部の内容は、『霊枢』病伝第四十二に記載されている。

鍼道五経会 足立繁久

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原文 霊枢 病本第二十五

■原文 霊枢 病本第二十五

先病而後逆者、治其本。先逆而後病者、治其本。
先寒而後生者、治其本。先病而後生寒者、治其本。
先熱而後生者、治其本。
先泄而後生他病者、治其本、必且調之乃治其他病。
先病而後中満者、治其標。
先病而後泄者、治其本。
先中満而後煩心者、治其本。
有客氣、有同氣。
大小便不利、治其標。大小便利、治其本。
病発而有餘、本而標之、先治其本、後治其標。
病発而不足、標而本之、先治其標、後治其本。
謹詳察間甚、以意調之。
間者並行、甚為獨行。
先小大便不利、而後生他病者、治其本也。

 

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