霊枢 邪気臓腑病形第四の書き下し文①

これまでのあらすじ

前回「小鍼解」は鍼治の微妙、調気とはなにか…といった内容でした。

今回は邪気臓腑病形篇、かなり重要な内容です。
構成上、2つの記事に分割して投稿します。

前半は衛気営気とは関係ありません。どちらかというと病伝に関する内容です。
病伝に関する基本法則は意外と理解されていないことが多いと思います。

病邪がいかに経絡・腑・臓に伝播していくのか?
この邪気臓腑病形の病伝理論は『傷寒論』理論の基になっているとの説(内藤希哲氏)もあります。

『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『霊枢』邪氣藏府病形第四 法時

『霊枢』邪気臓腑病形第四 (『甲乙経』巻四 病形脈診第二、『太素』巻二十七 邪論 邪中、『類經』巻十三 疾病類 3邪之中人陰陽有異)

黄帝、岐伯に問うて曰く、邪氣の人に中る也、奈何(いかに)?
岐伯答えて曰く、邪氣の人に中(あた)ること高し也。

黄帝曰く、高下に度有る乎?
岐伯曰く、身半已上(以上)は、邪 これに中る也。
身半以下は、濕(湿) これに中る也。
故に曰く、邪の人に中る也、常有ること無し。
陰に中れば則ち府に溜り、陽に中れば則ち経に溜る。①

黄帝曰く、陰と陽とは、名を異にしてて類を同じくし、上下相い會(会)する。
経絡の相い貫くこと、環の端の無きが如し。
邪の人に中ること、或いは陰に中り、或いは陽に中る、上下左右、恒常有ること無し、その故は何ぞ也?
岐伯曰く、諸陽の会は、皆な面に在り。
人に中る也、方(まさ)に虚時に乗じて、及び新たに力を用い、若しくは飲食し汗出し、腠理開いて邪に中る。②
面に中れば則ち陽明に下り、項に中れば則ち太陽に下り、頬に中れば則ち少陽に下る。
その膺背両脇に中るも亦その経に中る。

黄帝曰く、その陰に中るは奈何?
岐伯答えて曰く、陰に中る者は、常に臂胻従(よ)り始まる。
その陰の皮は薄く、その肉は淖澤す。
故に倶に風を受けて、獨りその陰を傷る。

黄帝曰く、この故にその藏を傷るの乎?
岐伯答えて曰く、身の風に中るや、必しも藏を動ぜず。
故に邪、陰経に入れば則ちその藏氣は實す。邪氣入りて客すること能わず。故に府に還る。③
故に陽に中れば則ち経に溜る、陰に中れば則ち府に溜れる也。

黄帝曰く、邪の人の藏に中ること奈何?
岐伯曰く、愁憂恐懼すれば則ち心を傷る。
形寒、寒飲すれば則ち肺を傷り、その両寒相い感じて、中外皆な傷れる。故に氣逆して上行す。
堕墜する所有りて、悪血は内に留まる。若し大怒する所有りて、氣上りて下らず、脇下に積するときは則ち肝を傷る。
撃仆する有り、若し酔いて房に入りて、汗出で風に當(あた)れば、則ち脾を傷る。
力を用い重きを挙げる所有り、若し房に入ること過度にして、汗出て水を浴びれば則ち腎を傷る。

黄帝曰く、五藏の風に中ること奈何?
岐伯曰く、陰陽倶に邪を感ずれば、乃ち往を得る。
黄帝曰く、善き哉!

黄帝、岐伯に問うて曰く、首面と身とは形なり。骨に属して筋に連なり、血と同じくして氣に於いて合するのみ。
天寒れば則ち裂地凌冰す。それ卒かに寒すれば、或いは手足は懈惰す。然れどもその面は衣せざるは、何ぞ也?
岐伯答えて曰く、十二経脈、三百六十五絡、その血氣は皆な面に上りて、空竅に走る。
その精なる陽氣は、上り目に走りて、睛と為す。
その別氣、耳に走りて聴と為す。
その宗氣、上りて鼻に出て臭と為す。
その濁氣、胃に出て、唇舌に走りて味と為す。
その氣の津液、皆な上りて面に燻りて、皮また厚く、その肉は堅し。
故に天熱、甚寒といえどこれに勝つこと能わざる也。

黄帝曰く、邪の人に中るや、その病形は何如?
岐伯曰く、虚邪の身に中るや、灑淅として形を動する。
正邪の人に中ること微にして、先に色に見われて、身に於いて知らず。有るが若く無きが若く、亡するが若く存するが若し、形有りて形無し、その情を知ること莫し。
黄帝曰く、善き哉。

病伝について考えよう

以上引用文の前半部は、病邪の侵入と伝変・病伝の話。

まず整理しておくべきは、外邪は人体のどの部位から侵入するのか?
「外邪は皮毛から侵入する」とイメージしている人は多い。

しかし外邪の侵入経路にも複数あるのだ。そして多様な邪の侵入パターンにもそれなりの法則性がある。
例えば、人体の上下によって侵入する邪の性質が異なり、
且つ、経の陰陽により、その後の伝変の展開が異なる。

「陰より邪が侵入すれば腑にながれ、陽より邪が侵入すれば経にながれる」
この病伝パターンは意外と知られていないのではなかろうか。

①鍼灸師が知っている病伝

「外邪が人体に侵入し、各部に移動して病を起こさせる」という病伝イメージを解する鍼灸師は多い。
その病伝イメージとは「孫絡から経脈へ、経脈から臓腑へ(例、肺経から肺の臓へ、大腸経から大腸の腑へ)」といった病伝イメージであろう。
もしくは「五行の相生または相尅」の病伝イメージであろうと推察する。
前者は経絡臓腑システムに基づくものであり、後者は難経五十三難に基づく理論であろう。

また『霊枢』百病始生第六十六にも、表から裏に到る病伝経路が提示されている(※)。
※「百病始生」の病伝は、皮膚に始まり、毛髪・腠理を入り口とし、絡脈・大経(経脈)・輸穴に舎り、伏衝脈、腸胃へと伝わる。
(詳しくはコチラ『霊枢 百病始生篇の書き下し文』を参考に)

しかし本篇、邪気臓腑病形第四には、さらに基本となる病伝パターンとその経路が記載されている。
それが前述の「陰より邪が侵入すれば腑にながれ、陽より邪が侵入すれば経にながれる」である。

②外邪はどこから人体に侵入するのか?

本篇では、様々な外邪の侵入部位や伝変経路について言及されているが、まずは外邪が侵入できる条件について。

外邪にとっても、そう簡単に人体に侵入できるわけではない。
邪が人体に侵入するにも条件が限られているのだ。
本篇で記載されているのは「虚時、用力、飲食、汗出により腠理が開いてしまったとき」である。

つまり表気・衛気が手薄となった時に、腠理(表のゲート)が開ききってしまい邪の侵入を許してしまうという。
続く文では、邪の侵入部位にも3つのセクション(三陽)があるという。
頭面部を例に挙げて、太陽・陽明・少陽の三陽位に分類している。

③陰経に邪が入っても臓氣は弾き返す

外邪は皮毛・腠理を足掛かりにして、経を伝ってさらに深部へと侵入する。
この点は絡脈から経脈、経脈から腑、臓へと伝わる経絡臓腑システムと同様である。

しかし、人体には正氣が存在するのだ。そう簡単に邪の侵入・侵攻を許さないのは当然である。
臓には五神が藏されている。邪が五臓に侵入し、五神が傷つくとそれは死を意味するのだ。

当然、邪が臓に侵入することは許さず、正氣によって弾き返される。
弾き返される先は、該当する腑である。

「邪、陰経に入ってもその臓氣は実しているため、邪氣は留まることができずにその腑にはね返される」のだ。

例えば、足少陰腎経に邪が中ったとする。しかし、腎の藏はそう簡単には邪を侵入させない。
さらに藏氣が充実している腎であれば、表裏関係にある膀胱にその邪を弾き返すのだ。そこで邪は膀胱に留まることになる。

この病伝パターンは『傷寒論』の病伝モデルになっていると内藤希哲はその著書『医経解惑論』にて提唱している。

以上ののことから分かることは以下の4点である。

✔ 人体の高下や陰陽により病邪の侵入点は異なる
✔ 侵入してからも複数の病伝ルートがある
✔ 経絡・臓腑にも、邪に対する防御の堅脆・強弱がある
✔ 病伝とは単層的ではなく複層的な構造を持つこと

これらの基本を踏まえて、素体の強弱・虚実を弁え、さらには内生の邪(伏邪)の存在をも加味して診断を行うのが、外邪性疾患に対する診断へとつながるのだ。

鍼道五経会 足立繁久

小鍼解第三 ≪ 邪氣藏府病形第四 その① ≫ 邪氣藏府病形第四 その②

原文『霊枢』邪氣藏府病形第四 法時

■原文『霊枢』邪氣藏府病形第四

黄帝問於岐伯曰、邪氣之中人也、奈何?
岐伯答曰、邪氣之中人高也。
黄帝曰、高下有度乎?
岐伯曰、身半已上者、邪中之也。身半以下者、濕中之也。故曰、邪之中人也、無有常。
中於陰則溜於府、中於陽則溜於経。

黄帝曰、陰之與陽也、異名同類、上下相會、経絡之相貫、如環無端。
邪之中人、或中於陰、或中於陽、上下左右、無有恒常、其故何也?
岐伯曰、諸陽之會、皆在於面。
中人也、方乗虚時、及新用力、若飲食汗出、腠理開而中於邪。
中於面則下陽明、中於項則下太陽、中於頬則下少陽。
其中於膺背両脇、亦中其経。

黄帝曰、其中於陰奈何?
岐伯答曰、中於陰者、常従臂胻始。其陰皮薄、其肉淖澤。故倶受於風、獨傷其陰。黄帝曰、此故傷其藏乎?
岐伯答曰、身之中於風也、不必動藏。
故邪入於陰経、則其藏氣實、邪氣入而不能客。故還之於府。
故中陽則溜於経、中陰則溜於府也。

黄帝曰、邪之中人藏奈何?
岐伯曰、愁憂恐懼則傷心、形寒寒飲則傷肺、其両寒相感、中外皆傷、故氣逆而上行。
有所堕墜、悪血留内。若有所大怒、氣上而不下、積於脇下則傷肝。
有撃仆、若酔入房、汗出當風、則傷脾。
有所用力挙重、若入房過度、汗出浴水則傷腎。

黄帝曰、五藏之中風奈何?
岐伯曰、陰陽倶感、邪乃得往。
黄帝曰、善哉!

黄帝問於岐伯曰、首面與身形也、属骨連筋、同血合於氣耳。
天寒則裂地凌冰、其卒寒、或手足懈惰、然而其面不衣、何也?
岐伯答曰、十二経脈三百六十五絡、其血氣皆上於面、而走空竅。
其精陽氣、上走於目、而為睛。
其別氣、走於耳而為聴。
其宗氣、上出於鼻而為臭。
其濁氣、出於胃、走唇舌而為味。
其氣之津液、皆上燻於面、而皮又厚、其肉堅。
故天熱甚寒不能勝之也。

黄帝曰、邪之中人、其病形何如?
岐伯曰、虚邪之中身也、灑淅動形。
正邪之中人也微、先見於色、不知於身、若有若無、若亡若存、有形無形、莫知其情。
黄帝曰、善哉。

 

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