霊枢 邪気臓腑病形第四の書き下し文②

邪気臓腑病形に記される氣のこと

本篇では望診・脈診・尺膚診に関する記述が登場します。
これら診法の比較からも、氣を理解するヒントにもなるのです。

『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『霊枢』邪氣藏府病形第四 法時

『霊枢』邪気臓腑病形第四 (『甲乙経』巻四 病形脈診第二、『太素』巻十一 輸穴 腑病合輸 巻十五 診候之二 色脈尺診、『類經』巻十三 疾病類 17三診六變與尺相應 巻二十 鍼刺類 24六腑之病取之於合)

黄帝、岐伯に問うて曰く、
余聞く、その色を見て、その病を知る、命じて明と曰う。
その脈を按じて、その病を知るは、命じて神と曰う。
その病を問うて、その處を知るは、命じて工と曰う。
余、願くば聞かん、見てこれを知り、按じてこれを得、問うてこれを極む、これを為すこと奈何?
岐伯答えて曰く、それ色、脈と尺これ相い應ずること、桴鼓 影響の相い應ずるが如し也。相い失うこと得ざる也。
これまた本末 根葉の出を候う也。故に根死すれば則ち葉も枯れる。
色脈形肉、相い失うことを得ざる也。
故に一を知れば則ち工と為し、二を知れば則ち神と為し、三を知れば則ち神にして且つ明なり。

黄帝曰く、願くば卒にこれを聞かん。
岐伯答えて曰く、色青なる者は、その脈は絃(弦)也。
赤なる者は、その脈鈎(洪)也。
黄なる者は、その脈代也。
白なる者は、その脈毛。
黒なる者は、その脈石。
その色を見てその脈を得ず、反てその相勝の脈を得るものは則ち死す矣。
その相生の脈をるときは則ち病已える。

黄帝、岐伯に問うて曰く、五藏の生ずる所、変化の病形は奈何?
岐伯答えて曰く、先ずその五色五脈の應を定め、その病を乃ち別つべき也。
黄帝曰く、色脈已に定む、これを別つとは奈何?
岐伯曰く、その脈の緩急小大滑濇を調えて、病變定まる。

黄帝曰く、これを調えるとは奈何?
岐伯答えて曰く、脈急なる者は、尺の皮膚も亦急なり。
脈緩なる者は、尺の皮膚も亦緩。
脈小なる者は、尺の皮膚も亦減じて氣少なし。
脈大なる者は、尺の皮膚も亦賁して起こる。
脈滑なる者は、尺の皮膚も亦滑。
脈濇なる者は、尺の皮膚も亦濇。
凡そこの變には、微有り甚有り。
故に善く尺を調える者は、寸を待たず。
善く脈を調える者は、色を待たず。
能く参合してこれを行う者は、以て上工と為すべし。上工は十に九を全うす。
二を行う者は中工と為す、中工は十に七を全うす。
一を行う者は下工と為す、下工は十に六を全うす。

黄帝曰く、請いて問う。脈の緩急小大滑濇の病形とは奈何?
岐伯曰く、臣請い言う。五臓の病變也。
心脈の急甚なる者は、瘈瘲を為す。微急なるは、心痛み背に引き、食不下を為す。
緩甚しきは狂笑を為し、微緩なるは伏梁心下に在り、上下に行き、時に唾血するを為す。
・・・・・(中略)・・・・・
黄帝曰、余聞く、五藏六府の氣、榮輸の入る所を合と為す。何れの道従り入らしめ、入りて安にか連なり過ぎるか、願くばその故を聞かん。
岐伯答て曰く、これ陽脈の別、内に入りて、府に属する者也。

黄帝曰く、榮輸と合と、各々名有るか?
岐伯答えて曰く、榮輸は外経を治し、合は内府を治す。

黄帝曰く、内府を治するには奈何?
岐伯曰く、これを合に取る。

黄帝曰く、合に各々名は有るか?
岐伯答えて曰く、胃は三里に於いて合し、大腸の合は巨虚上廉に入り、小腸の合巨虚下廉に入り、三焦合は委陽に入り、膀胱合は委中央に入り、膽合は陽陵泉に入る。

黄帝曰く、これを取ること奈何?
岐伯答えて曰く、これを三里に取る者は、跗を低くしてこれを取る。
巨虚は、足を挙げてこれを取る。
委陽は、屈伸してこれを索する。
委中は、出してこれを取る。
陽陵泉は、正に膝を豎(た)てて、これを予にし齊しく下し委陽の陽に至りてこれを取る。
諸の外経に取る者は、揄申してこれに従う。

黄帝曰く、願くば六腑の病を聞かん。
岐伯答えて曰く、面熱する者は、足陽明の病。魚に絡血ある者は、手陽明の病。両跗の上の脈、堅く陥る者は、足陽明の病、此れ胃脈也。
大腸の病は、腸中切痛して濯濯として鳴り。冬日に重ねて寒に感じ、即ち泄し、臍に当たりて痛む。久立すること能わず、胃と候を同じくす。巨虚上廉を取る。
胃の病は、腹䐜脹し、胃脘 心に当たりて痛む、上は両脇支(つか)え、膈咽通ぜず、食飲下せず、之を三里に取る也。
小腸の病は、小腹痛み、腰脊(から)睾に控きて痛み、時に窘の後に耳前に当たりて熱す、若しくは寒甚しく、若しくは独り肩上の熱甚しく、及び手の小指次指の間に熱し、若しくは脈の陥る者、此れ其の候也。手太陽の病むや、之を巨虚下廉に取る。
三焦の病は、腹氣満し、小腹尤も堅く、小便を得ず、窘急し、溢するときは則ち水留まり、即ち脹を為す。候は足太陽の外の大絡に在り、大絡は太陽少陽の間に在り。亦、脈に於いて見わるるは委陽に取る。
膀胱の病は、小腹偏腫して痛む、手を以て之を按すれば、即ち小便せんと欲するも得ず。肩上熱し、若しくは脈陥る、及び足小指の外廉及び脛踝の後ろ皆熱す、若しくは脈陥する。委中央に取る。
胆の病は、善く大息し、口苦し、宿汁を嘔し、心下澹澹として人将に之を捕えんとするを恐るる。嗌中吤吤然として、数々唾する。足少陽の本末に在り。亦、其の脈の陥下なる者を視れば之に灸する。其の寒熱する者は陽陵泉を取る。

黄帝曰く、之を刺するに道有るか?
岐伯答えて曰く、此れを刺する者は、必ず氣穴に中てる、肉節に中ること無かれ。
氣穴に中るときは則ち鍼は巷に染まる(一説に染は遊に作る)。肉節に中れば、即ち皮膚痛む。
補寫反するときは則ち病益々篤し。筋に中るときは則ち筋緩み、邪氣は出でずして、其の真と相い搏ちて、乱れて去らず。反すれば還りて内に著く。
鍼を用いること審らかならざれば、順を以て逆と為す也。

四診がみているもの

鍼道五経会では「診法の理解」に力を入れて指導しています。
各診法が何を診ている技法なのか?それを理解しなければ、鍼に結びつかないのです。

たとえば、四診。
四診とは、望診・聞診・問診・切診のことですが、これ等の診法はそれぞれ異なる層を診るものです。

四診合参という言葉からも、各診法は異なる層を診ていることが分かります。
同じものをみるだけのものなら合参する必要がないからです。

望診と脈診と尺膚診と…

「色、脈と尺これ相い應ずること、桴鼓 影響の相い應ずるが如し也。相い失うこと得ざる也。」
色とは望診、脈とは脈診、尺とは尺膚診です。
この文では、三つの診法は相応関係にあり、太鼓と桴(ばち)のように打てば響く関係にあると譬えています。
つまりは脈に異常が現れたら、望診にも、尺膚診にもその兆候が表れるということです。

しかし注意したい点は、桴鼓関係といえど、両者は常に同じ情報を示すわけではありません。
脈診と望診で異なる情報を表わすことも当然あるのです。

望診と脈診のズレ

望診の“色”と脈診における“脈状”をそれぞれ五行に変換し、
両者の関係が同じであれば平であります(色青であれば弦脈…など)。

そして両者の関係が、五行における相生または相尅にあるか否かで、易治・難治をみわけるという方法があります。この五行診断法は難経十三難においても採用されています。

この文章からも、望診と脈診はいつも同じ情報を示すというものではないことが分かります。
「色青にして脈鈎」や「色青にして脈毛」も当然あり得るのです。

この診察における“情報のズレ”こそが大事なのです。この差分をどのような分析するか?これこそが診断なのです。

脈診に長けている者は往々にして…

「脈を調えることに長けている者は色を待たず。」とあるように、
脈診を得意とする者は、脈からの情報を恃みとし、他の情報を軽視する傾向にあります。

なぜそのような傾向になるのか?
考えるに、他の診法情報の意味を解していないからでしょう。
「四診はどれも同じ層をみている」と考えていると、「調脈者不待於色」となります。
同じ層をみるものだけに、わざわざ二度も三度も情報を集める必要がないからです。

しかし上工は違います、各診法の意味、情報のズレに価値を見出すわけですね。

栄気によって治療する法

「榮輸は外経を治し、合は内府を治す。」
この言葉から、栄気を主とした鍼法について触れていることが分かります。
その理由は『素問』痹論篇を根拠とします。(『素問』痹論篇第四十三の書き下し文はこちら)

鍼道五経会 足立繁久

邪氣藏府病形第四 その① ≪ 邪氣藏府病形第四 その② ≫ 根結第五

原文『霊枢』邪氣藏府病形第四 法時

■原文『霊枢』邪氣藏府病形第四

黄帝問於岐伯曰、余聞之、見其色、知其病、命曰明。
按其脈、知其病、命曰神。
問其病、知其處、命曰工。
余願聞、見而知之、按而得之、問而極之、為之奈何。
岐伯答曰、夫色脈與尺之相應也。如桴鼓影響之相應也。不得相失也。
此亦本末根葉之出候也、故根死則葉枯矣。色脈形肉、不得相失也。
故知一則為工、知二則神、知三則神且明矣。

黄帝曰、願卒聞之。
岐伯答曰、色青者、其脈絃也。赤者、其脈鈎也。黄者、其脈代也。白者、其脈毛。黒者、其脈石。
見其色而不得其脈、反得其相勝之脈、則死矣。得其相生之脈、則病已矣。

黄帝問於岐伯曰、五藏之所生、変化之病形奈何?
岐伯答曰、先定其五色五脈之應、其病乃可別也。

黄帝曰、色脈已定、別之奈何?
岐伯曰、調其脈之緩急小大滑濇、而病變定矣。

黄帝曰、調之奈何?
岐伯答曰、脈急者、尺之皮膚亦急。脈緩者、尺之皮膚亦緩。脈小者、尺之皮膚亦減而少氣。脈大者、尺之皮膚亦賁而起。
脈滑者、尺之皮膚亦滑。脈濇者、尺之皮膚亦濇。凡此變者、有微有甚。
故善調尺者、不待於寸。善調脈者、不待於色。能参合而行之者、可以為上工。上工十全九。
行二者為中工、中工十全七。行一者為下工、下工十全六。

黄帝曰、請問脈之緩急小大滑濇之病形奈何?
岐伯曰、臣請言五臓之病變也。
心脈急甚者、為瘈瘲。微急、為心痛引背、食不下。
緩甚為狂笑、微緩為伏梁在心下、上下行、時唾血。
・・・・・(中略)・・・・・

黄帝曰、余聞五藏六府之氣、榮輸所入為合。令何道従入、入安連過、願聞其故。
岐伯答曰、此陽脈之別入於内、属於府者也。
黄帝曰、榮輸與合、各有名乎?
岐伯答曰、榮輸治外経、合治内府。
黄帝曰、治内府奈何?
岐伯曰、取之於合。
黄帝曰、合各有名乎?
岐伯答曰、胃合於三里、大腸合入於巨虚上廉、小腸合入於巨虚下廉、三焦合入于委陽。膀胱合入於委中央、膽合入於陽陵泉。
黄帝曰、取之奈何?
岐伯答曰、取之三里者、低跗取之。巨虚者、挙足取之。委陽者、屈伸而索之。委中者、出而取之。陽陵泉者、正豎膝、予之齊、下至委陽之陽取之。
取諸外経者、揄申而従之。

黄帝曰、願聞六府之病。
岐伯答曰、面熱者、足陽明病。魚絡血者、手陽明病。両跗之上脈堅陥者、足陽明病、此胃脈也。
大腸病者、腸中切痛而鳴濯濯。冬日重感於寒、即泄、當臍而痛。不能久立、與胃同候。取巨虚上廉。
胃病者、腹䐜脹、胃脘當心而痛、上支両脇、膈咽不通、食飲不下、取之三里也。
小腸病者、小腹痛、腰脊控睾而痛、時窘之後、當耳前熱、若寒甚、若獨肩上熱甚、及手小指次指之間熱、若脈陥者、此其候也。手太陽病也、取之巨虚下廉。
三焦病者、腹氣満、小腹尤堅、不得小便、窘急、溢則水留、即為脹。候在足太陽之外大絡、大絡在太陽少陽之間、亦見於脈、取委陽。
膀胱病者、小腹偏腫而痛、以手按之、即欲小便而不得。肩上熱、若脈陥、及足小指外廉及脛踝後皆熱。若脈陥、取委中央。
膽病者、善大息、口苦、嘔宿汁、心下澹澹恐人将捕之。嗌中吤吤然、数唾。在足少陽之本末、亦視其脈之陥下者灸之。其寒熱者取陽陵泉。

黄帝曰、刺之有道乎。
岐伯答曰、刺此者、必中氣穴、無中肉節。中氣穴、則鍼染於巷。中肉節、即皮膚痛。
補寫反則病益篤。中筋則筋緩、邪氣不出、與其眞相搏、亂而不去、反還内著。
用鍼不審、以順為逆也。

鍼道五経会 足立繁久

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