寒熱病第二十一 書き下し文と原文と

霊枢 寒熱病第二十一のみどころ

寒熱篇には四時(春夏秋冬)における人の氣の変動について触れられている。四時・四季とは暦でみると“時間”であり、自然界でみると天と地の氣の運行である。
内経ではこの天地の氣の運行と人の氣の反応、即ち如何に調和できるか?について説かれている。本篇のみならず、本輸篇、終始篇、四時氣篇の四時の氣に対する人の氣の反応についてピックアップし比較してみた。

※『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

霊枢 寒熱病第二十一

霊枢 寒熱病第二十一 (『甲乙経』巻八 五髒傳病發寒熱第一、『太素』巻二十六 寒熱雑説、『類經』巻二十一 鍼刺類 41刺寒熱など)

皮、寒熱する者は、席に附くべからず、毛髪は焦げ、鼻は槁腊し、汗を得ず。三陽の絡を取り、以て手太陰を補う。
肌、寒熱する者は、肌痛み、毛髪焦げ、而して唇は槁腊し、汗を得ず。三陽を下に於いて取り、以て其の血を去る者、足太陰を補い、以て其の汗を出す。
骨、寒熱する者は、病の安んずる所無し、汗は注ぎて休まず、歯は未だ槁せずは、其の少陰を陰股の絡に於いて取る。歯が已に槁するは死する、治さず。
骨厥も亦た然り。

骨痹は、節を挙げれば用いずして痛む、汗注ぎて煩心す、三陰の経を取りて之を補う。
身に傷む所有りて、血出多く、及び風寒に中り、若しくは墮墜する所有りて、四肢懈惰して収せず、名けて体惰と曰う。
其の小腹、臍下の三結交に取る。
三結交は、陽明太陰也。臍下三寸、関元也。

厥痹は、厥氣上りて腹に及ぶ、陰陽の絡を取りて、病の主るを視る也。
陽を寫して陰経を補する也。頸側の動脈は人迎。人迎は足陽明也、嬰筋の前に在り。嬰筋の後は手陽明也、名を扶突と曰う。
次なる脈は、足少陽也、名を天牖と曰う。
次なる脈は、足太陽也、名を天柱と曰う。
腋下の動脈は、臂の大陰也、名を天府と曰う。
陽迎の頭痛は、胸満して息するを得ず、之を人迎に取る。(『太素』には“陽迎”を“陽逆”に作す『甲乙経』巻九 大寒內薄骨髓陽逆發頭痛第一 も同じ)
暴瘖氣鞕は、扶突と舌本を取る、血を出す。
暴聾し氣蒙して、耳目の明ならざるは、天牖を取る。
暴攣、癇眩して、足の身を任ぜざるは、天柱を取る。
暴癉して内逆し、肝肺の相い搏ち、鼻口に血溢するは、天府に取る。
此れ大牖五部と為す。

臂の陽明、頄に入りて歯に徧する者有り、名けて大迎と曰う。
下歯の齲するは、之を臂に取る、悪寒するは之を補い、悪寒せざるは之を寫する。
足太陽、頄に入り歯に徧する者有り、名を角孫と曰う。(※『甲乙経』は「足」を「手」と作す)
上歯の齲するは、之を取りて鼻と頄前に在り。
方に病の時、其の脈は盛んなり、盛んなるときは則ち之を寫す、虚するときは則ち之を補う。

一に曰く、之を取ること鼻外に出る。(※『甲乙経』巻十二 手足陽明脈動發口齒病第六、『太素』ともに「鼻外」を「眉外」とする)
足陽明、鼻を挟みて面に入る者有り、名を懸顱と曰う、口に属して対入して目本に繋ぐ、過する者有るを視れば之を取る、有余を損じて、不足を益す、反する者は益々甚だし。

足太陽、項を通りて脳に入る者有り、正に目本に属す、名を眼系と曰う。
頭目苦痛するは、之を取るに項中両筋の間に在り。
脳に入りて乃ち陰蹻陽蹻に別つ、陰陽相い交わり、陽は陰に入り、陰は陽に出でて、目鋭眥に於いて交わる①
陽氣盛んなるときは則ち瞋目し、陰氣盛んなるときは則ち瞑目す。

熱厥は足太陰少陽を取る、皆之に留む。
寒厥は足陽明少陰を足に於いて取る、皆之を留む。
舌縦くして涎下り、煩悗するは、足少陰を取る。
振寒すること洒洒とし、鼓頷して、汗出ることを得ず、腹脹して煩悗するは、手太陰を取る。
虚に刺す者は、其の去るを刺する也。実を刺す者は、其の来たるを刺す也②
春は絡脈を取り、夏は分腠を取り、秋は氣口を取り、冬は経輸を取る。凡そ此れ四時、各々時を以て齊と為す
絡脈は皮膚を治し、分腠は肌肉を治す、氣口は筋脈を治し、経輸は骨髄を治する③

五藏、身に五部有り。
伏兎が一つ、腓が二つ、腓なる者は腨也、背が三つ、五藏の腧四つ、項が五つ。
此れら五部に癰疽の有る者は死する。
病の手臂に始まる者は、先ず手陽明太陰に取る而して汗出づる。
病の頭首に始まる者は、先ず項の太陽に取る而して汗出づる。
病の足脛に始まる者は、先ず足陽明に取る而して汗出づる。臂の太陰は汗を出す可し、足陽明は汗を出す可し。
故に陰を取りて汗の出ること甚しき者は、之を陽に於いて止めて、陽を取りて汗出ること甚しき者は、之を陰に於いて止むる。
凡そ刺の害、中りて去らざれば、則ち精泄す。中らずして去るは、則ち氣を致す。
精泄すれば則ち病甚しく恇する、氣の致すれば則ち生じて癰疽と為す也。

鍼の為さざる所は灸の宜しき所

奇経と目と脳の関係

下線部①には足の太陽膀胱経を説きつつも、その流れで「奇経・陰陽の蹻脈が脳と関与している」ことが示唆されている。ちなみに陽蹻脈・陰蹻脈ともに脳と直接的な関係を示す記述は『奇経八脈攷』はじめ『奇経八脈詳解』『十四経発揮和語抄』などにはみられない。
脳と関与するのは督脈である。しかし陽蹻脈は足太陽膀胱経の別脈であるゆえ足太陽と同様に脳に関与するのは不思議ではない。

問題はどのルートで脳に入るのか?である。

『霊枢』経脈篇第十では「膀胱足太陽之脈、起於目内眦、上額交巓、其支者、従巓入絡脳…」と記されており、巓(頭頂部・百会穴)より入り脳に絡すと明示されている。
寒熱病篇では「足太陽、有通項入於脳者、正属目本、名曰眼系。頭目苦痛、取之在項中両筋間、入脳乃別陰蹻陽蹻、…」とあり、経脈篇とは違った足太陽経と脳との連絡を記している。
すなわち「足太陽経は項を通って脳に入る。目本に属してこれを眼系という。…(略)…脳に入りて陰蹻脈陽蹻脈に別れる…」とのこと。

経脈篇と寒熱病篇の情報を併せてみると、巓と項の二か所で足太陽膀胱経は脳に連絡している。また陰蹻脈・陽蹻脈の流注は跟中から睛明そして風池に到達する(『陰蹻脈』睛明のその先は?を参照のこと)。太陽経-脳の連絡口である“項”と、陰陽蹻脈の終点である“風池”とはかなり近い。厳密にみれば風池の本経は少陽胆経であり、太陽膀胱経との直接的な繋がりはない。そのため経穴名ではなく、広く“項”といった表現を採ったのであろうか。

ちなみに馬蒔(馬玄台)はこの部位を玉枕として言及している(※1)。しかし、蹻脈流注との関係を考えると、やはり風池(二蹻脈)天柱(膀胱経)のエリアが妥当ではないだろうか。

これについては『霊枢』海論第三十三の記述「脳為髄之海、其輸上在於其蓋、下在風府。」が大いにヒントとなる。海論でいう「蓋」と「風府」は、「巓・百会」と「項」とみることができる。
このように経脈篇・寒熱病篇・海論篇を併せてみると、脳と経脈との連絡口に「蓋→巓(百会)」と「項→風府・天柱(風池も?)」とみることができそうである。

風池に於いて蹻脈が終わることは指摘されているが、脳との連絡口となることに関しては明記されていない。
しかし、寒熱病篇の記載をみる限り、脳において陰陽二蹻脈に分岐して目本・眼系を経由して目の内眥・鋭眥に出ていることは明確である。

記載内容から総合的に判断するに「睛明から風池に行く蹻脈ルート」「巓・項から脳に入る足膀胱経ルート」「脳から陰陽蹻脈に分岐して目に出るルート」があり、脳・太陽膀胱経・陰陽蹻脈との密接な関係が浮かび上がってくる。
これにより跟中から睛明そして風池への蹻脈循環に脳・目を加え入れる必要を感じる次第である。

関連記事として『二蹻為病-陰陽蹻脈が構築する小循環-』「陰蹻脈-睛明のその先は?-」を挙げておく。

(※1「……足太陽膀胱経、有通項入於脳者、名曰玉枕。開督脈一寸半、脳戸枕骨上、入髪際二寸、此正屬於目之根。…」とある。)

四時と氣と鍼の関係

下線部③は四時における氣の変動について記されている。
四時と氣の関係については、すでに本輸篇終始篇四時氣篇に記されている。寒熱病篇ではどのような氣の変動であろうか。以下に各篇を挙げて比較してみよう。

◆本輸篇第二の記述

本輸篇
春取絡脈、諸榮大経分肉之間、…。
夏取諸腧、孫絡肌肉皮膚之上。
秋取諸合、餘如春法。
冬取諸井諸腧之分、欲深而留之。
此四時之序氣之所處、病之所舎、藏之所宜。

◆終始篇第九の記述

終始篇
治病者、先刺其病所従生者也。
春氣在毛、夏氣在皮膚、秋氣在分肉、冬氣在筋骨。
刺此病者、各以其時為齊。
故刺肥人者、以秋冬之齊、刺痩人者、以春夏之齊。

◆四時氣篇第十九の記述

四時氣篇
春取経血脈、分肉之間、…。(『甲乙経』では血を與に作す)
夏取盛経孫絡、取分間絶皮膚。
秋取経腧。邪在府、取之合。
冬取井榮。必深以留之。

◆寒熱病篇第二十一の記述

寒熱病篇
春取絡脈、絡脈治皮膚
夏取分腠、分腠治肌肉
秋取氣口、氣口治筋脈
冬取経輸、経輸治骨髄
凡此四時、各以時為齊。
(※文の順序は敢えて変えている)

以上のように各篇を比較すると、四時における氣の変動については各々の篇に各々の説があるようにみえる。
その中でも、本輸篇四時氣篇はある程度に似通った観念を持っているようにみえ、同様に終始篇と寒熱病篇は似ているようにもみえる。(もちろん、各篇ともに相違点がある)

中でも寒熱病篇におけるそれは、一見したところ非常にシンプルのようにみえる。
四時における天の氣の動きと氣層における浅深の推移は、五行的に分類できるそうにも感じる。

夏(火)は血脉に対応し、冬(水)は骨髄といった風に。
しかし、春木と秋金は錯綜しており、単純に五行的にみるならば春木には筋が、秋金には皮毛が対応すべきであるが、両者は互換関係にある。

難経七十四難になると【春は木-肝、夏は火-心、季夏は土-脾、秋は金-肺、冬は水-腎】といった具合に、完全に四時は五行的に変換され、治療穴まで指定されることとなる。

この四時における人体の氣の変動や氣層の推移に関する諸説には、それぞれの理があるはずであると個人的には考えている。本論では寒熱の病が主テーマであり、それに沿った氣の変動・推移について説いてあるはずである(と期待している)。とはいえ、今回の記事ではここまでっは掘り下げずに単純に各篇の比較で止まっている。よって各説の間で是非や優劣を論ずることはここでは避けたい。

鍼道五経会 足立繁久

五邪第二十≪ 寒熱病第二十一 ≫ 癲狂第二十二

原文 霊枢寒熱病第二十一

■原文 霊枢 寒熱病第二十一

皮寒熱者、不可附席毛髪焦、鼻槁腊、不得汗。取三陽之絡、以補手太陰。
肌寒熱者、肌痛、毛髪焦、而唇槁腊、不得汗。取三陽於下、以去其血者、補足太陰、以出其汗。
骨寒熱者、病無所安、汗注不休、歯未槁、取其少陰於陰股之絡。歯已槁、死不治。
骨厥亦然。
骨痹、挙節不用而痛、汗注煩心、取三陰之経補之。
身有所傷、血出多、及中風寒、若有所墮墜、四肢懈惰不収、名曰體惰。取其小腹臍下三結交。三結交者、陽明太陰也。臍下三寸、関元也。
厥痹者、厥氣上及腹、取陰陽之絡、視主病也。寫陽補陰経也。頸側之動脈、人迎。人迎、足陽明也、在嬰筋之前。嬰筋之後、手陽明也、名曰扶突。
次脈、足少陽也、名曰天牖。次脈、足太陽也、名曰天柱。
腋下動脈、臂大陰也、名曰天府。
陽迎頭痛、胸満不得息、取之人迎。(『太素』“陽迎”作“陽逆”『甲乙経』同)
暴瘖氣鞕、取扶突與舌本出血。
暴聾氣蒙、耳目不明、取天牖。
暴攣癇眩、足不任身、取天柱。
暴癉内逆、肝肺相搏、血溢鼻口、取天府。此為大牖五部。
臂陽明、有入頄徧歯者、名曰大迎。下歯齲、取之臂、悪寒補之、不悪寒寫之。
足太陽有入頄徧歯者、名曰角孫。(※『甲乙経』「足」作「手」)上歯齲、取之在鼻與頄前、方病之時、其脈盛、盛則寫之、虚則補之。
一曰取之出鼻外。(※『甲乙経』『太素』「鼻外」作「眉外」)
足陽明、有挟鼻入於面者、名曰懸顱、属口對入繋目本、視有過者取之、損有餘、益不足、反者益甚。
足太陽、有通項入於脳者、正属目本、名曰眼系。頭目苦痛、取之在項中両筋間、
入脳乃別陰蹻陽蹻、陰陽相交、陽入陰、陰出陽、交於目鋭眥、陽氣盛則瞋目、陰氣盛則瞑目
熱厥、取足太陰少陽、皆留之。寒厥、取足陽明少陰於足、皆留之。
舌縦涎下、煩悗、取足少陰。
振寒洒洒、鼓頷、不得汗出、腹脹煩悗、取手太陰。
刺虚者、刺其去也。刺實者、刺其来也。
春取絡脈、夏取分腠、秋取氣口、冬取経輸。凡此四時、各以時為齊。絡脈治皮膚、分腠治肌肉、氣口治筋脈、経輸治骨髄

五藏身有五部。
伏兎一、腓二、腓者、腨也、背三、五藏之腧四、項五。
此五部有癰疽者死。
病始手臂者、先取手陽明太陰而汗出。
病始頭首者、先取項太陽而汗出。
病始足脛者、先取足陽明而汗出。臂太陰可汗出、足陽明可汗出。
故取陰而汗出甚者、止之於陽、取陽而汗出甚者、止之於陰。
凡刺之害、中而不去、則精泄。不中而去、則致氣。
精泄則病甚而恇、致氣則生為癰疽也。

 

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