霊枢 経別第十一の書き下し文と原文と

経別は経脈篇の次篇となる。
ちなみに経脈篇は講座『臓腑経絡のキホン』にて2年かけて勉強したため、本サイトではアップはしていない。

初心者にやさしい経絡・上級者に難しい経絡

さて、経別篇は実に興味深い文から始まる。
5と6の数字が人体に相応しているのだという。

5と6は天地の数字である。
天干地支がまさにそうであり、天地の間にいる人は当然その影響を受ける。
人体の五臓六腑はその天地に相応しているという思想の体現であり、五運六気はその法則性をいかに実用せしめるための学問である。

本篇では六律から十二経に展開し、その十二経こそが、人体を維持する上で必須の存在であり、病を生ずる所以でもあり、病を治すにも必要な存在でもあるとしている。そしてその十二経が六合を形成しているという論もまた天人相応の思想ともいえるだろう。

ところで『霊枢(針経)らしい文だなぁ…』と唸らされるのは以下の文である。
「粗工にとって経絡とは、易(やす)きものであり、上工にとっては経絡とは深奥なるものである(粗之所易、上之所難也。)」

現代の鍼灸業界においても、経絡経穴を覚えることから始まる。覚えることは簡単だ。覚えた経穴・経絡に鍼するだけならそれもまた容易いことである。しかし、経絡の奥深さ精妙さを知り始めるころから、そう簡単なものではない…と思い始めるのである。(学之所始、工之所止也。)

では「経別篇」の本文をみてみよう。

『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

『霊枢』経別第十一

書き下し文・霊枢経別第十一(『甲乙経』、『太素』、『類経』)

黄帝、岐伯に問うて曰く、余聞く、人の天道に於いて合する也、内に五藏有り、以って五音、五色、五時、五味、五位に應ずる也。
外に六府有り、以って六律に應ずる。
六律は陰陽諸経を建て、而してこれを十二月、十二辰、十二節、十二経水、十二時、十二経脈に合するは、此れ五藏六府の天道に應ずる所以也。

夫れ十二経脈は、人の生くる所以、病の成る所以、人の治むる所以、病の起こる所以、学の始める所、工の止む所也。
粗の易き所、上の難き所也。
請う其の離合出入を問う、奈何?

岐伯、稽首再拜して曰く、明なる哉!問い也。
此れ粗の過ぎる所、上の息する所也。

請う卒かにこれを言わん。

足太陽の正、別れて膕中に入る、其の一道、尻に下ること五寸、別れて肛に入り、膀胱に属し、腎に散じ、膂に循り、心に當り入りて散ず。
直なる者は、膂に従い上りて項に出て、復た太陽に属する、これで一経と為す也。
足少陰の正、膕中に至り、別れて太陽に走りて合し、上りて腎に至る、十四顀に當り、出でて帯脈に属する。①
直なる者は、舌本に繋がり、復た項に出て、太陽に合す、此れを一合と為し、以って諸陰の別と成し、皆な正と為す也。

足少陽の正、髀を繞いて、毛際に入り、厥陰に合す。②
別なる者は、季脇の間に入りて、胸裏に循り、膽に属しこれに散ず。肝に上り、心を貫き、以って上りて咽を挟み、頤頷の中に出て、面に散じ、目係に繋がり、外眥に於いて少陽に合する也。
足厥陰の正、跗上に別れ、上りて毛際に至り、少陽に於いて合し、別と倶に行く、此れを二合と為す也。

足陽明の正、上りて髀に至り、腹裏に入りて、胃に属し、散じて脾に之き、上り心に通ず、上りて咽を循り、口に出て、頞䪼に上り、環りて目系に繋がり、陽明に合する也。③
足太陰の正、上りて髀に至り、陽明に合し、別と倶に行き、上りて咽に結し、舌中を貫く、此れを三合と為す也。

手太陽の正は、地を指し、肩解に別れ、腋に入り、心に走りて小腸に繋る也。
手少陰の正は、別れて淵腋両筋の間に入り、心に於いて属し、上りて喉嚨に走り、面に出て、目の内眥に合す、此れを四合と為す也。

手少陽の正は、天を指し、巓に別れ、缺盆に入り、下りて三焦に走り、胸中に於いて散ずる也。
手心主の正は、別れて淵腋に下ること三寸、胸中に入り、別れて三焦に属す、出て喉嚨を循り、耳後に出て、少陽完骨の下に合す、此れ五合と為す也。

手陽明の正は、手従(よ)り膺乳を循り、肩髃に於いて別れて、柱骨に入る、下りて大腸に走り、肺に属す、上りて喉嚨を循り、缺盆に出て、陽明に合す也。
手太陰の正は、別れて淵腋少陰の前に入り、入りて肺に走り、散じて大腸に之き、上りて缺盆に出る、喉嚨を循りて、復た陽明に合する、此れ六合也。

経別篇のみどころ

①足少陰は十四椎にあたり出て帯脈に属する

腎経・腎と奇経の関与を示す文である。十四椎とは言うまでもなく命門に当たる部位である。

腎経・腎は帯脈の他にも奇経と関わりがあることは知られているが、この十四椎周辺でどの奇経と関与しているかを改めて調べておく必要があるだろう。腎・海そして奇経や衛氣との関与について考察すべき内容である。

足少陰経別の「“膕中”から別れて足太陽に走り合す」や「舌本に繋がり、復た“項”に出る」といった要所も臨床治療に工夫応用できる情報である。

また「直なる者は、膂に従い上りて項に出て、復た太陽に属する、これで一経と為す也。」「腎に散じ、膂に循り、心に当たり入りて散ずる」といった記述は、中膂兪や白環兪そして膀胱経のイメージを修正すべき表現ではないかと考える。

②足少陽は髀に繞い、毛際に入り、厥陰に合す

「経脈篇」第十では、足少陽胆経は「…氣街に出て、毛際に繞い、横に髀厭の中に入る。…」とある。
この髀厭に於いて2つの足少陽は互いに合流するのであるが、
経別篇では、この髀から毛際、そしてそのエリアにて足少陽と足厥陰と合流するという。
「足厥陰は陰器を過ぎる」ため、この二合の部位も漠然とながらイメージしやすく、また治療に応用できるだろう。

さらに「別なる者は、季脇の間に入りて、胸裏に循り…」とあり、季脇、胸裏と少陽病症との関連も連想できる流注が記されている。

③頞䪼に上り、環りて目系に繋がり、陽明に合す

「頞」「䪼」「目系」に胃経別は連絡している。頞とは睛明の間に相当する。
これらの部位は陽明胃経が異常を起こした時に病症を表わしやすいところでもある。
この経脈経別を理解すれば、例えば「花粉症が肺の異常である」といった短絡的な見解も減るのではないだろうか。また熱病(高熱)の際の、目赤、眼痛、嗅覚障害などの理解もしやすくなる。

以上、本記事では部分的にしかピックアップしていないが、本篇の経別流注は臨床に応用できる内容が豊富である。

本篇の記述を読むと、注目すべき要所として「目」「舌」「咽喉」「喉嚨」「缺盆」などが挙げられるのではないだろうか。

目に関して掘り下げると、陽明胃経は頞より始まり、手少陰心経は内眥に合する。さらに内眥は二蹻脈の合流点でもある。(陽蹻脈の流注から生命観へ)そして『霊枢』根結では命門は目であるとしていることはよく知られている。(命門は目にある説

以上を通覧すると足三陽は独特独自の循環系を持っている印象を受ける。

経脈篇第十 ≪ 経別篇第十一 ≫ 経水篇第十二

『霊枢』経別第十一

■原文 霊枢 経別第十一

黄帝、問於岐伯曰、余聞人之合於天道也。内有五藏、以應五音、五色、五時、五味、五位也。
外有六府、以應六律。六律建陰陽諸経、而合之十二月、十二辰、十二節、十二経水、十二時、十二経脈者、此五藏六府之所以應天道。

夫十二経脈者、人之所以生、病之所以成、人之所以治、病之所以起、学之所始、工之所止也。粗之所易、上之所難也。請問其離合出入、奈何?

岐伯稽首再拜曰、明乎哉!問也。
此粗之所過、上之所息也。請卒言之。
足太陽之正、別入於膕中、其一道、下尻五寸、別入於肛、属於膀胱、散之腎、循膂、當心入散。直者、従膂上出於項、復属於太陽、此為一経也。
足少陰之正、至膕中、別走太陽而合、上至腎、當十四顀、出属帯脈、直者、繋舌本、復出於項、合於太陽、此為一合。成以諸陰之別、皆為正也。

足少陽之正、繞髀、入毛際、合於厥陰。別者、入季脇之間、循胸裏、属膽散之。上肝、貫心、以上挟咽、出頤頷中、散於面、繋目係、合少陽於外眥也。
足厥陰之正、別跗上、上至毛際、合於少陽、與別倶行、此為二合也。

足陽明之正、上至髀、入於腹裏、属胃、散之脾、上通於心、上循咽、出於口、上頞䪼、環繋目系、合於陽明也。
足太陰之正、上至髀、合於陽明、與別倶行、上結於咽、貫舌中、此為三合也。

手太陽之正、指地、別於肩解、入腋、走心繋小腸也。
手少陰之正、別入於淵腋両筋之間、属於心、上走喉嚨、出於面、合目内眥、此為四合也。

手少陽之正、指天、別於巓、入缺盆、下走三焦、散於胸中也。
手心主之正、別下淵腋三寸、入胸中、別属三焦、出循喉嚨、出耳後、合少陽完骨之下、此為五合也。

手陽明之正、従手循膺乳、別於肩髃、入柱骨、下走大腸、属於肺、上循喉嚨、出缺盆、合於陽明也。
手太陰之正、別入淵腋少陰之前、入走肺、散之大腸、上出缺盆、循喉嚨、復合陽明、此六合也。

鍼道五経会 足立繁久

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