霊枢 四時気第十九の書き下し文と原文と

四時の気を知ること

本篇では四時の氣をテーマとしている。四時によって天の氣・地の氣が変化をみせるのは勿論のこと、それに呼応する形で人の氣もまた変化をみせる。すなわち、四時の氣を知るとは、四時(春夏秋冬)における氣の性質と、外界から影響を受けた人体の反応を理解することである。四時により大きく影響を受ける“氣”といえば、どの氣を示すのか?ここまで読んできた人は自ずと分かることであろう。

また本篇では「灸刺」とあるように鍼も灸も対象としている。しかし難経七十四難では「刺」「針の要妙」とあるように鍼のみを対象としている。この点も両篇難を理解するヒントになるのではなろうか。

さて、四時の脈状について言及されているもので良く知られているのは本篇の他に『素問』平人気象論『難経』十五難がある。
これらの論・難では、各季節と脈状との関係を述べている。

しかし四時の氣に関する論・篇・難は他にもある。難経七十難難経七十四難では、春夏と秋冬における刺法についても言及されている。
以上の記載から季節と人体の関係が漠然とではあるが伺い知ることができよう。

この四時氣篇そして本輸篇とを比較・考察することで、四時の氣と人体の相応関係をより詳細にイメージすることができる。
まずは本篇 四時気篇をみてみよう。

『霊枢講義』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

霊枢 四時氣第十九

書き下し文 霊枢 四時気第十九 (『甲乙経』巻五 鍼灸禁忌第一 , 巻七 陰陽相移発三瘧第五 等々 、『太素』巻二十三 九鍼之三 雑刺、『類經』巻二十 鍼刺類 18四時之刺 , 巻二十二鍼刺類 47刺胸背腹など)

黄帝、岐伯に問うて曰く、夫れ四時の氣、各々形同じからず、百病の起こり、皆な生じる所有り。
灸刺の道、何れの者を定と為さん?

岐伯答えて曰く、四時の氣、各々所在有り。
灸刺の道、氣穴を得るを定と為す。
故に、春は経の血脈、分肉の間に取る。甚しき者は深くこれを刺す。間なれば浅くこれを刺す。
夏は盛経孫絡を取り、分間絶皮膚を取る。
秋は経腧を取る。邪が府に在れば、これを合に取る。
冬は井榮を取る。必ず深く以ってこれを留む。温瘧、汗出でざるは、五十九痏を為す。
風㽷膚脹は、五十七痏を為す。
皮膚の血を取る者は、盡くこれを取る。
飧泄は三陰の上を補い、陰陵泉を補う。皆な久しくこれを留め、熱行りて乃ち止む。
陽に於いて轉筋するは、その陽を治し、陰を轉筋するには、その陰を治す。
皆な卒かにこれを刺す。
徒㽷には、先ず環谷の下三寸を取り、鈹鍼を以ってこれを鍼す。
已に刺してこれを筩(トウ)してこれを内(い)れる、入れてこれを復し、以ってその㽷を盡せば、必ず堅し。
来ること緩なれば則ち煩悗し、来たること急なれば則ち安静なり。
間日に一たびこれを刺し、㽷盡きて乃ち止む。
閉薬を飲みて、方にこれを刺す時、徒にこれを飲む。
飲むに方(あた)って食すること無かれ、食するに方って飲むこと無かれ。
他食を食うこと無きこと、百三十五日。
著痺去らず、久寒已ざれば、卒かにその三里を取る。
骨は幹と為す。腸中不便は、三里を取る。
盛んなればこれを寫し、虚すればこれを補う。
癘風には、素よりその腫上に刺す。
已に刺するに、鋭鍼を以ってその處を鍼し、その悪氣を按じ出し、腫盡きて乃ち止む。
常食は方に食して、他食を食すること無かれ。
腹中常に鳴り、氣は胸に上衝し、喘して久立すること能わざれば、邪は大腸に在り。
肓の原、巨虚上廉、三里を刺す。
小腹、睾を控き、腰脊に引き、心に上衝するは、邪は小腸に在る者なり。
睾系に連なり、脊に属し、肝肺を貫き、心系に絡う。
氣盛んなれば則ち厥逆し、腸胃に上衝し、肝を燻べ、肓に散じて、臍に結ぼれる。故にこれを肓原に取り以ってこれを散ず。
太陰を刺し以ってこれを予う。
厥陰を取り以ってこれを下す。
巨虚下廉を取り以ってこれを去る。その過ぎる所の経を按じ以ってこれを調う。
善く嘔し、嘔して苦有り、長く大息して、心中憺憺として、人に将に補えられんことを恐れるは、邪は膽に在り。
逆は胃に在りて、膽液泄れれば則ち口苦し、胃氣逆すれば則ち嘔苦す。故に嘔膽と曰う。
三里を取り、以って胃氣逆を下す、
則ち少陽血絡を刺して以って膽逆を閉じる、
却ってその虚實を調え、以ってその邪を去る。飲食下らず、膈塞が通ぜざれば、邪は胃脘に在り。
上脘に在れば、則ち刺して抑えてこれを下す。
下脘に在れば、則ち散じてこれを去る。小腹痛腫して、小便を得ざれば、邪は三焦の約に在り。
これを太陽大絡に取りて、その絡脈と厥陰少絡の結して血ある者を視る。
腫、上りて胃脘に及ぶは、三里を取る。
その色を観て、その目を察し、その散復するを知る者は、その目色を視て、以って病の存亡を知る也。
その形を一にし、その動静を聴く者は、氣口人迎を持ち以ってその脈を視る。
堅くして且つ盛ん且つ滑なる者は、病は日に進む。脈、軟なる者は、病は将に下らんとす。
諸経の實する者は、病三日に已る。
氣口は陰を候い、人迎は陽を候う也。

四時氣の見どころ

冒頭で述べたように四時氣篇からは、四時・季節と人体の氣の相応について学び考察することができる。この時点で“どの氣”を主テーマとして本篇を読むべきか?が分かる。
本篇にて考察したい点は、四時すなわち各季節における人体の氣の層・氣の位である。まずは『霊枢』本輸篇第二にある記述内容と、本篇との類似点をピックアップして比較してみよう。

四時氣篇の記述

四時氣篇
春取経血脈、分肉之間、…。(『甲乙経』では血を與に作す)
夏取盛経孫絡、取分間絶皮膚。
秋取経腧。邪在府、取之合。
冬取井榮。必深以留之。

本輸篇第二の記述

本輸篇
春取絡脈、諸榮大経分肉之間、…。
夏取諸腧、孫絡肌肉皮膚之上。
秋取諸合、餘如春法。
冬取諸井諸腧之分、欲深而留之。
此四時之序氣之所處、病之所舎、藏之所宜。

本輸と四時氣の記述を総合すると以下のようになる。

まずは万物始生の季節、春から見てみよう。
春は陰が衰え、陽が萌芽する時であり、この動きは人体においても同様である。
人の気が分肉の間にまで達しているのは両篇の記述から分かる。
鍼刺の対象は「経血脈」(四時氣篇)「絡脈、諸榮、大経分肉の間」(本輸篇)と異なる説を主張しているが、鍼刺部位、すなわち横の座標に関する詳細は割愛する。

そして夏は陽氣が盛んに長じる時である。
人の気は、経は満ち溢れ孫絡さらには皮膚の上にまで達している。
鍼刺の対象は「盛経孫絡」(四時氣篇)「諸腧」(本輸篇)(夏は諸腧を取る。孫絡肌肉皮膚の上)

次に秋は陽が衰え始める時である。
人の気も陽の勢いを失い、収斂し始めている。これは陰の動きである。
四時氣篇では「邪は府(腑)に在り」としている。
邪が腑に在るということは、正気が腑に連なる層付近にまで収束してきているということでもある。
その層をターゲットとして、経腧または陽経の合への鍼刺を奨励している。
本輸篇における、諸合(合穴)への鍼刺も同様の意図であろう。
陽気が旺盛となる夏との決定的な違いは、氣の層である。
又、秋と春とで同じ刺法を提唱している(餘如春法)のは、春秋における人氣の層が同じであることを示している。

また冬における刺法も興味深い。
「冬取井榮、必深以留之。」(四時氣篇)
「冬取諸井諸腧之分、欲深而留之。」(本輸篇)
井、榮、または井、諸輸の分と横の座標に差異はあるものの、深さは両篇ともに共通している。
井穴に浅いも深いもないだろう…と思うむきもあるだろうが、浅深が示すのは刺鍼深度というよりも、扱う氣の種類を示唆しているのではないかと考える。
要は、冬季における人氣の層を見極めることが肝要なのである。

外寒が最も厳しくなる冬季に井穴、榮穴にまで達する氣とは、やはりあの氣であろう。このような記述から、条件によって氣の動きや層が変化することを学ぶことは大事である。その知識が臨床で活きてくるのは言うまでもない。

さて先ほど「横の座標」という表現を採ったが、横の座標とは経穴のこと(本篇に登場する諸腧、井、榮、兪、合)である。
これに対し縦の座標とは何であろうか?
これは“氣の層”であると考えている。本篇にある「分肉之間」「孫絡」「皮膚」「皮膚の上」…などがこれにあたる。

縦と横の座標ともにみるべし

楊上善は四時氣篇の記述に対して、以下の註を載せている。
「灸刺所貴、以得於四時之氣也。
春時人氣在脈、謂在経胳之脈、分肉之間、故春取経血脈分肉之間也
夏時人氣経満氣溢、孫胳受血、皮膚充實、故夏取盛経孫胳、又取分腠以絶皮膚
秋時天氣始収、腠理閉塞、皮膚引急、故秋取藏経相之輸、以寫陰邪。取府経之合、以寫陽邪也
冬時蓋藏血氣在中、内著骨髄、通於五藏、故取井以下陰氣、逆取榮以實陽氣也。」

各季節の註文の前半部は主に気層(縦の座標)に関する説明。薄字(グレー)部分が刺法、すなわち横の座標に関する関する説明である。

鍼灸師は『どこのツボに鍼をすべきか!?』という視点に囚われがちで、縦の座標に目を向けられることが少ない。
敢えて薄字にして縦の座標に目を向けてみると、また違った人体観が見えてくるのではないだろうか。

「どの経穴、どの場所に鍼すべきか」
この視点が大切なのは言うまでもない。しかしこれは個の視点であり、小さい世界観だと言わざるを得ない。

「四時によって人体の主たる氣層が変化する」
これは個と全との関与に目を向ける視点であり、前者に比べてより大きな世界観であるといえよう。

ちなみに多くの人が知るように、四時により変化するのは脈位と脈状である。
「春弦、夏鈎、秋毛、冬石」といった変化である。

この人体における外界への対応(相応)の根源は「胃氣」である、と『素問』『難経』では言及している。
※この胃氣を根源とした外界への対応は「死脈について考える」その4その5その6に詳しく考察を挙げている。

また四時と病邪の位との関係については『霊枢』終始篇第九
各鍼法・刺法と病位との関係については『霊枢』官鍼篇第七 を参考にされたし。

鍼道五経会 足立繁久

営衛生会第十八 ≪ 四時氣篇第十九 ≫ 五邪篇第二十

■原文 霊枢 四時氣第十九

原文 霊枢 四時氣第十九

黄帝問於岐伯曰、夫四時之氣、各有不同形、百病之起、皆有所生、灸刺之道、何者為定?
岐伯答曰、四時之氣、各有所在。灸刺之道、得氣穴為定。
故春取経血脈分肉之間、甚者深刺之、間者浅刺之。
夏取盛経孫絡、取分間絶皮膚。
秋取経腧。邪在府、取之合。
冬取井榮。必深以留之。温瘧汗不出、為五十九痏。
風㽷膚脹、為五十七痏。
取皮膚之血者、盡取之。
飧泄補三陰之上、補陰陵泉。皆久留之、熱行乃止。
轉筋于陽、治其陽。轉筋于陰、治其陰。皆卒刺之。
徒㽷、先取環谷下三寸、以鈹鍼鍼之。
已刺而筩之而内之、入而復之、以盡其㽷、必堅。
来緩則煩悗、来急則安静。
間日一刺之、㽷盡乃止。
飲閉薬、方刺之時、徒飲之。
方飲無食、方食無飲。
無食他食百三十五日。著痺不去、久寒不已、卒取其三里。
骨為幹。腸中不便、取三里、盛寫之、虚補之。
癘風者、素刺其腫上。已刺、以鋭鍼鍼其處、按出其悪氣、腫盡乃止。
常食方食、無食他食。
腹中常鳴、氣上衝胸、喘不能久立、邪在大腸。刺肓之原、巨虚上廉、三里。
小腹控睾、引腰脊、上衝心、邪在小腸者、
連睾系、属於脊、貫肝肺、絡心系、氣盛則厥逆、上衝腸胃、燻肝、散於肓、結於臍。
故取之肓原以散之。刺太陰以予之。取厥陰以下之。取巨虚下廉以去之。按其所過之経以調之。
善嘔、嘔有苦、長大息、心中憺憺、恐人将補之、邪在膽。
逆在胃、膽液泄則口苦、胃氣逆則嘔苦、故曰嘔膽。
取三里、以下胃氣逆、則刺少陽血絡以閉膽逆、却調其虚實、以去其邪。
飲食不下、膈塞不通、邪在胃脘。
在上脘、則刺抑而下之。
在下脘、則散而去之。小腹痛腫、不得小便、邪在三焦約。
取之太陽大絡、視其絡脈與厥陰少絡結而血者、腫上及胃脘、取三里。観其色、察其目、知其散復者、視其目色、以知病之存亡也。
一其形、聴其動静者、持氣口、人迎以視其脈。
堅且盛且滑者、病日進。脈軟者、病将下。
諸経實者、病三日已。
氣口候陰、人迎候陽也。

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