弁脈法について
張仲景の『傷寒雜病論』の弁脈法を学びます。本記事では画像(および引用文)にあるように、趙開美が校刻を行った版本をテキストとしています。
本文にある通り著者、張仲景の他にも、晋代の王叔和が撰次、宋代の林億が校正を行い、明代には趙開美が校刻・沈琳全校を行っています。
ひとくちに『傷寒論』と言っても、各時代の医家たちが編纂を加えて現代に残してくれています。しかし後代に加えられたという「弁脈法」 「平脈法」「傷寒例」「痙湿暍病」は、文献的に重視されることが少ないように思います。
しかし時代の違い・オリジナルとの差異の問題はあれども、脈診に関する情報の価値として捨て置けないものがあります。そこで本記事では「弁脈法第一」について学ぶこととします。
※『傷寒論』京都大学付属図書館より引用させていただきました。
※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。
※書き下し文の番号は東洋学術出版社発行の『傷寒雑病論』の番号に準じます。
書き下し文 弁脈法
■書き下し文 弁脈法
傷寒論巻第一
漢 張仲景述
晋 王叔和撰次
宋 林 億校正
明 趙開美校刻
沈 琳仝校
弁脈法 第一
一)問うて曰く、脈に陰陽あり何の謂い也?
答えて曰く、凡そ脈の大・浮・数・動・滑は此れを陽と名づく也。脈の沈・濇・弱・弦・微、此れを陰と名づくる也。
凡そ陰病に陽脈の見れる者は生き、陽病に陰脈の見れる者は死する。
二)問うて曰く、脈に陽結・陰結なる者有り、何を以て之を別たん?
答えて曰く、その脈浮而して数、能く食して大便せざる者、此れを実と為す。名づけて陽結と曰う也。十七日を期として當に劇しかるべし。
その脈沈而して遅、食すること能わず、身体重く、大便は反て鞕(音硬、下同じ)名づけて陰結と曰う也。十四日を期として當に劇しかるべし。
三)問うて曰く、病、洒淅悪寒、而して復た発熱する者あり、何ぞや?
答えて曰、陰脈不足すれば、陽往きて之に従う。陽脈不足すれば、陰往きて之に乗ずる。
曰く、何を陽不足と謂う?
答えて曰く、假令(たとえば)寸口の脈微なるを、名づけて陽不足と曰う。陰氣上りて陽中に入れば、則ち洒淅悪寒する也。
曰く、何を陰不足と謂う?
答えて曰く、尺脈弱なるを、名づけて陰不足と曰う。陽氣下陥して陰中に入れば、則ち発熱する也。
四)陽脈浮(一に微に作る)、陰脈弱なる者、則ち血虚なり、血虚するときは則ち筋急する也。その脈沈なる者、栄氣微也。その脈浮而して汗出づること流珠の如くなる者は、衛氣の衰也。栄氣の微なる者は、焼鍼を加うれば、則ち血留まりて行らず。更に発熱而して躁煩する也。
五)脈藹藹として車蓋の如くなる者、名を陽結と曰う也。(一に秋脈と云う。)
脈累累として長竿を循るが如き者、名を陰結と曰う也。(一に夏脈と云う。)
脈瞥瞥として羹上の肥の如き者、陽氣の微也。
脈栄栄として蜘蛛の絲の如き者、陽氣の衰え也。(一に陰氣と云う。)
脈綿綿として瀉漆の絶するが如き者、その血を亡う也。
六)脈の来たること緩にして時に一止し復た来たる者、名づけて結と曰う。脈の来たること数にして時に一止し復た来たる者、名づけて促と曰う(一つに縦と作る)。脈、陽盛なるときは則ち促、陰盛なるときは則ち結。此れ皆な病脈。
七)陰陽相い搏つ、名づけて動と曰う。陽動ずるときは則ち汗出で、陰動ずるときは則ち発熱する。形冷え悪寒する者は、此れ三焦の傷れる也。若し数脈、関上に於いて見れ、上下に頭尾無く、豆の大きさの如く、厥厥として動揺する者は、名づけて動と曰う也。
八)陽脈浮大而して濡、陰脈浮大而して濡、陰脈と陽脈の同等なる者、名づけて緩と曰う也。
九)脈浮而して緊なる者、名づけて弦と曰う也。弦なる者は状弓弦の如し、之を按じて移らず也。脈緊なる者は、転索無常の如し也。
十)脈弦而して大、弦は則ち減と為し、大は則ち芤と為す。減は則ち寒と為し、芤は則ち虚と為す。寒虚相い搏つ、此れ名づけて革と為す。婦人なれば則ち半産漏下し、男子なれば則ち亡血失精す。
十一)問て曰く、病に戦而して汗出で、因りて解を得る者有るは何ぞ也?
答て曰く、脈浮而して緊、これを按じて反て芤、此れ本虚と為す。故に当に戦而して汗出づる也。その人、本は虚す。是以て戦を発す。脈浮なるを以て、故に当に汗出で而して解する也。若し脈浮而して数、これを按じて芤ならざるは、此の人の本は虚さず。若し自ら解せんと欲せば、但だ汗が出でるのみ。戦を発せざる也。
十二)問て曰く、病に戦せず而して汗出でて解する者有り、何ぞ也?
答て曰く、脈大而して浮数、故に戦せず汗出で而して解することを知る也。
十三)問て曰く、病に戦せず汗出でず而して解する者有り、何ぞ也?
答て曰く、その脈自ら微なるは、此れ曾て汗を発し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは亡血するを以てなり。内に津液無きを以て、此れ陰陽自和すれば、必ず自ら愈ゆる。故に戦せず汗出でず而して解する也。
十四)問て曰く、傷寒三日、脈浮数而して微、病人、身の涼和なる者、何ぞ也?
答て曰く、此れ解せんと欲するを為す也。解するに夜半を以てす。脈浮而して解する者は、濈然と汗出でる也。脈数而して解する者は、必ず能く食する也。脈微而して解する者は、必ず大いに汗出でる也。
十五)問て曰く、病(病者)を脈(脈診)して愈ゆると未だ愈えざる者とを知らんと欲する者、何を以てこれを別たん?
答て曰く、寸口関上尺中の三処、大小・浮沈・遅数、同等なるは、寒熱有りて解せざる者と雖も、此れ脈の陰陽は和平と為す。(病)劇しと雖も当に愈ゆるべし。
十六)師曰く、立夏に洪(一に浮に作る)大脈を得るは、是れその本位なり。その人病みて身体の疼重を苦しむ者は、須らく其の汗を発すべし。若し明日、身疼まず重からざる者は、須らく汗を発すべからず。若し汗、濈濈として自ら出づる者は、明日便(すなわ)ち解する。何を以てこれを言う、立夏に脈洪大なるは、是れその時の脈。故に然らしむる也。四時此れに倣え。
十七)問て曰く、凡そ病、何れの時に得て、何れの時に愈ゆるかを知らんと欲す。
答て曰く、仮令、夜半に病を得る者、明日日中に愈ゆる。日中に病を得る者、夜半に愈ゆる。
何を以て之を言う?
日中に病を得、夜半に愈ゆる者は、陽の陰を得るを以て則ち解する也。夜半に病を得、明日日中に愈ゆる者は、陰の陽を得るを以て則ち解する也。
十八)寸口脈、浮は表に在るを為し、沈は裏に在るを為す。数は腑に在るを為し、遅は臓に在るを為す。仮令ば脈遅、此れ臓に在るを為す也。
十九)趺陽脈は浮而して濇、少陰脈は経(つね)の如くなる者、その病は脾に在り。法当に下利すべし。
何以知之?
若し脈浮大の者、氣実血虚なり。今、趺陽脈浮而して濇、故に脾氣不足、胃氣虚するを知る也。少陰脈弦而して浮(一つに沈に作る)の纔(わずか)に見われるを以て、此れ調脈と為す。故に経の如しと称す也。若し反て滑而して数なる者、故に当に屎膿すべしを知る也。(玉函に溺に作る)
二十)寸口脈浮而して緊、浮なるは則ち風を為し、緊なるは則ち寒と為す。風は則ち衛を傷り、寒は則ち栄を傷る。栄衛俱に病むは、骨節煩疼す、当にその汗を発すべき也。
二一)趺陽脈遅而して緩なるは、胃氣、経の如き也。
趺陽脈浮而して数、浮なるは則ち胃を傷り、数なるは則ち脾の動ず。此れ本病に非ず、医特にこれを下すの所為なり。栄衛内陷し、その数先ず微なるが、脈反て但だ浮、その人必ず大便鞕く、氣噫(あい)而して除く。
何を以てこれを言うか?
本、数脈を以て脾動ず、その数先ず微す、故に知脾氣の治らず、大便鞕く、氣噫而して除くを知る。今脈反て浮なり、その数、微に改り、邪氣独り留まり、心中則ち飢え、邪熱は穀を殺せず、潮熱渇を発し、数脈は当に遅緩なるべし。脈の前後度数に因ること法の如し、病者則ち飢え、数脈時ならずして、則ち悪瘡を生ずる也。
二二)師曰く、病人の脈微而して濇なる者、此れ医の為に病む所なり。大いにその汗を発し、又 数々(しばしば)大いにこれを下し、その人亡血す。病、当に悪寒し、後乃ち発熱し休止する時無し。夏月盛熱なるも、複衣を著けんと欲し、冬月は盛寒なるも、その身を裸せんと欲す。然る所以の者は、陽微なれば則ち悪寒し、陰弱なれば則ち発熱す。此れ医がその汗を発して、陽氣をして微ならしむ。又、大いにこれを下し、陰氣をして弱ならしむる。五月の時、陽氣は表に在りて、胃中は虚冷す。陽氣内に微なるを以て、冷に勝つこと能わず、故に複衣を著けんと欲す。十一月の時、陽氣は裏に在りて、胃中煩熱す。陰氣内に弱なるを以て、熱に勝つこと能わず、故にその身を裸せんと欲す。又、陰脈遅濇なる、故に亡血を知る也。
二三)脈浮而して大、心下は反て鞕く、熱有りて臓に属する者は、これを攻む。汗をして発せしめず。腑に属する者は、溲(尿)をして数ならしめず。溲数なるときは則ち大便鞕す、汗多ければ則ち熱愈ゆる。汗少なるときは則ち便難し。脈遅なるは尚(なお)未だ攻むべからず。
二四)脈浮而して洪、身汗すること油の如く、喘而して休まず、水漿は下らず、形体不仁して、乍ち静乍ち乱る、此れ命絶と為す也。又、未だ何れの臓に先にその災いを受くるかを知らず。若し汗出でて髪潤い、喘して休まざる者は、此れ肺先に絶するを為す也。陽反て独り留まり、形体の煙熏の如く、直視して頭揺れる者は、此れ心絶と為す也。唇吻反て青く四肢漐習する者は、此れ肝絶を為す也。
環口黧黑(りこく)、柔汗、黄を発する者は、此れ脾絶と為す也。溲便遺失し、狂言、目反直視する者は、此れ腎絶と為す也。又、未だ何れの臓の陰陽前(さき)に絶するかを知らず。若し陽氣前に絶し、陰氣後に竭きる者は、その人死して、身の色必ず青し。陰氣前(さき)に絶し、陽氣後に竭きる者、その人死して、身の色必ず赤しく、腋下温にして、心下熱する也。
二五)寸口脈浮大而して医反てこれを下す。此れを大逆と為す。浮なれば則ち血無く、大なれば則ち寒と為す。寒氣相い搏つときは、則ち腸鳴を為す。医乃ち知らず、而して反て冷水を飲み、汗をして大いに出さしむる。水は寒氣を得て、冷は必ず相搏ちて、その人即ち䭇する(音は噎、下も同じ)。
二六)跌陽脈浮、浮なるは則ち虚と為し、浮虚相い搏つ、故に氣をして䭇せしむ。胃氣の虚竭を言う也。脈滑なれば則ち噦と為す。此れ医の咎を為す、虚を責め実を取る、空を守り血に迫る。脈浮、鼻中燥する者は、必ず衂する也。
二七)諸脈浮数は、当に発熱而して洒淅惡寒すべし。若し痛処あり、飲食の常の如くなる者は、積を蓄え膿ある也。
二八)脈浮而して遅、面熱し赤く而して戦惕する者、六七日当に汗出で而して解するべし。反て発熱する者は、差(い)えること遅し。遅は無陽と為し、汗を作すること能わず、その身必ず痒き也。
二九)寸口脈、陰陽俱に緊なる者は、法当に清邪が上焦に中り、濁邪は下焦に中るべし。清邪は上に中るを、名を潔と曰う也。濁邪の下に中るを、名を渾と曰う也。
陰、邪に中れば、必ず内慄する也。表氣微しく虚し、裏氣守らず、故に邪をして陰に中らしむる也。陽、邪に中れば、必ず発熱頭痛し、項強、頚攣、腰痛、脛酸す。
陽、霧露の氣に中るの為す所、故に清邪、上に中ると曰う。濁邪、下に中れば、陰氣は慄を為し、足膝逆冷し、便溺妄出す。表氣微しく虚し、裏氣は微急し、三焦相い溷じ、内外通ぜず、上焦怫(音佛、下同じ)鬱す。臓氣相い熏じて、口爛食断する也。
中焦治せざれば、胃氣は上衝し、脾氣は転ぜず、胃中は濁を為し、栄衛通ぜず、血凝りて流れず。
若し衛氣前に通ずる者は、小便赤黄し、熱と相い搏ち、熱に因りて経絡に遊び、臓腑に出入せしむる、熱氣の過ぎる所、則ち癰膿を為す。
若し陰氣前に通ずる者は、陽氣厥微なれば、陰の使うる所無し、客氣内に入り、嚔し而して之を出す。声嗢(むせ)び咽塞ぐ。寒厥相い追い、熱の為に擁する所、血凝りて自ずと下ること、(その)状、豚肝の如し。陰陽俱に厥し、脾氣孤弱し、五液注下す、下焦は盍(あう・おおう)わず(一つに闔を作す)、清便下重し、便をして数ならしめ、齊(臍)築湫として痛み、命将に全すること難し。
三〇)脈陰陽俱に緊なる者、口中の氣出で、唇口乾燥し、踡臥足冷し、鼻中涕出づる。舌上胎滑には、勿妄りに治すること勿れ。七日以来に到り、其の人微しく発熱す。手足温なる者は、此れ解せんと欲するを為す。或いは八日以上に到り、反て大いに発熱する者は、此れ治し難しと為す。設(も)し悪寒せしめる者は、必ず嘔せんと欲する也。腹内痛む者は、必ず利せんと欲する也。
三一)脉陰陽俱に緊、吐利に至り、其の脉独り解せず、緊去れば人安んずる。此れ解せんと欲するを為す。若し脉遅、六七日に至り食せんと欲せず、此れ晩発を為す、水停するが故也。未だ解せざるを為す。食自ら可なる者は、解せんと欲すを為す。
病六七日、手足三部の脉皆な至り、大いに煩し、口噤して言うこと能わず。其の人躁擾する者は、必ず解せんと欲する也。若し脉和し、其の人大いに煩し、目重く、瞼内際黄なる者は、此れ解せんと欲する也。
三二)脉浮にして数、浮は風を為し、数は虚を為す。風は熱を為し、虚は寒と為す、風虚相い搏つときは、則ち洒淅惡寒する也。
三三)脉浮にして滑、浮は陽を為し、滑は実を為す。陽実相い搏てば、其の脉数疾、衛氣は度を失し、浮滑の脉は数疾(となる)、発熱して汗出する者は、此れ不治と為す。
まずは脈の陰陽を説く
まっ先に脈の陰陽を説くスタイルは『難経』と共通しています。「脈象の陰陽」から「証の順逆(生死吉凶)」を判断することがまず第一条にあります。
次の第二条では「便の秘結」と「病の日数」と病の劇症化について、第三条では「悪寒」「発熱」について説く流れはいかにも『傷寒論』的な構造だと思います。
陰脈と陽脈
脈の陰陽を説くだけでなく「陽脈」「陰脈」という表現が登場するのは1条文・3条文・4条文・8条文(22条文は陰脈のみの登場)。
このように具体的な脈象ではなく、“陰陽”という解釈の幅が広い言葉で表現する文は要注意です。“解釈の幅が広い”ということは解釈は一つではないということです。このことは「陰陽」という表現が用いられる全ての文に通ずると考えています。
傷寒病に発生する戦慄という症状
条文11・上文12・上文13には「戦」という文字が登場します。この戦とは「戦慄」のこと。
この戦慄という症状(現象)は、傷寒病を解する上で実は重要なプロセスを意味します。原文をみると分かりやすと思います。「戦而汗出、因得解者」と条文11にあります。続く12・13条文には「不戦而汗出解」「不戦不汗出而解」とあります。
戦慄は傷寒病の治癒過程の一つに現れる現象(症状)です。治癒過程の現象といえば、傷寒論では「発汗(発熱)」がよく知られています。
〔悪寒→発熱→発汗→治癒〕のプロセスです。
しかしこのプロセスに「戦慄」を加えて考える必要があります。そうすると次ようなプロセスになります。【悪寒→戦慄→発熱→発汗→治癒】
このプロセスは発熱の機序を考えるとそう難しい考えではありません。
しかし、この弁脈法の条文11~14で面白いのは、「戦而汗出、因得解者」「不戦而汗出解」「不戦不汗出而解」とあり、①「戦慄して汗出し治癒する」パターン、②「戦慄せずに汗出して治癒する』パターン、そして③「戦慄せず汗出もせずに治癒する」パターンを挙げて、その素体の虚実を示しています。
条文11
問曰、病有戰而汗出、因得觧者、何也。
答曰、脉浮而緊、按之反芤、此為本虚。故當戰而汗出也。其人本虚。是以發戰、以脉浮、故當汗出而觧也。若脉浮而數、按之不芤、此人本不虚。若欲自觧、但汗出耳。不發戰也。
条文12
問曰、病有不戰而汗出觧者、何也。答曰、脉大而浮數、故知不戰汗出而觧也。
条文13
問曰、病有不戰不汗出而觧者、何也。答曰、其脉自微、此以曾發汗、若吐若下若亡血。以内無津液。此陰陽自和、必自愈。故不戰不汗出而觧也。
条文11では「本虚」という言葉で“素体の虚”を示しています。「本来、傷寒は脈浮而緊であるはずなのに、セオリーに反して芤脈が現われている。これは患者の本来の素体が虚であるからである。」それ故に、その治癒過程では「戦慄を発することで脈が浮き、汗を発して病が解する」のである。
そして条文11の後半には本虚ではないケースの自愈パターンを記しています。(上記にいうパターン②)
条文12は一見すると条文11の後半にも似ています。「但汗出耳。不発戦也」(条文11)に対し、条文12は「病有不戦而汗出解」「脈大而浮数」です。この脈証からみても虚の要素は見えないかもしれません。しかしこの「脈大」を主に表記している点に注目すべきです。大脈は一見実脈にもみえますが、その背後には「裏虚」の要素が潜んでいます。
この「裏虚」の要素を含めみると、戦慄を発することができず、ただ汗出して解するのです。
さらに条文13にはパターン③「戦慄せず汗出もせずに治癒する」過程が記されています。パターン③は前述の「本虚」よりもさらにグレードが深く「内無津液」と記しており、その理由に「以曾発汗、若吐若下若亡血」と誤治を例に挙げています。
この文から、誤治の深刻さがよくわかります。
汗・吐・下・亡血により津液を失った結果、深い裏虚が形成されます。脈そのため証は「微脈」を示し、戦慄を発するだけの体力もありませんし、汗を出すだけの津液もありません。故に「不戦不汗」となり激しい症状を呈することなく、静かに自愈していきます。
以上の解説は、内藤一門による『傷寒雑病論類編』を大いに参考にしてます。
季節による脈の変異をどうみる?
条文16にも面白いことが書かれています。
条文16)
師曰、立夏得洪(一作浮)大脉、是其本位。其人病身體苦疼重者、須發其汗。若明日身不疼不重者、不須發汗。若汗濈濈自出者、明日便觧矣。何以言之、立夏脉洪大、是其時脉。故使然也。四時倣此。
夏季になると、脈は洪大脈(または浮大脈)をあらわします。一見すると熱病・表証の脈と酷似しています。ここで夏季の脈をわざわざ持ち出したことには意味があると考えます。
というのも、傷寒中風は外邪(風寒邪)に侵入されることで発病します。これら風寒邪は冬季になるとその傷害性は高まり人体を傷つけ発病させます。そして冬季の平脈はいうまでもなく「石脈(沈脈)」です。そのため普段からの平脈(沈脈)が浮脈に変化すれば、太陽病に罹患したことは容易に判定できます。
しかし、その罹患時期が夏季となればどうでしょう?
発病する前からすでに「鉤脈(洪脈)」の状態にあります。洪脈は必然的に陽(外・浮)に張り出すため、太陽表証や陽明経病の病脈(浮脈・洪大脈)を鑑別するためには、その難易度が上がります。
冒頭文には「本位」とあるように、四時に則した脈であることを示しています。その情報から、裏虚ではなく裏和(裏和表病)の状態であることがわかります。故にこの状態で病んだとしても発汗法が適する…と続く文にあります。
条文16では、最も分かりやすい組み合わせ(表証病脈と冬季)を例に挙げて、鑑別診断の応用問題を出してくれています。なので、最後に「他の季節もこれに倣って鑑別診断するように(四時倣此)」とまとめているのです。
このように季節の理と人体・脈の理を解した上で、その変に応ずることが肝要です。
鍼道五経会 足立繁久
傷寒卒病論集 ≪ 弁脈法 第一 ≫ 平脈法 第二 ≫ 傷寒例第三
原文 辨脉法
■原文 辨脉法
傷寒論巻第一
漢 張仲景述
晋 王叔和撰次
宋 林 億校正
明 趙開美校刻
沈 琳仝校
辨脉法第一
1)問曰、脉有陰陽何謂也。答曰、凡脉大浮數動滑、此名陽也。脉沈濇弱弦微、此名陰也。凡陰病見陽脉者生、陽病見陰脉者死。
2)問曰、脉有陽結陰結者、何以別之。
答曰、其脉浮而數、能食不大便者、此為實。名曰陽結也。期十七日當劇。其脉沈而遅、不能食、身體重、大便反鞕(音硬下同)名曰陰結也。期十四日當劇。
3)問曰、病有洒淅惡寒、而復發熱者、何。
答曰、陰脉不足、陽徃從之。陽脉不足、陰徃乘之。
曰、何謂陽不足。答曰、假令寸口脉微、名曰陽不足。陰氣上入陽中、則洒淅惡寒也。
曰、何謂陰不足。答曰、尺脉弱、名曰陰不足。陽氣下䧟入陰中、則發熱也。
4)陽脉浮(一作微)、陰脉弱者、則血虚、血虚則筋急也。其脉沈者、榮氣微也。其脉浮而汗出如流珠者、衛氣衰也。榮氣微者、加焼針、則血留不行。更發熱而躁煩也。
5)脉藹藹如車葢者、名曰陽結也。(一云秋脉。)
脉累累如循長竿者、名曰陰結也。(一云夏脉。)
脉瞥瞥如羹上肥者、陽氣微也。
脉榮榮如蜘蛛絲者、陽氣衰也。(一云陰氣。)
脉綿綿如瀉漆之絶者、亡其血也。
6)脉来緩時一止復来者、名曰結。脉来數、時一止復来者、名曰促(一作縦)。脉陽盛則促、陰盛則結。此皆病脉。
7)陰陽相搏、名曰動。陽動則汗出、陰動則發熱。形冷惡寒者、此三焦傷也。若數脉見於關上、上下無頭尾、如豆大、厥厥動搖者、名曰動也。
8)陽脉浮大而濡、陰脉浮大而濡、陰脉與陽脉同等者、名曰緩也。
9)脉浮而緊者、名曰弦也。弦者状如弓弦、按之不移也。脉緊者、如轉索無常也。
10)脉弦而大、弦則為減、大則為芤。減則為寒、芤則為虚。寒虚相搏、此名為革。婦人則半産漏下、男子則亡血失精。
11)問曰、病有戰而汗出、因得觧者、何也。
答曰、脉浮而緊、按之反芤、此為本虚。故當戰而汗出也。其人本虚。是以發戰、以脉浮、故當汗出而觧也。若脉浮而數、按之不芤、此人本不虚。若欲自觧、但汗出耳。不發戰也。
12)問曰、病有不戰而汗出觧者、何也。答曰、脉大而浮數、故知不戰汗出而觧也。
13)問曰、病有不戰不汗出而觧者、何也。答曰、其脉自微、此以曾發汗、若吐若下若亡血。以内無津液。此陰陽自和、必自愈。故不戰不汗出而觧也。
14)問曰、傷寒三日、脉浮數而微、病人身涼和者、何也。答曰、此為欲觧也。觧以夜半。脉浮而觧者、濈然汗出也。脉數而觧者、必能食也。脉微而觧者、必大汗出也。
15)問曰、脉病欲知愈未愈者、何以別之。答曰、寸口關上尺中三處、大小浮沈遅數同等、雖有寒熱不觧者、此脉陰陽為和平。雖劇當愈。
16)師曰、立夏得洪(一作浮)大脉、是其本位。其人病身體苦疼重者、須發其汗。若明日身不疼不重者、不須發汗。若汗濈濈自出者、明日便觧矣。何以言之、立夏脉洪大、是其時脉。故使然也。四時倣此。
17)問曰、凡病欲知何時得、何時愈。答曰假令夜半得病者、明日日中愈。日中得病者、夜半愈。何以言之。日中得病、夜半愈者、以陽得陰則觧也。夜半得病、明日日中愈者、以陰得陽則觧也。
18)寸口脉浮為在表、沈為在裏。數為在府、遅為在藏。假令脉遅、此為在藏也。
19)趺陽脉浮而濇、少陰脉如経者、其病在脾。法當下利。何以知之。若脉浮大者、氣實血虚也。今趺陽脉浮而濇、故知脾氣不足、胃氣虚也。以少陰脉弦、而浮(一作沈)纔見、此為調脉。故稱如経也。若反滑而數者、故知當屎膿也。(玉函作溺)
20)寸口脉浮而緊、浮則為風、緊則為寒。風則傷衛、寒則傷榮。榮衛俱病、骨節煩疼、當發其汗也。
21)趺陽脉遅而緩、胃氣如経也。趺陽脉浮而數、浮則傷胃、數則動脾。此非本病、醫特下之㪽為也。榮衛内䧟、其數先微、脉反但浮、其人必大便鞕、氣噫而除。何以言之。本以數脉動脾、其數先微、故知脾氣不治、大便鞕、氣噫而除。今脉反浮、其數改微、邪氣獨留、心中則飢、邪熱不殺穀、潮熱發渇、數脉當遅緩。脉因前後度數如法、病者則飢、數脉不時、則生惡瘡也。
22)師曰、病人脉微而濇者、此為醫所病也。大發其汗、又數大下之、其人亡血。病當惡寒、後乃發熱無休止時。夏月盛熱、欲著複衣、冬月盛寒、欲裸其身。所以然者、陽微則惡寒、陰弱則發熱。此醫發其汗、使陽氣微。又大下之、令陰氣弱。五月之時、陽氣在表、胃中虚冷。以陽氣内微、不能勝冷、故欲著複衣。十一月之時、陽氣在裏、胃中煩熱。以陰氣内弱、不能勝熱、故欲裸其身。又陰脉遅濇。故知亡血也。
23)脉浮而大、心下反鞕、有熱屬藏者、攻之不令發汗。屬府者、不令溲數、溲數則大便鞕、汗多則熱愈。汗少則便難、脉遅尚未可攻。
24)脉浮而洪、身汗如油、喘而不休、水漿不下、形體不仁、乍静乍亂、此為命絶也。又未知何藏先受其災。若汗出髪潤、喘不休者、此為肺先絶也。陽反獨留、形體如煙熏、直視搖頭者、此為心絶也。唇吻反青四肢漐習者、此為肝絶也。
環口黧黑、柔汗發黄者、此為脾絶也。溲便遺失、狂言、目反直視者、此為腎絶也。又未知何藏陰陽前絶。若陽氣前絶、陰氣後竭者、其人死、身色必青。陰氣前絶、陽氣後竭者、其人死、身色必赤、腋下温、心下熱也。
25)寸口脉浮大而醫反下之。此為大逆。浮則無血、大則為寒、寒氣相搏、則為腸鳴。醫乃不知、而反飲冷水、令汗大出。水得寒氣、冷必相搏、其人即䭇(音噎下同)。
26)跌陽脉浮、浮則為虚、浮虚相搏、故令氣䭇、言胃氣虚竭也。脉滑則為噦。此為醫咎、責虚取實。守空迫血。脉浮、鼻中燥者、必衂也。
27)諸脉浮數、當發熱而洒淅惡寒。若有痛處、飲食如常者、畜積有膿也。
28)脉浮而遅、面熱赤而戰惕者、六七日當汗出而觧。反發熱者、差遅。遅為無陽、不能作汗、其身必痒也。
29)寸口脉陰陽俱緊者、法當清邪中於上焦、濁邪中於下焦。清邪中上、名曰潔也。濁邪中下、名曰渾也。
陰中於邪、必内慄也。表氣微虚、裏氣不守、故使邪中於陰也。陽中於邪、必發熱頭痛、項强頚攣、腰痛胫酸。所為陽中霧露之氣、故曰清邪中上、濁邪中下、陰氣為慄、足膝逆冷、便溺𡚶出。表氣微虚、裏氣微急、三焦相溷、内外不通、上焦怫(音佛下同)鬱。藏氣相熏、口爛食斷也。
中焦不治、胃氣上衝、脾氣不轉、胃中為濁、榮衛不通、血凝不流。若衛氣前通者、小便赤黄、與熱相搏、因熱作使、遊於経絡、出入藏府、熱氣㪽過則為癰膿。若陰氣前通者、陽氣厥微、陰無㪽使、客氣内入、嚔而出之、聲嗢(乙骨切)咽塞。寒厥相追、為熱所擁、血凝自下、状如豚肝。陰陽俱厥、脾氣孤弱、五液注下、下焦不盍(一作闔)、清便下重、令便數、齊築湫痛、命将難全。
30)脉陰陽俱緊者、口中氣出、脣口乾燥、踡臥足冷、鼻中涕出、舌上胎滑、勿妄治也。到七日以来、其人微發熱、手足温者、此為欲觧。或到八日以上、反大發熱者、此為難治。設使惡寒者、必欲嘔也。腹内痛者、必欲利也。
31)脉陰陽俱緊、至於吐利、其脉獨不觧、緊去人安。此為欲觧。若脉遅至六七日不欲食、此為晩發、水停故也。為未觧、食自可者、為欲觧。病六七日、手足三部脉皆至、大煩而口噤不能言。其人躁擾者、必欲觧也。若脉和、其人大煩、目重、瞼内際黄者、此欲觧也。
32)脉浮而數、浮為風、數為虚。風為熱、虚為寒、風虚相搏、則洒淅惡寒也。
33)脉浮而滑、浮為陽、滑為實。陽實相搏、其脉數疾、衛氣失度、浮滑之脉數疾發熱汗出者、此為不治。
34)傷寒欬逆上氣、其脉散者死、謂其形損故也。