『宋版傷寒論』痓湿暍病第四の原文と書き下し文

痓湿暍病痙湿暍病編について

現代に伝わる『傷寒論』は、著者張仲景だけでなく、王叔和・林億・趙開美・沈琳らの手によって編纂され現代に伝えられています。しかしその過程で「弁脈法」「平脈法」「傷寒例」「痓湿暍病編」が加わったと言われています。本記事では『宋版傷寒論』に収録される痓湿暍病編第四を紹介します。


※『傷寒論』京都大学付属図書館より引用させていただきました。

※以下に書き下し文、次いで足立のコメントと原文を紹介。
※現代文に訳さないのは経文の本意を損なう可能性があるためです。口語訳は各自の世界観でお願いします。

書き下し文 弁痓湿暍病編第四

■書き下し文 弁痓湿暍脈証 第四

弁痓湿暍脈証第四(痓の音、熾(シ)、又、痙とも作す。巨郢切、下同じ)

114)傷寒の致す所の太陽病には、痓・湿・暍の此れら三種、宜しく應(まさ)に別に論ずべし。傷寒と相い似るを為すを以ての故に此こに之を見(あら)わす。

115)太陽病、発熱、汗無く、反て悪寒する者、名を剛痓と曰う。

116)太陽病、発熱、汗出で、而して悪寒せざる(『病源』に云う、悪寒)は、名を柔痓と曰う。

117)太陽病、発熱、脈沈而して細なる者、名を痓と曰う。

118)太陽病、発汗太(はなは)だ多ければ、因りて痓を致す。

119)病、身熱し足寒え、頸項強急し、悪寒し、時に頭熱面赤し、目脈赤く、独り頭面揺し、卒かに口噤し、背反張する者は、痓病也。

<120)太陽病、関節疼痛、而して煩す、脈沈而して細(一作に緩)なる者、此れ湿痺と名づく(一に云う、中湿)
湿痺の候、其の人、小便不利、大便反て快し。但だ當にその小便利すべし。

121)湿家の病為(た)る、一身盡疼し、発熱、身の色熏黄に似たるが如し。

122)湿家、その人但だ頭汗出で、背強ばり、被覆して火に向うことを得んと欲す。
若し之を下すこと早ければ則ち噦し、胸満し、小便不利、舌上の胎の如き者は、丹田有熱、胸中有寒を以て、渇して水を得んと欲し、而して飲むこと能わず、口は燥き煩する也。

123)湿家これを下し、額上に汗出で、微喘し、小便利(一に云う不利)する者は死す。
若し下利の止まざる者も、亦た死す。

124)問うて曰く、風湿相い搏ち、一身盡疼する。病、法當に汗出で而して解すべし。
天の陰雨が止まざるに値(あ)う。医の云うに、此れ汗を発すべし、と。之を汗して病の愈えざる者は、何ぞ也?
答えて曰く、其の汗を発し、汗大いに出づる者は、但だ風氣のみ去り、湿氣は在あり。是れ故に愈えざる也。
若し風湿を治する者は、其の汗を発すに、但だ微微として汗を出ださんことを欲するに似たる者は、風湿俱に去る也。

125)湿家の病、身上疼痛、発熱、面黄ばみて喘し、頭痛み鼻塞りて煩す、其の脉大、自ら能く飲食し、腹中和して病無し。病は頭に在り、寒湿に中るが故に鼻塞する。薬を鼻中に内(い)れて則ち愈ゆる。

126)病者、一身盡疼し、発熱し、日晡所に劇しき者は、此れ風湿と名づく。
此の病、汗出でて風に當(あた)るに於いて傷れる。或いは久しく冷を取るに傷られて致す所也。

127)太陽中熱なる者は、暍(えつ)是れ也。其の人、汗出で悪寒し、身熱して渇する也。

128)太陽中暍なる者は、身熱疼重して、脉微弱なり。此れ夏月に冷水に傷られ、水が皮中を行るを以て致する所也。

129)太陽中暍なる者、発熱悪寒、身重くして疼痛す、其の脉弦細芤遅。小便已(おわ)り洒洒然として毛聳(そばだ)ち、手足逆冷す。
小しく労有れば、身は即ち熱す。口開けば前板歯は燥く。
若し発汗すれば則ち悪寒は甚し。
温鍼を加えれば則ち発熱すること甚だし。
数(しばしば)之を下せば則ち淋すること甚だし。

痓病・湿病・暍病について

『宋版傷寒論』には太陽病編に入る前に、痓湿暍病編があり、痓病・湿病・暍病について説かれています。

「痓病」の大きな特徴は痙攣、痓は痙攣の痙に相当します。
「湿病」とは湿邪を主病因とする病です。
「暍病」とは熱邪(暑邪)に中ることで起こる病です。

これら三病は、燥邪・湿邪・暑邪(熱邪)の強い影響を受けることで起こる病なのです。

では、なぜ暑湿燥の邪が登場するのでしょうか?
『傷寒論』は風寒の邪を想定した脈証(症)併治を論ずる書です。とくに“天地殺厲の氣”とも呼称される寒邪を主体としています。しかし、外感病の病因となるのは寒邪・風邪だけではありません。風寒暑湿燥火と呼ばれる六淫・六氣があります。
これら風寒の邪ではない外邪に傷害を受けた場合の病症・病理を説いているのが、本編になります。

痓病は破傷風なのか?

痓病の場合、その病理が条文119に、病症が条文118に記されています。その症状の一つ「卒口噤、背反張」の印象が強すぎるようで、痓病=破傷風といった説明をよく見ますが、決してそうではありません。(破傷風は開口障害や後弓反張が特徴)

太陽病の「悪寒・戦慄・発汗」が強すぎる or 長期化することで、表位での津液が損なわれ燥化した結果、痓病が起こる可能性があります。

筆者の痓病体験記

私自身にも痓病の経験があります。(身の上話で申し訳ありませんが…)
たしか私もまだ30代前半だった頃、友人の結婚式を控え(私は二次会の司会進行役を任されていました)、その打ち合わせの日でした。
冷房のよく効いた店内(たしか不二家さん)、突然に激しい悪寒に見舞われました。まだ若く体力もあったので、とりあえず我慢しました。その結果、悪寒はさらに激しくなり、次第に戦慄(振戦)まで発するようになりました。その日は昼から夜まで、複数回の悪寒と戦慄の襲来に耐えることとなりました。
さてミーティングが終わって、帰宅しようにも電車に乗ることもツラく、途中(乗り換え駅にて)タクシーに乗り込み、なんとか這う這うの体で帰宅。帰宅後は、蒲団にくるまりブルブルと震えているところに、口噤・反張が襲ってきたのです。
この時『噫、これが痓病でいう反張というヤツか~』と、症状に苦しみながらも、心のどこかで感動していたのも覚えています。
妻に頼んで葛根湯をお湯に溶いてもらい、それを服用しましたが‥‥。あのときの葛根湯の美味しさは忘れられませんね。普通の葛根湯の味ではなく、腕の良い料理人が作ってくれたスープのような旨さを感じたのです。
そして、治癒後もしばらくの間は、筋肉の質も落ちて、体力や体の柔軟性などが明らかに低下したことも記憶に残っています。

…と(私事ではありましたが)以上のような経験を通じても「痓湿暍病編」の理解が広がったのでした。

このように痓病の体験の他にも、暍病の理解も年々ひどくなる夏の猛暑・酷暑の影響でイメージしやすくなるのではないでしょうか。

鍼道五経会 足立繁久

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原文 辨痙湿暍脉證 第四

■原文 傷寒卒病論集

辨痓湿暍脉證第四(痓音熾。又作痙。巨郢切、下同)

114)傷寒㪽致太陽病、痓濕暍、此三種。宜應別論、以為與傷寒相似、故此見之。
115)太陽病、發熱、無汗、反惡寒者、名曰剛痓。
116)太陽病、發熱、汗出、而不惡寒(病源云、惡寒)、名曰柔痓。
117)太陽病、發熱、脉沈而細者、名曰痓。
118)太陽病、發汗太多、因致痓。
119)病身熱足寒、頸項强急、惡寒、時頭熱面赤、目脉赤、獨頭面搖、卒口噤、背反張者、痓病也。
120)太陽病、關節疼痛而煩、脉沈而細(一作緩)者、此名濕痺(一云、中濕)濕痺之候、其人小便不利、大便反快。但當利其小便。
121)濕家之為病、一身盡疼、發熱、身色如似熏黄。
122)濕家、其人但頭汗出、背强、欲得被覆向火。若下之早則噦、胷満、小便不利、舌上如胎者、以丹田有熱。胷中有寒、渇欲得水、而不能飲、口燥煩也。
123)濕家下之、額上汗出、微喘、小便利(一云不利)者死。若下利不止者、亦死。
124)問曰、風濕相搏、一身盡疼、病法當汗出而觧。値天陰雨不止。醫云、此可發汗。汗之病不愈者、何也。
答曰、發其汗、汗大出者、但風氣去、濕氣在。是故不愈也。若治風濕者、發其汗、但微微似欲出汗者、風濕俱去也。
125)濕家病、身上疼痛、發熱面黄而喘、頭痛鼻塞而煩、其脉大、自能飲食、腹中和無病、病在頭、中寒濕、故鼻塞。内藥鼻中則愈。
126)病者一身盡疼、發熱、日晡㪽劇者、此名風濕。此病傷於汗出當風。或久傷取冷㪽致也。
127)太陽中熱者、暍是也。其人汗出惡寒、身熱而渇也。
128)太陽中暍者、身熱疼重、而脉微弱、此以夏月傷冷水。行皮中㪽致也。
129)太陽中暍者、發熱惡寒、身重而疼痛、其脉弦細芤遅。小便已洒洒然毛聳。手足逆冷、小有勞、身即熱。口開前板齒燥。若發汗則惡寒甚。加温針則發熱甚。數下之則淋甚。

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